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古い知り合い達

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私達はその後、再び冒険者ギルドへと戻ってきました。
ギルドの受付でモンスターの情報を買う事も出来るそうなので、そこで従魔師向けのスライムの詳細情報を手に入れようということらしいです。
丁度受付が混む時間帯なのか、列になってたので最後尾に並びます。

「そういえばアンタ、パーティの他の奴らは?」

それ、私も気になってたんですよー。ディロックは5人組の冒険者パーティのリーダーなんです。

「あーちょっと事情があってな…。」

なんか悲しそうに目を伏せて…、え、聞いちゃダメな話でしたか?
セルヴィスもちょっと戸惑ってたのに、返ってきたのは思いもよらないお返事。

「俺の従魔……、餌が気に入らんらしくストライキ中でな、今の俺ってば役に立たんのよ。って訳で強制的に留守番中だ!」

「リーダーも従魔師も失格じゃんかアンタ!!」

いいツッコミが入りました。やだセルヴィスったら、鋭いツッコミは健在ですね。ディロックは更にシュンとしてます。
リーダーには大事な指針を決めたりと役割あるんですけど、そのリーダーを強制的に留守番って…。

「あいつら、リーダーは今回の仕事の間に従魔が気に入る餌探せって置いていきやがって……。オレは栄養バランスも考えて愛情こめて手作りしてるのに……市販なんか、市販なんか!」

「愛情こもってても不味かったら喰わないから。むしろ従魔が哀れだから。」

あ、リーダーお留守番問題よりそっちのが重要ですか。
なんだかディロックにはこだわりがあるようですが、セルヴィスの意見に同意ですねー。
毎日のご飯ってとっても大事ですよ。マズイご飯だとそれだけでテンション下がりますし、食べてる間は不幸な気分ですし。

ちなみにセルヴィスのご飯はとっても美味しいんです!基本は私が教えましたが、セルヴィスは私より料理上手なんですっさすがセルヴィス!
スライムになってからは食べる必要はないようなんですが、美味しいので私も毎日いただいてます。


「それで餌は見つかったのか?」

「いやー、オレの愛情込めた手作りに勝るものはなかなか見つからなくてな。なんかヒントを貰えんかとここに来たらお前と出会ったわけで……お?」

ディロックの従魔さんは哀れですねぇと思いつつ聞いてたら、ふいに入り口の方を見たディロックが声をあげました。あら?


「あ、メシマズリーダーじゃん。たっだいまー!何してんのー?」

そこには丁度扉を開けて入ってくる男女4人組の姿が。
あらまぁ、この人達って!

「おぉ、お前ら!誰も怪我してないか?っていうかメシマズは余計だ!!」

懐かしのディロックのお仲間冒険者さん達じゃないですか!初めて会った時はあんなに弱いお子様冒険者だったのに、すっかりみんな大人になって!

今声をかけてきたのは猫獣人のリューラちゃんですね。小麦色の肌に金色のクリクリ大きな瞳がチャーミングなところ、全然変わっていませんね!茶色の耳に同じ色の短い髪がツンツン跳ねて、昔からお洒落より食い気な元気っ娘でしたがそこも変わりませんねぇ。尻尾が歩くたびにユラユラして相変わらず可愛いです。


「只今帰還した、リーダー。誰も怪我はしていない。あと料理については事実なのだから仕方なかろう。」

その後ろからゆっくり歩いてくるのは……えぇと、剣士のサイ君、でしょうか?昔は背伸びして一生懸命頑張ってる普通の子だったのに、随分凛々しく堅そうな感じになりましたね…。あの頃は肩までだった黒髪をピシッと高い位置で括って、それがまるで尻尾みたいです。
というか、目が獲物を狙う肉食獣のそれです、怖いです、鷹とか鷲とか連想しちゃいます。昔は仔猫の可愛さだったのに…。


「あら、セルヴィスさんじゃありませんか!お久しぶりです。どうしたんですか、ギルドにいるなんて。」

その後ろの妖艶な魔法使いの美女は……えーと誰でしょう?もしかしてクィンちゃん、ですか?あの小さくて泣き虫だった?いえ面影はあります。あの丁寧な口調、綺麗な緩いウェーブがかった金髪と濃い蜂蜜のような色の垂れ目はそのままですけど、まさかこんな妖艶美女に育つなんて。


「リーダーはともかく、リーダーの従魔クン達がいないのは痛いよ。僕一人で魔物の足跡追うとかどれだけ大変か。リーダーの役立たず。従魔クン達は置いてってよね。」

その隣は最年少の狩人カル君ですね。相変わらずの毒舌っぷりですね…。見た目は金髪碧眼のまさに物語の王子様のようなのに。「てやんでぇ!俺っちと従魔は一心同体でぇ!」ってディロックが反論してますが、そこですか?
あ、でも彼。私にはあまり本性見せてくれなかったし、これも仲間ならではの気安さなんでしょうか。


うーん、たった10年でみんな随分と大人になりましたねぇ。初めて会った時は駆け出し感たっぷりだったのに、今は偶に森で出遭った熟練ハンターと近い空気を感じます。魔物わたし達にとってはそうでもありませんが、人間の10年は本当に長いのですね…。


昔に想いを馳せているうちにも会話は進んで、どうして私達が町にいるのか説明されました。4人に私が見えやすいよう持ち上げられますが、今はお辞儀も無理なのです。挨拶も出来ず申し訳ありません。

「つまり従魔クン達のゴハンはまだ決まってないの?リーダー、どんだけ僕に迷惑かけるのさ。」

「仕方ねーだろ、恩人の家族にして友人が頼ってきたんだぞ!?これに答えなきゃ男が廃る!」

あ、ディロックは友人だと思ってくれてるのですね!?セルヴィス、セルヴィスは!?

「だから言ってるじゃーん。あたし達にゴハン任せてくれたら解決するよって!リーダーのメシマズで従魔ちゃん達も怒ってるんだからさ。」

「あの、私が従魔ちゃん達の分もゴハン作りますよ?あれはさすがに可哀そ…じゃなくて。えぇと5人分のゴハンに3匹分追加で作るくらい、大した手間じゃありませんから。」

「クィン、それは駄目だ!従魔のメシを用意するのも従魔師の仕事。あいつらのメシはオレが用意する!」

「……お前たち、話はそれくらいにしたらどうだ?彼はスライムの詳細情報を得にここに来たのだろう?俺たちも依頼品を提出に行かなければ。」

あら。話をまとめるのは今もサイ君なのですね。昔も必死に言い合いを止めてましたが、こんなところに面影が。
それにクィンちゃん、妖艶になっちゃいましたが中身はそのままです。優しくて家庭的!

「あーそうだな、先にそっち済ませるか。今回の収穫物は何だ?」

「今日はあんまり大物いなかったよー。水アントのはぐれが数匹と沼トカゲ。あとはゴブリンばーっか!」

ディロックの問いかけに、収穫が入ってるだろう頭陀袋を掲げて最後はやけっぱちのように叫ぶリューラちゃん。
あららぁ。仕方ありませんね…ゴブリンは弱いですが、群れで襲ってくる攻撃的な魔物です。しかも使える素材なんて何もないでしょうし。魔石だけは取れますが、極小のクズ魔石ですからね。

「二束三文にしかならないクズ魔石は大量だよー。ホラ。」

そう言って腰に下げた小さな袋からジャラッと取り出したのは小さな宝石のような魔石たち。
あの小ささならイミテーションの宝石代わりにしかならな───


───……っ?













……その、瞬間。

自分の体が、ズグンッ!と大きく震えるのを自覚して。



───私の意識は、完全に途切れたのです。
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