ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連

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第1章

第2話

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 遅い昼食のあと、莉音は買い物に出かけることにした。食材の買い出しと、衣類なども含めた男の日用品をそろえるためである。

「もし具合悪くなったり眠くなったりしたら、この布団を敷いて寝ててくださいね。シーツは新しくしてありますから」

 食後に飲んだ鎮痛剤の効果で眠くなるかもしれないので、遠慮なく使ってくれてかまわないと言い添えた。

「あと、訪ねてくるような人はいないと思うんですけど、警察の人とかじゃなければ対応しなくていいですから」

 奥の六畳間に男を案内してテレビをつけ、できるだけ早く帰ると言い置いて莉音はアパートを出た。行き先は駅前にある大型スーパーで、一階の食料品売り場で食材のほか、歯ブラシや歯磨き粉、箸なども買いそろえる。それから二階に移動して、男物の下着類や靴下、部屋着なども何点か選んだ。一七〇そこそこの自分の服では、二十センチ近く身長差のある相手に貸すこともできない。

「足、長かったな……」

 大きいサイズのスウェットのパンツをひろげて眺めながら、丈が足りるだろうかと莉音は頭を悩ませた。

 長身でスタイルもよく、仕立てのいいスーツを嫌味なく着こなすエリート然とした紳士。外国人である彫りの深さを差し引いたとしても、その貌立ちは驚くほど端整で、所作も洗練されていた。天は二物を与えずと言うけれど、世の中にはあんなふうに恵まれた人もいるんだなと羨ましく思う。同時に、突然行方がわからなくなってしまった彼の家族は、いまごろとても心配しているだろうと気の毒に思った。

「早く身元がわかって、家族の許に帰れるといいけど……」

 ポツリと呟きつつ、適当に見繕ったものを買い物カゴに入れてレジに向かうことにする。ちょうどそのとき、ズボンの尻ポケットでマナーモードにしていた携帯が震動した。画面を確認すると、登録していない番号からの着信だった。

「はい」

 急いで通路の端まで移動して電話に出ると、今朝がた連絡をくれた刑事の声が聞こえてきた。
『あ、もしもし? 佐倉莉音さんのお電話でよろしいですか?』
「はい、そうです」
『お世話になってます。午前中にも一度ご連絡を差し上げました、高井戸署の山岡です。いま、お時間大丈夫ですか?』
「あ、はい、大丈夫です。どうかされましたか?」
 莉音の問いかけに、山岡は「じつはですね」と早速用件を切り出した。

『例の男性の件なんですが、おかげさまで無事、身元が判明しました』
「えっ!?」

 咄嗟に声をあげてしまってから、あわてて口を押さえて周囲の様子を窺った。それから、口許と通話口を覆うように手を添える。

「ほんとですか? それはよかったです」
『ええ。昼頃に麻布署のほうに出された捜索願いと男性の特徴が一致しまして。それでですね、急で申し訳ないんですが、会社の方が一刻も早く確認をしたいということなので、これからそちらに伺いたいんですが、ご都合は大丈夫でしょうか?』
「え、いますぐですか?」
『ええ。というか、じつはすでに、そちらに向かってるところでして。あと五分ほどで到着する予定なんですが』
 恐縮したように言われて、莉音はあわてた。

「あ、え~と……」
『すみません、話が前後してしまって。どうしてもご都合がつかないようでしたら、あらためて出直しますが、会社の方もだいぶ心配されているようでして。できれば無事な姿だけでもひと目確認しておきたいということなんですけれども』
「あ、ぜひっ!」
 莉音はすかさず返事をした。

「大丈夫です、問題ありません。ただ、僕いま、駅前のスーパーに買い物に出ていて、戻るまでに一〇分くらいかかるかと」
 ああ、そうでしたか、と電話の向こうで山岡はやや安心したように言った。
「そうなんです。でも、ご本人はアパートにいらっしゃるので、そのまま訪ねてもらってかまわないですから。僕もすぐに帰ります」
『そうですか? 助かります。本当に申し訳ありません』
 電話口で恐縮する山岡に、それでは後ほど、と挨拶をして通話を切った。

 買い物カゴに入れてあった商品を大急ぎですべて棚に戻し、莉音はスーパーを飛び出した。
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