いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ

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18、実家からの手紙

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 帰り道。マリアはジークハルトに手を引かれながら無言だった。

「……マリア。怒っているか?」
 
 無理矢理に近い形で、しかも外で抱いてしまったことを反省している表情だった。抱いて帰ると言った彼の申し出をいいとそっけなく断ったので、余計にそう見えたのかもしれない。

「いいえ。わたしも結局受け入れて……途中から、気持ちよくなってしまいましたから……」

 初めて中で達していつもよりもかなり乱れてしまった。冷静になった頭で思い返して、悶えるほどの羞恥心に襲われているのだ。

(事が終わったあとも、ジークハルト様の手を煩わせてしまって……)

 ジークハルトはマリアを自身の肩に掴まらせると、濡れそぼった秘所をハンカチで拭ってくれた。彼は綺麗にしてくれているだけだというのにマリアは腰を揺らして声も出してしまった。

 加えて拭いたハンカチをジークハルトは丁寧に折り畳んで自身のポケットにしまっていたので、マリアは気になって仕方がない。ジークハルトのことだろうから洗濯してまた使うのだろうが……。

「マリアが気持ちよくなってくれると、俺も嬉しい。だから恥ずかしがる必要はない」
「……はい」

 まだ恥ずかしがるマリアにジークハルトは申し訳ないと思ったのか、悪いと謝った。

「白状すると、少しアルミンたちに妬いていたんだ」
「えっ?」

 聞き間違いかと思って顔を上げれば、ジークハルトは気まずそうに頬をかいた。

「その、彼らがあまりにマリアに懐いて、あなたもアルミンたちを可愛がっているから……たまには二人きりになりたかったんだ」
「えっと……では、もしかしてラウルたちがアルミンたちを連れて行ったのも……」
「俺のそうした気持ちに気づいて、気を利かせてくれたのだと思う」

 ジークハルトが自ら頼んだのではなく、ラウルたちの方から気遣ってくれたみたいだ。

 言われてみると、確かに段取りが良いというか、普段喧嘩しがちなラウルとヘリベルトの意見が妙に合っている気がした。

(ジークハルト様のことを考えてだったのね)

 ベルタも、そんな二人の計画に乗ったのだろう。

「マリア。呆れたか?」
「えっ、いいえ? 少し意外でしたけれど……むしろジークハルト様に寂しい思いをさせていたのに気づけなくて、ごめんなさい」

 妻として不甲斐ない。
 謝るマリアにジークハルトは慌てた。

「いや、年上である俺が子どもであるあの子たちに嫉妬している方がみっともないから」

 彼はマリアより九歳年が上である。立場やこれまでの積み重ねてきた経験から、ずっと大人に見える。

 ジークハルト自身、そういう自覚があるのだろう。

 だからどんな時でも常に余裕を持って、年下の妻に接しなければならないと言い聞かせていた。

「わたし、ジークハルト様にもそんな一面がおありだと知れて……嬉しいです」
「嬉しい、のか?」
「はい。好きな人の嫉妬は特別だと知りました」

 マリアが微笑めば、ジークハルトは珍しく微かに頬を染めた。

「そうか。特別、か……」
「はい。だから、えっと……気にしないでください」

 互いに気まずくなって目を逸らしてしまうが、またおずおずと顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 ジークハルトとの距離が以前よりも近くなって、マリアはこの日を忘れないだろうと思った。

「――あっ、やっと帰ってきた!」
「ジークハルト様とマリア様、帰ってくるの遅かったね」

 帰宅後アルミンとヴィリーに何をしていたの? と不思議そうに尋ねられた。その後ろではラウルがニヤニヤして、ヘリベルトとベルタは生温かい目をして自分たちを見ていた。

 彼らの反応も含めて、決して忘れられないだろうなとマリアは顔を赤くして俯いた。

     ◇

「奥様。次はこちらの帳簿もご確認ください」
「はい」

 ジークハルトと結婚して、そろそろ半年が経とうとしている。

 城での生活、女主人としての仕事もだいぶ慣れてきた。

(まだだいぶ量を減らされているからできているのだけれど……)

