【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈百里原海軍航空隊〉

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 百里原ひゃくりはら海軍航空隊の所属になったヒロと僕は、他の同期と共に汽車に乗って常陸小川駅で降りた。 
 駅には航空隊からトラックが迎えに来ていて……飛行場は思ったより遠かった。
 実用機教程での訓練は益々厳しくて、教員は古参のベテラン搭乗員が多かった。

 霞ケ浦上空での「編隊飛行訓練」や、大洗崎沖での「雷撃訓練」が開始されたが……最初は単機で行う発射運動から始めて離陸して高度をとりながら飛行し、鹿島灘に向かってから色々な訓練をした。

 ヒロは「やっぱ実戦機は練習機と違ってすごいわ~襲撃運動訓練の『発射よーい、 テー!』はカッコええよな」と大興奮だった。

 百里原航空隊では、薄暮定着・夜間定着・夜間編隊飛行などの「夜間飛行訓練」が重視されていたが……
 夜間の雷撃訓練は安全を考慮して実施されなかった。 
 
 「彗星」の急降下訓練を終えたある日……10月1日から桜花訓練隊として開隊されていた第七二一海軍航空隊の機体「桜花」を見かけた。

 「桜花」は設計当初から特攻兵器として開発された、大型爆弾に操縦席と翼をつけたような白い機体のロケット機で……
 母機である一式陸上攻撃機の胴体の下に吊るされて戦場に運ばれ、乗員は発射前に胴体から乗り移る。
 敵の目標上空で切り離されると、単座の操縦士がロケットを噴射してそのまま敵艦に突入するとのことだった。 

 開発段階では「マル大」と呼ばれていたが、投下試験の成功後「桜花」と命名されたそうで……
 その名前を初めて聞いた時、五人で見た桜色の空が思い浮かんで何とも言えない気持ちになった。

 その後、編成中の七二一航空隊は「神雷部隊」として神ノ池基地へ移動し、本格的な実戦訓練が開始されたそうだが……
 捨て身の体当たり攻撃をしなければいけない程、酷い戦況になっている事に絶望した。

 10月10日には沖縄を含む南西諸島で大規模な空襲があり、600人以上が死亡……
 「那覇空襲」とも呼ばれるほど被害が酷かった那覇市の市街地は90%近くが焼失してしまった。

 沖縄は8月22日にも「対馬丸事件」という悲劇が起きていた。
 本土への疎開児童を含んだ約1800人を乗せた貨物船「対馬丸」がアメリカの潜水艦による攻撃で沈没したのだ。
 犠牲者1484人のうち800人近くが子どもで、疎開児童の9割以上が亡くなり……
 舟倉にいた子供達は看板に出ることもできないまま深い海へ沈んでしまった。

 一時は浮き具の奪い合いもあったが、なんとか子供を救出するために船員や先生など大人達が尽力し、自分の救命胴衣を譲った兵士もいたという……
 生き残った者は忍び寄るサメの恐怖や飢えや喉の乾きに苦しみながら、漁船などに助けられるまで何日も漂流することになってしまった。

 というのも護衛艦は対馬丸が攻撃された後、他の2隻の疎開船とともに海域から離脱……
 無事目的地まで着いたが、その背景には9ヶ月前に疎開者を乗せた湖南丸が同じく潜水艦に撃沈され、救助に留まった護衛艦も撃沈されたことも影響していた。

 10月20日から25日にかけては「史上最大の海戦」と称された「レイテ沖海戦」があった。
 日本軍は「おとり作戦」などで奮闘するも、一部艦隊に「謎の反転」があるなど足並みが乱れ、情報も混乱・錯綜……
 不沈艦と言われていた主力戦艦「武蔵」をはじめとする戦艦など20隻以上が沈没し、航空母艦が全滅して戦死者は約7500人にのぼり、連合艦隊は事実上壊滅した。

 そして「レイテ沖海戦」は、捨て身の体当たり攻撃「特攻」で敵艦に突撃する「神風特別攻撃隊」が初めて組織的に出撃した戦いでもあった。
 参加したその中の一人に深く関わりがある人物がいたなんて、僕達は思いもしなかったんだ……
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