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〈僅かな希望〉後編
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僕達が乾パンを食べていると羨ましそうに人だかりができたので「よかったらどうぞ」と皆に分けていたら、あっという間になくなってしまった。
空腹が少し満たされて皆が少しでも眠ろうとしていた頃……
若い母親の腕に抱かれていた赤ちゃんが大きな声で泣き出し、母親が何をしてもずっと泣き続けていた。
「うるせー黙らせろ! 静かにできねえんだったら出ていけ!」
「すみません……すみません……」
「私にも何かできることないかな……そうだ! あの……私、歌好きなんで子守唄、歌います! せ~のっ」
純子ちゃんは立ち上がって『ゆりかごの唄』を歌いだした。
その声は講堂の中に響き渡り、天使の歌声が舞い降りたようだった。
~~~~~~~~~~
ゆりかごの唄を カナリヤが歌うよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごの上に びわの実がゆれるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごのつなを きねずみがゆするよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごの夢に 黄色い月がかかるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
~~~~~~~~~~
いつの間にか赤ちゃんは泣き止んで眠っていて……聞いていたみんなも純子ちゃんの歌声に癒された。
「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます」
「……なんだか怒鳴ってすまなかったな……おかげで心がスーっと洗われたわ。おい姉ちゃん、さっき今日が卒業式って言ってなかったか?」
「そうですけど……」
「なあ、みんな! 姉ちゃんへのお礼によう、みんなで『仰げば尊し』を歌わねえか? 禁止なんて話があるが知ったこっちゃねえ! 下町の心意気でい!」
それから僕達は、みんなで『仰げば尊し』を歌った。
「仰げば尊し、我が師の恩~教えの庭にも、はや幾年~思えばいと疾し、この年月~今こそ~別れめ~~~いざさらば~~」
おじさんが指揮をしてくれて、息がピッタリで……皆が不安を忘れて一つになった気がした。
中には歌いながら涙を流す者もいて……きっと大切な誰かとの悲しい別れがあったのだろう。
「ありがとうございます! 忘れられない卒業式になりました!」
「こちらこそ、お姉ちゃんありがとうだよ~私しゃ、おかげで元気が出てきたよ」
「全部燃えちまったけどよう! また一から下町のド根性で見返してやろうぜ!」
「そうだ! それぞれ最大限にやれる事をしよう!」
すると、勤労学生らしき女の子も立ち上がった。
「私、伝えます! 大阪が地元で、この間から地下鉄の駅員やっとるんですけど……地上が大変な事になっとるのに地下鉄に逃げられへんなんておかしい! すぐに電車を動かせば被害のない所に沢山の人が逃げられたかもしれへんのに……だから、また今度こんな空襲があったら同じ事は絶対繰り返さへんでって」
火傷を負って横になっていた女性は言った。
「私は治ったら看護婦さんになって、みんなを助けたい……」
母親を亡くした男の子は言った。
「おいらは消防士さんになって日本中の火事を消しに行きたい!」
純子ちゃんの歌をきっかけに、皆の中に無くしかけていた希望が生まれた。
こんな絶望の中でも歌は前に進もうという勇気を与えてくれる、傷つけ合っていた人達を変えてくれる……
歌でだったら世界中の人の心を一つにすることができるかもしれない、と強く思った。
火は遠くの方で夜通し燃え続けていたようだったが……幸いなことに僕達の逃げ込んだ講堂は、致命傷となる爆撃も風向きによる延焼もなく無事だった。
いつの間にか皆で眠ってしまい、夜が明けていたが……静子おばさんは朝になっても来なかった。
ヒロと僕は純子ちゃん達に講堂にいるようにと伝えて、二人でおばさんを探しに行った。
「静子おばさんも無事でありますように……」
空腹が少し満たされて皆が少しでも眠ろうとしていた頃……
若い母親の腕に抱かれていた赤ちゃんが大きな声で泣き出し、母親が何をしてもずっと泣き続けていた。
「うるせー黙らせろ! 静かにできねえんだったら出ていけ!」
「すみません……すみません……」
「私にも何かできることないかな……そうだ! あの……私、歌好きなんで子守唄、歌います! せ~のっ」
純子ちゃんは立ち上がって『ゆりかごの唄』を歌いだした。
その声は講堂の中に響き渡り、天使の歌声が舞い降りたようだった。
~~~~~~~~~~
ゆりかごの唄を カナリヤが歌うよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごの上に びわの実がゆれるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごのつなを きねずみがゆするよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
ゆりかごの夢に 黄色い月がかかるよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ
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いつの間にか赤ちゃんは泣き止んで眠っていて……聞いていたみんなも純子ちゃんの歌声に癒された。
「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます」
「……なんだか怒鳴ってすまなかったな……おかげで心がスーっと洗われたわ。おい姉ちゃん、さっき今日が卒業式って言ってなかったか?」
「そうですけど……」
「なあ、みんな! 姉ちゃんへのお礼によう、みんなで『仰げば尊し』を歌わねえか? 禁止なんて話があるが知ったこっちゃねえ! 下町の心意気でい!」
それから僕達は、みんなで『仰げば尊し』を歌った。
「仰げば尊し、我が師の恩~教えの庭にも、はや幾年~思えばいと疾し、この年月~今こそ~別れめ~~~いざさらば~~」
おじさんが指揮をしてくれて、息がピッタリで……皆が不安を忘れて一つになった気がした。
中には歌いながら涙を流す者もいて……きっと大切な誰かとの悲しい別れがあったのだろう。
「ありがとうございます! 忘れられない卒業式になりました!」
「こちらこそ、お姉ちゃんありがとうだよ~私しゃ、おかげで元気が出てきたよ」
「全部燃えちまったけどよう! また一から下町のド根性で見返してやろうぜ!」
「そうだ! それぞれ最大限にやれる事をしよう!」
すると、勤労学生らしき女の子も立ち上がった。
「私、伝えます! 大阪が地元で、この間から地下鉄の駅員やっとるんですけど……地上が大変な事になっとるのに地下鉄に逃げられへんなんておかしい! すぐに電車を動かせば被害のない所に沢山の人が逃げられたかもしれへんのに……だから、また今度こんな空襲があったら同じ事は絶対繰り返さへんでって」
火傷を負って横になっていた女性は言った。
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純子ちゃんの歌をきっかけに、皆の中に無くしかけていた希望が生まれた。
こんな絶望の中でも歌は前に進もうという勇気を与えてくれる、傷つけ合っていた人達を変えてくれる……
歌でだったら世界中の人の心を一つにすることができるかもしれない、と強く思った。
火は遠くの方で夜通し燃え続けていたようだったが……幸いなことに僕達の逃げ込んだ講堂は、致命傷となる爆撃も風向きによる延焼もなく無事だった。
いつの間にか皆で眠ってしまい、夜が明けていたが……静子おばさんは朝になっても来なかった。
ヒロと僕は純子ちゃん達に講堂にいるようにと伝えて、二人でおばさんを探しに行った。
「静子おばさんも無事でありますように……」
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