 それでもみんな少しずつでいいと言ってくれて、また上手くできなくてもきっと助けてくれるという安心感から、マリアはもう以前のように不安に包まれることなく、毎日穏やかな気持ちで過ごせていた。

 ジークハルトとも、昼間は互いにすべきことがあるので顔を合わせることはできないが、夜は仲睦まじく寄り添って、一日の出来事を話したりした。

 ……不意に沈黙が訪れると、自然と顔を寄せられてそのまま夫婦の閨事になるのが、まだ少し慣れなかったが。

 ほぼ毎晩抱かれているせいか、少し触れられるだけでマリアはお腹の奥が切なくなり、ジークハルトの愛撫にも以前よりさらに敏感に反応するようになった。

 ジークハルトもそんなマリアを悦ばせようと、中をじっくりと責め立ててくる。中でも快感を得られるようになったので、マリアは時々彼がわざと意地悪をしているのではないかと思うほど焦らされて、甘い声をひっきりなしに上げながら見悶えた。

「我慢しないで、もっと気持ちよくなってくれ」

 そうジークハルトは言ってくれるが、マリアにはまだ照れがあった。

(城には、大勢の使用人や騎士たちがいるんですもの)

 もちろん彼らが覗いたり聞いたりしていないことはわかっている。

 それでも王都の屋敷――城よりも小さく、使用人の数も少ない生活を送ってきたマリアには、まだ慣れない感覚だった。もう性分かもしれない。

 そんなふうに思いながらジークハルトに抱かれる日々であったが、それも含めて充実していると言えるかもしれない。

 そんなある日。

「マリア様。ご両親からお手紙が届いております」
「お父様たちから?」

 そして伯爵家だけでなく、王家からも手紙が届いていた。こちらはマリアだけでなくジークハルト宛てにもなっている。いったい何が書かれているのだろうかと緊張しながら目を通す。

「……王家の主催する舞踏会に夫婦で参加するように、と書かれているわ」

 リーデル伯爵たちはその舞踏会に出席するため王都へ戻るだろうから、一度実家へ顔を出すよう書かれていた。ぜひマリアに会いたいと……。

(何かあったのかしら……)

 そう思うのは、結婚以来こちらから定期的に手紙は送って何も音沙汰がなかったからだ。

 単に返信するのが面倒で書いていなかったとしたら、複雑な気持ちになる。

(……でも、仕方ないわね。ヒルデのことで忙しかったでしょうから)

 マリアが辺境伯へ嫁いだ後、ヒルデも第二王子のアロイスと結婚している。

 王都の大聖堂で華やかな結婚式を迎えたとずいぶん話題になったそうだ。

 一時行方不明になった過去を思えば、幸せそうな娘の花嫁姿に伯爵たちは涙したことだろう。

(舞踏会で会うことになるわよね? 緊張するわ)

