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〈最後の願い〉後編
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「お前は覚えてへんかもしれんけど、受験の時お前と俺は偶然、隣の席でな……試験が始まる前に消しゴムを忘れて慌てている俺に、自分の消しゴムを半分に折って渡してくれたんや」
「全然、覚えてない……」
「お前は試験中に自分の消しゴム途中で落として、俺はこっそりお前に返そうとしたけど……ごっつ集中して試験に取り組んで、一回も消しゴム使いたそうな素振りせえへんかった…………そして二人とも合格した」
「そうだったんだ……」
「ありがとうな源次……俺はお前に恩返しがしたいって、ずっと思ってたんや……だから俺が言ったくだらない冗談でお前が笑ってくれるのか本当に嬉しかった。実はな、源次…………やっぱ何でもない……」
「ヒロ……こちらこそ、今までありがとね……」
僕は伝えたいことがありすぎて、布団の中で涙が止まらなくて……その日の夜は一睡もできなかった。
「そうか……僕は明日、死ぬのか……」
深い絶望と色んな想いが込み上げてきて、母さんや純子ちゃん、ヒロや平井くんへの最後の手紙を書いていたら、あっという間に夜が明けてしまったが……
8月15日の朝になって驚いた。
掲示板の下に僕の名前入りの編成表が落ちていて、壁の編成表の中にヒロの名前があったから……
僕は急いで上官に会いに行き、落ちていた紙を見せながら尋ねた。
「これってどういう事ですか? 本当の事を教えてください!」
「実はな、高田……先月、篠田が『絶対に高田を出撃させないで下さい』と頭を下げに来たんだ……『もう二度と仲間を失いたくないから』と…………お前だけは『絶対に失いたくないからお願いします』と懇願されたよ」
「自分一人が編成メンバーになると、あいつはどんな手を使っても自分と代わろうとするから……高田を編成メンバーとして発表して、当日入れ替えにしてくれって」
通常だったらそんなお願いは聞き入れてもらえないが、人の懐に入るのがうまいヒロの人柄によるものだろう……
「そ、んな…………何だよそれ!」
僕は急いで部屋に戻り、紙を見せながらヒロを問い詰めた。
「これってどういうこと?」
「おはよう源次……ってなんや気付いてしもたんか……やっぱり俺に出さしてくれって頼んどいたんや! 俺にはもう家族がいないから俺が行った方がええんじゃ!」
「何だよそれ……俺にはもう家族がいない? ずっと言うのを我慢してたんだけどさ……純子ちゃんという血を分けた従兄妹がいるだろ! お前の未来の嫁さんになるかもしれない、大切な家族がいるだろ!」
「純子ちゃんだって家族を失ったけど諦めずに一生懸命生きてる! 親も弟も亡くして、なぜあんな細い身体でもう一度立てたか分かるか? お前がいたからだよ! お前の事が好きだからだよ! お前は生きてあの子の元に戻らなきゃいけないんだよ!」
「お前は、ほっんまにニブイ奴やな! 純子が男として好いとるのは源次……お前や! お前が純子の隣におらんとあかんねん」
「でも駅伝の時も卒業式の前日も、二人は熱い抱擁をしてたじゃないか!」
「アレは俺の最後の悪あがきじゃって見とったんか、恥ずかし……あいつの性格はよう分かっとる。恥ずかしがり屋の純子が人前で抱きついてきた時も卒業式前日に泣いてた時も思い知らされたわ……異性として意識されてへん兄弟のような存在なんやって」
「昨日も言ったやろ……俺はお前に恩がある……今こそ、その恩を返したいんや……実はな、受験に落ちたら俺は戦地に行く話になっとんたんや……兵役法では志願によって17歳からやから」
「そんなの志願しなければいいじゃないか!」
「生みの親がいない俺は、学生っちゅう肩書きがなかったら志願しないとあかんって近所の人から店に嫌がらせされてな……落ちてたら前線に送られてもっと早く死んどったかもやけど、源次のおかげで大学受かって楽しい思い出沢山できたわ……俺が今日まで生きてこれたのは、お前のおかげなんだよ……だから源次、お前には生きてて欲しいんだ!」
「そ、んな……」
ヒロは僕の手紙を持ってきて読んだ。
「それに何やこれ! 僕はずっとヒロと一緒にいたかった? 純子ちゃんと一緒に生きていたかった? どうかヒロと幸せになって下さいって? こんな手紙書いて、勝手に諦めて……純子が本当に好きなのはお前だ! 待ってるのはお前だ! お前が純子を幸せにするんだよ!」
一晩悩んで書いた手紙はビリビリに破かれた。
「残念だったな……この手紙の言葉は全部、自分で直接伝えろ」
僕はカッとなって咄嗟にペンを探した。
「お前と俺のペンは隠した! お前、そんなに俺と絶交したいんか?」
「違うよ! 僕だって同じなんだよ! ヒロに……たった一人の親友に、ただ生きてて欲しいだけなんだ!」
「お前から、そんな言葉が聞けると……は……なっ」
僕はヒロに思いきり左目の上を殴られた。
みるみる腫れていき視界が遮られる。
きっと今、上官に会ったら出撃を止められるだろう……
「いつかのお返しや……これでお前は出撃でけへん。代わりに俺が行く!」
「お前には純子を幸せにする義務があんねん……ずっと好きやったんやろ? なのに俺に気を使うて自分の気持ち隠して…………これからはもっと正直に、素直に生きなあかんで? ほな行ってくるわ」
「待ってよヒロ……行かないでくれ」
