流体における時間経過とその躍動、変化について。

那須与二

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窓辺、割れたガラス

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 蛍光灯が消えるまでの、喉から出た声が舞台の最奥に届くまでの、絵の具が帆布に落とされてから色彩を発するまでの、すべての数瞬。鉛筆が紙を引っ掻く音、上履きが床を軋ませる音、向かいの校舎で練習する吹奏楽部、鳴り止まぬ蝉時雨、いつしかの夕立と遠雷、絹のようなあなたの声。それらが鳴る数瞬、それは一生分の脆い記憶だ。容易に忘れられる脆い記憶がある。

 いつだってそうだ。僕は美しいものを探している。未来など持ち合わせていない僕には生きる糧がない。あなただってそうだったのでしょう。それとも僕は未だにあの頃のままでしょうか。

 生き急ぎ過ぎた梅雨が走ってくる。五月の窓辺は雨水に透き通る緑色に染まっている。遠くの暗い雲。まるでそこから送られて来た霹靂、使者のように彼女は現れた。退屈な日常に突如として現れた。

「転校生を紹介する。今日からこの二年三組の仲間となる■■■ ■■■さんだ。みんな仲良くしろよな。」

 彼女はバレエをしていると言った。両手を前でもじもじと組みながら、小さな声で言った。教室中に関心の声が響くと、彼女は照れ臭そうに愛想笑いのような何かをしたのだが、僕は見逃さなかったのだ。彼女の顔には鉄が張り付いていた。紛い物の笑顔だとたった一人で思っていた。そうとしか思えない自分が情けなかったから僕は誰にも言えなかったのだ。

 白い病室の中心で静かにあなたに語り掛ける。この白い空間は僕らだけの世界だ。在り来りな言葉で言うならば、僕らは月だ。僕らは波だ。僕らは、嗚呼。結局何者にも成れやしないのだ。僕らは願い、言い淀み、藻掻くだけだった。

 彼女が僕の目の前に現れた時から僕はバレエに興味を持った。僕は元来、絵を描いていたが、他の分野の芸術に触れることを好んでいた。舞台芸術、初めて触れるものだった。その瞬間に鳴る音、生まれる手先や足先の流動、全てが生物だった。バレエを知ってからは僕の絵にも流動が生まれる感覚がした。いつの間にか彼女とは親しくなっていた。
 “春の祭典“について、彼女に質問をしたのを今でも覚えている。"あれはバレエなのか"。彼女は特に質問に答えはせずに”あの力強さが好きだ“と言った。”自らに欠如しているものだから美しく見える“と言った。僕にはわからなかった。

 今思えばこれまでの全てのあなたの周りの事象はこの一言で完結したのかもしれない。

 あなたは更に美しくなりたかったのだろう。祝祭の如く、師走の窓ガラスを割る。年が明けようとしているのだ。
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