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第2章
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「あ、社長が独身ってことで不安にさせちゃったかな」
「はい?」
「さっきのあれです。夜のお相手っていう」
「あっ!」
そのことはすでに念頭から除外していたので、話を蒸し返されて変に心拍数が跳ね上がってしまった。
「いや、あのっ、それは全然っ! ぼ、僕の思い違いだったので」
「大丈夫ですよ、心配なさらなくても」
早瀬はゆったりと応じた。
「うちの社長はあのとおり、容姿の面でも経済的にも恵まれてて、社会的地位もそれなりにあります。それこそお相手には不自由しない人ですけど、だからといってむやみやたらに手を出すようなことはしませんので、そこは安心してください」
その点については自分が保証すると早瀬は請け合った。
「もちろん佐倉さんは、お貌立ちも非常に整っていらっしゃって、お人柄も申し分のない好青年ですけれども。好みのタイプだからという理由だけで、不適切な関係を強要されることはまずありませんから」
「いえ、そこはあの、本当に……。こちらこそ失礼しました。ちょっと深読みしすぎてしまったみたいで。それに僕、男ですしね」
ただたんに提示された金額が相場からかけ離れていたので、よからぬことを邪推してしまっただけなのだ。
「そ、それであの、お気持ちはすごくありがたいんですけれども、住み込みについてはちょっと……。べつに警戒してるとか、そういうことじゃなくてですね」
「住み込みではなく、通いのほうがご都合がいいってことなんですね?」
「はい。家賃のこととか、いろいろ考えてくださったみたいで本当にありがたいんですけど、でも、いま住んでいる家は狭くてきれいじゃなくても、その、母との思い出が詰まった場所なので」
ああ、なるほど、と早瀬は頷いた。
「たしかにそれは、なににも代えがたい大切なものですね。そこは、大事になさるべきだと私も思いますよ」
「はい、ありがとうございます」
「わかりました。その点については私からヴィンセントに説明しておきましょう。あくまでも、そのほうが佐倉さんの経済的負担が減るのではないかという考えからのご提案でしたので」
「よろしくお願いします」
莉音は頭を下げた。
「こちらこそ、どうぞよろしく。我々の雇い主はあまり愛想がいいほうではないですけれど、きちんと従業員の声に耳を傾けて、働きやすい環境を提供してくれる人ですから。佐倉さんも安心して、ご自分のペースでやってみてください。なにかあれば、私も相談に乗りますから」
早瀬の言葉に、莉音はあらためて礼を言ってオファーを受けることにした。
「はい?」
「さっきのあれです。夜のお相手っていう」
「あっ!」
そのことはすでに念頭から除外していたので、話を蒸し返されて変に心拍数が跳ね上がってしまった。
「いや、あのっ、それは全然っ! ぼ、僕の思い違いだったので」
「大丈夫ですよ、心配なさらなくても」
早瀬はゆったりと応じた。
「うちの社長はあのとおり、容姿の面でも経済的にも恵まれてて、社会的地位もそれなりにあります。それこそお相手には不自由しない人ですけど、だからといってむやみやたらに手を出すようなことはしませんので、そこは安心してください」
その点については自分が保証すると早瀬は請け合った。
「もちろん佐倉さんは、お貌立ちも非常に整っていらっしゃって、お人柄も申し分のない好青年ですけれども。好みのタイプだからという理由だけで、不適切な関係を強要されることはまずありませんから」
「いえ、そこはあの、本当に……。こちらこそ失礼しました。ちょっと深読みしすぎてしまったみたいで。それに僕、男ですしね」
ただたんに提示された金額が相場からかけ離れていたので、よからぬことを邪推してしまっただけなのだ。
「そ、それであの、お気持ちはすごくありがたいんですけれども、住み込みについてはちょっと……。べつに警戒してるとか、そういうことじゃなくてですね」
「住み込みではなく、通いのほうがご都合がいいってことなんですね?」
「はい。家賃のこととか、いろいろ考えてくださったみたいで本当にありがたいんですけど、でも、いま住んでいる家は狭くてきれいじゃなくても、その、母との思い出が詰まった場所なので」
ああ、なるほど、と早瀬は頷いた。
「たしかにそれは、なににも代えがたい大切なものですね。そこは、大事になさるべきだと私も思いますよ」
「はい、ありがとうございます」
「わかりました。その点については私からヴィンセントに説明しておきましょう。あくまでも、そのほうが佐倉さんの経済的負担が減るのではないかという考えからのご提案でしたので」
「よろしくお願いします」
莉音は頭を下げた。
「こちらこそ、どうぞよろしく。我々の雇い主はあまり愛想がいいほうではないですけれど、きちんと従業員の声に耳を傾けて、働きやすい環境を提供してくれる人ですから。佐倉さんも安心して、ご自分のペースでやってみてください。なにかあれば、私も相談に乗りますから」
早瀬の言葉に、莉音はあらためて礼を言ってオファーを受けることにした。
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■GPT
https://openai.com/policies/terms-of-use
■Claude
https://www.anthropic.com/legal/archive/18e81a24-b05e-4bb5-98cc-f96bb54e558b
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