【源次物語】最後の特攻隊員〜未来を生きる君へ〜

OURSKY

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〈土浦空襲の奇跡〉前編

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 6月10日……阿見町にある土浦海軍航空隊とその周辺地区が大規模な空襲に見舞われた。
 「阿見大空襲」とも呼ばれたその日は丁度日曜日で……
 面会人で賑わっていた兵舎周辺は500キロ爆弾の雨で火災となり、土浦海軍航空隊のうち生き残ったのは約3分の1で練習生182名が死亡した。 
 予科練生や教官、近隣住民など合わせて370人以上が亡くなり、周辺の地域を含めた茨城の「日立空襲」としては死者約1200人の大空襲となった。

 僕達が急いで土浦に着くと、以前見た景色と全く違う本当に酷い状況で……
 基地の方に向かう道中、性別が分からないが座っている状態で全身が黒くなった方が必死に手を伸ばしていた。

「あっあの人、生きてるかも……」

「み、み……ず……みず、を、下、さい……」

 僕は直ぐに近くの水道管から吹き出していた水を、落ちていた茶碗に溜めて手渡した。

「ハイ、どうぞ」

「あんた! 水をあげちゃ駄目だ!」

「え?」

 後ろからした、おじさんの声に振り向いた後に視線を戻すと……
 その方は既に息絶えていた。
 おじさんによると、水を飲んだ事によって安心して生きる気力が途絶えるらしかった。

「ごめんなさい……僕のせいで……」

「お前のせいちゃう! お前は『水が飲みたい』っちゅう、この人の最後の願いを叶えたんや! こりゃあ基地の方も、えらいことになっとるかもしれん……先に行くぞ!」

 僕達は手を合わせてから先へ進んだ。
 僕は走りながら、いつの間にか叫んでいた。

「人が……人の上に……爆弾を落とすな!! もうこれ以上……人の……命を奪うな!!」

 先に食堂に着くと、一部被弾していたものの焼け残っていて安堵したが……中には誰もいなかった。
 土浦の基地に着くと、本当に酷い状態で……あちこちに凄まじい爆撃の跡があった。

 予科練の象徴だった雌雄の松も被弾して激しく損傷し、手術室は大勢の予科練生などが運び込まれている様子で南側の病棟も被災していた。
 平井くんを探して走り回っていたら、焼け残った病棟の中に右腕の先を包帯でグルグル巻きにされた平井くんと、由香里ちゃん達がいた。

「平井! よかった……お前、生きてたんだな!」

「平井くんも由香里ちゃん達も無事でよかった……」

「平井は怪我して辛いやろうけど、取り敢えずみんな生きててよかったわ……この有り様……一体、何があったんや?」

「今は聞かないであげて下さい!」

「いいんだ、由香里さん。僕には伝えなきゃいけない義務がある…………朝の8時少し前位かな……突然、空襲警報のサイレンが鳴って『空襲! 総員退避!」って誰かの声がして……ズシーンていう爆発音と地響きがしてからは本当に地獄のような有り様だったよ……」

「防空壕が集中的に狙われてね……中にはキチンと椅子に座ったまま上半身が真っ黒に焦げた子や顔が真っ赤に倍に膨れ上がった子……本当に多くの焼け焦げた予科練生の子達がいた……」

「平井さん、無理しないで……」

「みんなが鹿島に移ってからね、整備部の仲野くんていう友達ができたんだ……落ち込んでた僕に声を掛けてくれて、面白くて優しくて……いつもふざけて、みんなを笑わせてた……」

「平井さん!」

「今朝は抜けるような青空で、日曜日だから面会やらで賑やかで……いつものように門で待ち合わせて仲野くんと食堂に行こうとしてたら警報が鳴って…………僕は食堂の由香里さん達が心配で門を飛び出したけど、仲野くんはみんなが心配だから戻るって……」

「平井さん、もうやめましょう?」

「食堂から戻ったら仲野くん、頭に爆弾の破片が刺さった状態で仰向けで死んでた…………最後の瞬間、どんな思いで空を見上げたんだろう……痛いよね? 苦しいよね? 怖かったよね? なのに一人で置き去りにして…………本当にごめん……僕は何にもできなかった」
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