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57.連れ戻された聖女

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「ナタリーが帰ってきた!?」

 なぜ。彼女が王宮へ戻るのはまだずっと先だったはずだ。

「何かあったのか」
「それが、」
「リアン!」

 ジョナスとリアンの方へアリシアが急いだ様子で駆けつけてくる。

「ナタリーが帰ってきたというのは本当?」
「王女殿下、なぜそれを……」
「そんなことどうでもいいわ。帰ってきたというのならば、一刻も早くお父様を治してあげて!」

 二人は思わず顔を見合わせる。

(まさか)

「……王女殿下。聖女を呼び戻すよう貴女が命じたのですか」
「そうよ」

 どうしてそんなこと尋ねるの? とアリシアは眉根を寄せた。リアンは眩暈がしそうであった。ジョナスも黙り込んだ。二人の様子にアリシアは憤慨した様子で続ける。

「だってお父様が体調を崩されたのよ? こんな時に聖女の力を使わないでいつ使うというの!?」

 アリシアにとって国王が大切な父親であることは理解している。けれどだからといって……

「医師たちは日頃の疲れが出たとおっしゃっていましたが」

 国王が気分が悪いと申したのは彼の誕生を祝った宴の席であった。食べきれないほどの料理や高級な酒が並べられていたが、その光景はつい二、三日前に見たものと同じであった。

(朝方まで毎日飲んでいれば胃も悲鳴をあげるだろう)

 要は消化不良、二日酔いの類で寝込んだだけなのだ。それなのにアリシアも臣下たちもみな狼狽し、医師たちに不治の病であるかどうか調べさせた。安静にしていればすぐに治るだろうと告げて事は済んだと思っていたが……

(まさかナタリーまで呼び戻すとは……)

「……とにかく、せっかく戻って来て下さったのです。診てもらいましょう」

 黙り込んでしまったリアンにジョナスがそう促した。

***

「アリシア様。聖女を連れて帰りました」

(ナタリー!)

 久しぶりに見る彼女の姿は今にも倒れそうであった。たまらずリアンは騎士に声をかける。

「おい、待て。少し休ませたらどうだ」
「何をおっしゃいますか! 急いで帰ってきた意味がありません」 
「……ここへ着くまでに何日かかった」

 騎士は訝し気な顔をして答えを口にした。リアンは一瞬聞き間違いかと思った。ほぼ一睡もせず馬を飛ばしてきたということである。女の身ではさぞ辛かったはずだ。

「なぜそんな無茶を!」
「なぜとは、当然ではありませんか。王女殿下の命令であり、国王陛下の命が関わっているのですよ」
「だからといって聖女に無茶させていい道理にはならない!」

 なおも騎士を問い詰めようとしたリアンだったが、「リアン、やめなさい」とアリシアに止められてしまう。

「彼はわたくしの命に忠実に従っただけ。そして言っていることに何か間違いがあるというの?」

 ある。そう答えたかったけれど、ジョナスの抑えろという目にナタリーの憔悴した――けれども心配した顔が目に入って、いいえと絞り出すように答えた。リアンの返事に満足したアリシアは「こちらへ」とナタリーを父親のもとへ連れていく。

「リアン。わたしは大丈夫だから」

 すれ違う際、ナタリーが囁くようにリアンに言った。

(どこかだよ……)

 心の中でそう言い返して、リアンは後を追いかけた。

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