 ドレスなど何を着ようかと悩むが、とりあえず一度ジークハルトと詳しい打ち合わせをしようと決めた。

「――ラウルたちは、残るのですか?」

 城に残ると言われて、マリアは驚いた。

 ジークハルトの補佐として仕えていたので、てっきり今回の遠出にもついてくると思っていた。

 マリアがそう言うと、ラウルはぐっと腕で涙を拭う素振りをして口にする。

「奥様。俺も本当は同席して、お二人のイチャラブを観察……いえ、見守りたいです。ですがっ」
「俺が留守になるからな。ラウルには残ってもらった方が、安心できる」

 ジークハルトにそこまで言われるとはよほど信頼されていると見た。

「あとは、王家をあまり刺激したくないからな」
「ラウルは以前、王家の嫌味に拳で返そうとしましたものね」

 ヘリベルトがさらっと驚愕の事実を述べ、ジークハルトやラウル本人も否定しなかった。

 見た目とは違って、熱血な面も持ち合わせているらしい。

「まぁ、あの時は俺も若かったからね。今はもう、そんなへまはしないさ。少なくとも、表で正々堂々とやり合うってのは、王家のやり方じゃない」

 何とも皮肉を込めた言い方にマリアはジークハルトの方を見た。

「王家とうちは仲があまりよくないことは伝えただろう? 年に何度か王都へ出向く機会があるんだが、まぁ……歓迎されているようで牽制されるんだ」

 歯切れ悪く答えられて、苦い経験をしたことを窺わせた。

「そうだったのですか……」
「ああ。だが今回は恐らく結婚した俺の様子見と、アロイス殿下ご夫妻をお披露目することが目的なのだろう。それが終わればすぐに帰ってくるつもりだ」
「せっかくだから、どうか楽しんできてください」

 珍しくヘリベルトがそんなことを言うのでジークハルトも驚いていた。

 ラウルがニッと笑って「いいね」と同調する。

「新婚旅行とかもさ、なかったわけだし。王都の華やかな店とか行って楽しんでこいよ」
「奥様との仲も深まるはずです」

 ジークハルトはふむ……と顎に手を当てて考え込む。

「そうだな……マリアをどこにも連れて行ってやれず申し訳なく思っていたから、ちょうどいい機会かもしれない」
「ジークハルト様。わたしは別に、気にしていませんから」
「いや。俺があなたと二人きりで出かけたいと思っていたから」

 ジークハルトは楽しもうとマリアに微笑んだ。

 マリアは正直伯爵夫妻やヒルデと再会することで今回の遠出を憂鬱に感じていたのだが、ジークハルトの笑顔にその気持ちが消えて、楽しみになってきた。

 しばらく留守にするということで、直前までジークハルトは騎士団員や家令に自分がいない間のことを指示していた。

「マリア様とジークハルト様に、しばらく会えないんですね」
「寂しい……」

 アルミンとヴィリーの寂しそうな顔にマリアも後ろ髪を引かれる思いであったが、お土産をたくさん買って帰ると約束すれば笑顔になってくれたのでほっとする。

「ベルタは、一緒について来てくれるのね」
「はい。慣れた人間がいた方が、奥様も安心するだろうと旦那様が……もちろん、私の意思でもあります」
「ありがとう。心強いわ。……そうだ。せっかくですもの。王都で美味しいデザートでも一緒に食べましょう。お店も見て回って、あなたに似合うものをプレゼントしたいわ」
「それは魅力的なお誘いですが……今回は遠慮いたします」
「どうして?」

 自分と出かけるのは嫌かとしょんぼり眉を下げれば、違いますと苦笑いされる。

「旦那様が奥様を独り占めなさるでしょうから、私の出る幕はないということです」
「それは……でも、向こうに滞在中ずっと一緒にいるのはさすがにないと思うわ」
「……」
「ベルタ? どうして沈黙するの?」

 ベルタは押し黙ったのち、わかりませんよとどこか脅かすように答えた。

「旅先は気持ちを大きくしますから。旦那様は奥様のことをいつでも可愛がりたいと思っているご様子ですし……今回は城の人間がいない状況も重なって、いつもより羽目を外してしまうかもしれません」

 マリアは目を丸くしたのち、朗らかに笑った。

「ジークハルト様は真面目な方よ。羽目を外すなんて――」

 するはずがない、と言いかけたマリアの脳裏に外で抱き合った時の光景が思い出される。

 獲物を狙うようなぎらぎらとした表情で自分を求めるジークハルトの姿が……。

 真っ赤になって言葉を失うマリアに、ベルタはようやく理解してくれたかと言うように頷いた。

「奥様はどうも旦那様からの好意を私たちが認識するより少なく見積もっているご様子なので、この機会に正しく理解なさってくださいませ」

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