「今までおおきにな源次……お前の言葉……めっちゃ嬉しかったわ」
「待っ……て…………」
僕は殴られた事による目眩と過度の興奮と寝不足がたたって、その場に倒れてしまった。
「全然、覚えてない……」
「お前は試験中に自分の消しゴム途中で落として、俺はこっそりお前に返そうとしたけど……ごっつ集中して試験に取り組んで、一回も消しゴム使いたそうな素振りせえへんかった…………そして二人とも合格した」
「そうだったんだ……」
「ありがとうな源次……俺はお前に恩返しがしたいって、ずっと思ってたんや……だから俺が言ったくだらない冗談でお前が笑ってくれるのか本当に嬉しかった。実はな、源次…………やっぱ何でもない……」
「ヒロ……こちらこそ、今までありがとね……」
僕は伝えたいことがありすぎて、布団の中で涙が止まらなくて……その日の夜は一睡もできなかった。
「そうか……僕は明日、死ぬのか……」
深い絶望と色んな想いが込み上げてきて、母さんや純子ちゃん、ヒロや平井くんへの最後の手紙を書いていたら、あっという間に夜が明けてしまったが……
8月15日の朝になって驚いた。
掲示板の下に僕の名前入りの編成表が落ちていて、壁の編成表の中にヒロの名前があったから……
僕は急いで上官に会いに行き、落ちていた紙を見せながら尋ねた。
「これってどういう事ですか? 本当の事を教えてください!」
「実はな、高田……先月、篠田が『絶対に高田を出撃させないで下さい』と頭を下げに来たんだ……『もう二度と仲間を失いたくないから』と…………お前だけは『絶対に失いたくないからお願いします』と懇願されたよ」
「自分一人が編成メンバーになると、あいつはどんな手を使っても自分と代わろうとするから……高田を編成メンバーとして発表して、当日入れ替えにしてくれって」
通常だったらそんなお願いは聞き入れてもらえないが、人の懐に入るのがうまいヒロの人柄によるものだろう……
「そ、んな…………何だよそれ!」
僕は急いで部屋に戻り、紙を見せながらヒロを問い詰めた。
「これってどういうこと?」
「おはよう源次……ってなんや気付いてしもたんか……やっぱり俺に出さしてくれって頼んどいたんや! 俺にはもう家族がいないから俺が行った方がええんじゃ!」
「何だよそれ……俺にはもう家族がいない? ずっと言うのを我慢してたんだけどさ……純子ちゃんという血を分けた従兄妹がいるだろ! お前の未来の嫁さんになるかもしれない、大切な家族がいるだろ!」
「純子ちゃんだって家族を失ったけど諦めずに一生懸命生きてる! 親も弟も亡くして、なぜあんな細い身体でもう一度立てたか分かるか? お前がいたからだよ! お前の事が好きだからだよ! お前は生きてあの子の元に戻らなきゃいけないんだよ!」
「お前は、ほっんまにニブイ奴やな! 純子が男として好いとるのは源次……お前や! お前が純子の隣におらんとあかんねん」
「でも駅伝の時も卒業式の前日も、二人は熱い抱擁をしてたじゃないか!」
「アレは俺の最後の悪あがきじゃって見とったんか、恥ずかし……あいつの性格はよう分かっとる。恥ずかしがり屋の純子が人前で抱きついてきた時も卒業式前日に泣いてた時も思い知らされたわ……異性として意識されてへん兄弟のような存在なんやって」
「昨日も言ったやろ……俺はお前に恩がある……今こそ、その恩を返したいんや……実はな、受験に落ちたら俺は戦地に行く話になっとんたんや……兵役法では志願によって17歳からやから」
「そんなの志願しなければいいじゃないか!」
「生みの親がいない俺は、学生っちゅう肩書きがなかったら志願しないとあかんって近所の人から店に嫌がらせされてな……落ちてたら前線に送られてもっと早く死んどったかもやけど、源次のおかげで大学受かって楽しい思い出沢山できたわ……俺が今日まで生きてこれたのは、お前のおかげなんだよ……だから源次、お前には生きてて欲しいんだ!」
「そ、んな……」
ヒロは僕の手紙を持ってきて読んだ。
「それに何やこれ! 僕はずっとヒロと一緒にいたかった? 純子ちゃんと一緒に生きていたかった? どうかヒロと幸せになって下さいって? こんな手紙書いて、勝手に諦めて……純子が本当に好きなのはお前だ! 待ってるのはお前だ! お前が純子を幸せにするんだよ!」
一晩悩んで書いた手紙はビリビリに破かれた。
「残念だったな……この手紙の言葉は全部、自分で直接伝えろ」
僕はカッとなって咄嗟にペンを探した。
「お前と俺のペンは隠した! お前、そんなに俺と絶交したいんか?」
「違うよ! 僕だって同じなんだよ! ヒロに……たった一人の親友に、ただ生きてて欲しいだけなんだ!」
「お前から、そんな言葉が聞けると……は……なっ」
僕はヒロに思いきり左目の上を殴られた。
みるみる腫れていき視界が遮られる。
きっと今、上官に会ったら出撃を止められるだろう……
「いつかのお返しや……これでお前は出撃でけへん。代わりに俺が行く!」
「お前には純子を幸せにする義務があんねん……ずっと好きやったんやろ? なのに俺に気を使うて自分の気持ち隠して…………これからはもっと正直に、素直に生きなあかんで? ほな行ってくるわ」
「待ってよヒロ……行かないでくれ」
「今までおおきにな源次……お前の言葉……めっちゃ嬉しかったわ」
「待っ……て…………」
僕は殴られた事による目眩と過度の興奮と寝不足がたたって、その場に倒れてしまった。
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