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第4章
第1話(2)
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事情聴取と現場確認、被害届の提出。幸いにも盗られたものはなにもなかったので盗難届は出さずに済んだが、すべてが終わって警察が引き上げたときには、すでに日付を跨いだ時刻となっていた。
とりあえずアパートの管理人に連絡を入れ、鍵の交換の手配を頼んでこちらもすぐに対応してもらったものの、とても布団を敷いて寝られるような状況ではない。なにより、こんな物騒な場所に莉音を置いてはおけないとヴィンセントが言い張った。
莉音自身も、自分がいないあいだに見ず知らずの人間に部屋に入られ、いろいろ物色されたショックを拭い去れず、その夜はヴィンセントの言葉に甘えて、マンションのゲストルームに泊まらせてもらうことにした。
不安な気持ちを抱えたまま、結局その晩は一睡もできず、これからどうしようと途方に暮れた。それでも好意に甘えさせてもらうのは、その日かぎりで、ヴィンセントに挨拶を済ませたら、帰宅して荒れた部屋を片付けるつもりだった。それがなぜか、その後も帰宅を許されず、今日までズルズルと滞在を引き延ばされていた。犯人がまだ周辺をうろついているかもしれず、そんな危ない場所にはとても帰せないというのがヴィンセントの言い分だった。
こんな言いかたが正しいのかわからないが、とにかく気遣われ、戸惑いをおぼえるほどにかいがいしく世話をされている感じがする。事件のあと、日付もとうに変わってようやくふたりでマンションに戻ってからも、ゲストルームに備え付けのバスルームの浴槽に湯を張ってくれたり、風呂上がりに気分が落ち着くようにとホットミルクを用意してくれたりと、至れり尽くせりだった。彼の恋人や奥さんになる人は、幸せだろうなとしみじみ思ったほどである。
「大変でしたねぇ。さぞ怖かったことでしょう」
早瀬の言葉に、莉音はお騒がせしてすみませんと頭を下げた。
「莉音くん自身になにごともなく済んで、なによりでしたよ。いま、莉音くんになにかあっていちばん困るのは、うちの社長ですからね」
「いえ、そんな。むしろすっかりお世話になっているのは僕のほうです。当事者なのにあたふたするばかりで、肝心なことは全部、アルフさん任せになってしまって」
実際、警察に通報するまえに周辺の安全確認をし、警察官が到着するまでのあいだ、莉音をうながして自分の車で待機するよう取り計らってくれたのはヴィンセントだった。莉音を自宅マンションに滞在させるようになってからも、高井戸署の刑事課に連絡を入れ、必要があれば盗犯係と情報を共有して、捜査を進めてくれるよう山岡にも話を通してくれた。
「ひとりで心細い思いをせずに済んでよかったですね。社長はあれで、なかなか頼りになる人ですから、莉音くんも大船に乗ったつもりで甘えちゃってください」
「ひと言余計だ、早瀬」
すぐ後ろで声がして振り返ると、スーツ姿のヴィンセントが憮然とした表情で立っていた。
「あれでだの、なかなかだの、おまえは私をなんだと思ってるんだ」
「もちろん、心から敬愛申し上げる我が社の社長です」
早瀬は悪びれもせず即答した。ヴィンセントはやれやれといった様子で息をつく。それから莉音に向きなおった。
「必要な仕事を片付けたら早めに帰るから、夕飯は一緒に食べよう」
「あ、はい」
「不安や心労が重なって体調を崩すといけないから、家のことはなにもしなくていい。ゆっくりしていなさい」
「いえ、そんな。動いているほうが、かえって余計なことを考えずに済みますから」
莉音の言葉に、ヴィンセントはそうかと頷いた。
「だが、ほどほどにしておきなさい。警察からなにか連絡があれば、私か早瀬にすぐ報告するように」
「はい、わかりました。あの、いってらっしゃい。お気をつけて」
莉音が靴べらを差し出すと、ヴィンセントは目もとをなごませてそれを受け取った。
「なんだか、新婚さんみたいですねえ」
すかさず早瀬が茶々を入れる。ヴィンセントは渋い顔で秘書の顔を見やった。
「バカなことを言ってないで行くぞ」
