好きだと言われて、初めて気づくこともある。

りつ

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自分の気持ち

 まるで何かに急き立てられるように階段を降り、長い廊下を歩き続けた。心臓が音を立てて驚いている。何にだろう。わからない。でも今すぐにでも逃げ出したい。そう思って、校舎から外へと出て、冷たい風が頬を撫でるまでわたしは足を止めなかった。

「ヴァイオレット」

 はっと顔を上げる。ヒューバートだった。彼は一人だった。ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 ――もう大丈夫。そう思って震える手を握りしめた。

「まだ残っていたのか」
「ええ、ちょっと図書室に用事があって……」
「……何かあったのか」

 彼の言葉にゆっくりと視線を合わせる。いつもと変わらぬ表情でいて、心配した瞳。

 ――私、彼のことが好きなんです。

「ヴァイオレット」

 少し上ずった、困惑した声がする。抱きついて、彼の香りを吸い込んだから。苦しくてたまらなかった胸が、酸素を吸い込んだように楽になっていく。

 どうしたんだ、と彼の声には先ほどの混乱はなく、ただ落ち着いて、突然抱きついたわたしを心配していた。そんな彼の態度になぜかまた苦しくなる。おずおずと離れ、彼の胸元を見つめながら言った。

「ううん。何でもないの。ごめんなさい」
「きみは変なところで強がるな」

 言いたくない。だから何も聞かないで。
 わたしの無言の主張に気づいた彼はそれ以上何も聞かなかった。

 ただわたしの手をとり、帰ろうと歩き始めた。歩幅が違うので、彼はわたしに合わせてゆっくり歩いてくれる。小さい頃は同じだったのにわたしよりも大きくなったのだというその違いがどうしようもなく寂しい。

「遅くまで残っていると危ないと言いたかったが……」
「うん?」
「きみと一緒に帰れて嬉しい」

 わたしを見て目を細めたヒューバート。そんな表情をするのはきっとわたしの前だけだ。どうかわたしだけであって欲しい。繋いで手を強く握り返した。

「わたしも……嬉しい」
「そうか」

 淡々としているようで、優しい声。怯えていたわたしはふと、まるっきり逆の感情が胸に湧きおこってくるのを感じた。怒りにも似た、激しいもの。

 ――誰にも見せたくない。渡したくない。


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