意地悪な彼とぽちゃこな私

真朱マロ

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その五

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 嫌だ嫌だと抵抗したけれど、結局私は佐々木君から逃げられなかった。

 譲歩に譲歩を重ね同行を承諾することで、肩を組むことと手をつなぐことは回避できたけれど、良い様に翻弄されている事実がちょっぴり悔しい。



 テクテクと歩いている間、佐々木君は饒舌だった。

 好きな食べ物についてだったり、気に入ってるTV番組だったり、根掘り葉掘り私自身の嗜好について尋ねてきて、ついでのように自分の好きなものを語っていた。

 意外と好みが似ているみたいで、どうしても許せないのが酢豚のパイナップルだという共通点で、バカみたいに盛り上がってしまう。



 笑っている間は、自分が何のために佐々木君と歩いているか忘れかけていたけれど、いつまでも現実逃避できるわけではなかった。

 休みなく歩けば、目的地についてしまうのだ。



 佐々木君が足を止めたのは、古風な門のある日本邸宅だった。

 でか! と声を上げなかった自分を褒めたいくらい美々しい邸宅で、門から玄関にかけて飛び石が続いていて、よく整備された庭園が広がっている。

 ファミリー向けのアパートで暮らしている私からしたら、ものすごく豪華で場違いな場所としか思えない。



 恐る恐る見上げてみたら、御園と表札が上がっていた。

 ここが夏美ちゃんの自宅なのかと驚くと同時に、乗り込むとは思ってもいなかったので腰が引けてしまった。



 まさかの殴り込み?!

 どうしたらいいかわからず、ぷるぷる震える私の手を引いて、佐々木君は当たり前のように玄関へと向かう。

 ちょっとちょっとと慌てる私が面白かったのか、声をたてて笑いだしめちゃくちゃ楽しそうだ。ひどい。

 しかも、他人の家のはずなのに、ためらいもせず玄関の扉を開けた。



 そして、大きな声で夏美ちゃんを呼びながら、靴を脱ぐと当たり前のように家の中に入っていく。私も靴を脱いで、佐々木君に右手を引っ張られるまま、奥へと連れ込まれるしかない。

 奥からパタパタと軽やかな足音が近づいてきたかと思うと、ひょこっと夏美ちゃんが顔を出した。



「おかえり~ハルにぃ。柚ちゃんもいらっしゃい」



 え? え? と状況がわかっていない私の左手は、ガシッと夏美ちゃんにつかまれた。

 混乱しきっていた私は何の抵抗もできないまま、洗面所で手洗いをさせられ、台所へと連行されることとなった。



 右手は佐々木君。左手は夏美ちゃん。

 これは両手に花というヤツだろうか……嬉しくないけど。



 台所の扉を開けると、ふわっと甘い匂いがした。

 餡子の匂いだ。

 小豆の餡子だけじゃなくて、サツマイモやカボチャも餡にしてあるみたいだし、他にもゴマやきな粉や青海苔も用意してある。



 目を見張るぐらいそれは色鮮やかで、調理実習? などと思いながら渡されたエプロンを身に着けたら、夏美ちゃんのお母さんらしき人が「いらっしゃい」と笑った。

 炊いたもち米を持ってきたお祖母ちゃんらしき人と、その手伝いをしている中井君までいて、心の準備ができていなかった私は倒れそうだった。



 色々といっぱいいっぱいで半べそになる私に、ハイっと軽い感じで佐々木君がすりこ木とホカホカのもち米の入った器を渡してきた。



「ほら、柚ちゃん。半殺し、頑張って」



 ピキン、と固まった私は悪くないと思う。

 今、半殺しって言った。間違いなく、半殺しを頑張れって言った。

 もち米に餡子って言ったら、アレだよね。

 甘いアレ。お萩。



「ねぇ、半殺しって……」

「ご飯粒が半分残るぐらい潰すことよ。夜船……お萩を作るから」



 お母さんがあっさり教えてくれると同時に、ブフッと佐々木君は遠慮なく噴き出して、私はテーブルに突っ伏すように頭を抱えた。

 やられた。半殺しって、そっちか。



 知ってた。うん、半殺しって呼ぶのは知っていた。

 夏のお萩のことを夜船って呼ぶのも、この前の古典で習った。

 色々と知識として知っていたのに、今までの学校生活の流れからつながらなかっただけなんだけど……だからといって、どうしてこんな目にあっているのか。



 ケラケラ笑う佐々木君に、事情が予想できたのだろう。

 お祖母さんとお母さんと夏美ちゃんが白い眼を向け、中井君は「あー」と小さくうなっていた。
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