「はい社長、仰せのままに。それじゃ莉音くん、またね」
仏頂面のヴィンセントのために玄関のドアを開けると、早瀬は爽やかな笑みを残して去っていった。
とりあえずアパートの管理人に連絡を入れ、鍵の交換の手配を頼んでこちらもすぐに対応してもらったものの、とても布団を敷いて寝られるような状況ではない。なにより、こんな物騒な場所に莉音を置いてはおけないとヴィンセントが言い張った。
莉音自身も、自分がいないあいだに見ず知らずの人間に部屋に入られ、いろいろ物色されたショックを拭い去れず、その夜はヴィンセントの言葉に甘えて、マンションのゲストルームに泊まらせてもらうことにした。
不安な気持ちを抱えたまま、結局その晩は一睡もできず、これからどうしようと途方に暮れた。それでも好意に甘えさせてもらうのは、その日かぎりで、ヴィンセントに挨拶を済ませたら、帰宅して荒れた部屋を片付けるつもりだった。それがなぜか、その後も帰宅を許されず、今日までズルズルと滞在を引き延ばされていた。犯人がまだ周辺をうろついているかもしれず、そんな危ない場所にはとても帰せないというのがヴィンセントの言い分だった。
こんな言いかたが正しいのかわからないが、とにかく気遣われ、戸惑いをおぼえるほどにかいがいしく世話をされている感じがする。事件のあと、日付もとうに変わってようやくふたりでマンションに戻ってからも、ゲストルームに備え付けのバスルームの浴槽に湯を張ってくれたり、風呂上がりに気分が落ち着くようにとホットミルクを用意してくれたりと、至れり尽くせりだった。彼の恋人や奥さんになる人は、幸せだろうなとしみじみ思ったほどである。
「大変でしたねぇ。さぞ怖かったことでしょう」
早瀬の言葉に、莉音はお騒がせしてすみませんと頭を下げた。
「莉音くん自身になにごともなく済んで、なによりでしたよ。いま、莉音くんになにかあっていちばん困るのは、うちの社長ですからね」
「いえ、そんな。むしろすっかりお世話になっているのは僕のほうです。当事者なのにあたふたするばかりで、肝心なことは全部、アルフさん任せになってしまって」
実際、警察に通報するまえに周辺の安全確認をし、警察官が到着するまでのあいだ、莉音をうながして自分の車で待機するよう取り計らってくれたのはヴィンセントだった。莉音を自宅マンションに滞在させるようになってからも、高井戸署の刑事課に連絡を入れ、必要があれば盗犯係と情報を共有して、捜査を進めてくれるよう山岡にも話を通してくれた。
「ひとりで心細い思いをせずに済んでよかったですね。社長はあれで、なかなか頼りになる人ですから、莉音くんも大船に乗ったつもりで甘えちゃってください」
「ひと言余計だ、早瀬」
すぐ後ろで声がして振り返ると、スーツ姿のヴィンセントが憮然とした表情で立っていた。
「あれでだの、なかなかだの、おまえは私をなんだと思ってるんだ」
「もちろん、心から敬愛申し上げる我が社の社長です」
早瀬は悪びれもせず即答した。ヴィンセントはやれやれといった様子で息をつく。それから莉音に向きなおった。
「必要な仕事を片付けたら早めに帰るから、夕飯は一緒に食べよう」
「あ、はい」
「不安や心労が重なって体調を崩すといけないから、家のことはなにもしなくていい。ゆっくりしていなさい」
「いえ、そんな。動いているほうが、かえって余計なことを考えずに済みますから」
莉音の言葉に、ヴィンセントはそうかと頷いた。
「だが、ほどほどにしておきなさい。警察からなにか連絡があれば、私か早瀬にすぐ報告するように」
「はい、わかりました。あの、いってらっしゃい。お気をつけて」
莉音が靴べらを差し出すと、ヴィンセントは目もとをなごませてそれを受け取った。
「なんだか、新婚さんみたいですねえ」
すかさず早瀬が茶々を入れる。ヴィンセントは渋い顔で秘書の顔を見やった。
「バカなことを言ってないで行くぞ」
「はい社長、仰せのままに。それじゃ莉音くん、またね」
仏頂面のヴィンセントのために玄関のドアを開けると、早瀬は爽やかな笑みを残して去っていった。
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