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しおりを挟む「ううう······痛い······」
アイリスはぼろぼろの姿で芝生に突っ伏した。半分はギヤに頭突き回され蹄で蹴たぐられた傷で、もう半分は自爆である。身体強化がうまく使えず、周りの木にぶつかったり、転んだりしてできた傷だ。
「急所である頭、顔、首、胸、腹はしっかり守れ。目の前の敵だけでなく周りの状況にも気をくばれ。何かにぶつかる可能性はもちろん、森の中じゃ他の敵が乱入してくる可能性もある。それからーー」
うんぬんとラビが頭上から流してくる。そういうことはギヤの群れに突撃させる前に言って欲しかった。
「傷を治したら飯にする。いい加減起きろ」
「はい······」
アイリスはよろよろと立ち上がった。改めて傷を確認すると、打ち身と浅い裂傷がいたるところにある。腕から軽く流れる血を見てなんとなく言ってみた。
「飲む?」
「は?」
「せっかく流れてるから」
血を飲むために傷をつけるのは、できれば避けたい。だから今のうちに飲んでもらえないかな。
そんな思いで腕をつきだしていると、少しの間を置いてラビが傷に口をつけた。ちゅぅと吸われる。
「っ······」
傷口をなめたり吸われたりするたびにピリッとした痛みが走る。血がほとんど出なくなると別の傷口に移動した。繰り返し血を吸い、逆の腕に移動する頃にはラビの様子がおかしくなっていた。
ラビはまるで何かに酔っているみたいに目をとろんとさせている。
「あの、ラビ、まだ足りないかな? もう······。ねえ? ちょっと?」
アイリスの調子もおかしくなってきていた。だんだん、むずむずというかそわそわというか、変な感覚がするから一度やめてほしい。
突然、ガクッと足に力が入らなくなって仰向けに倒れた。つられてラビもアイリスの上に倒れた。
「······」
「······」
「······ラビ?」
「······悪い」
倒れたまま動けず声をかける。
ラビは気まずそうに体を起こして離れた。どうやら正気に戻ったようだ。
芝生の上で二人、無言で座る。気まずくて目を合わせられない。
「えっと······。そうだ、血を何かの器に保管できないかな。そしたら、いつでも好きなときに飲めるんじゃない?」
「······いや、血が体外に出ると魔力も無くなっていくから直接飲んだ方が効率がいい」
「そっか······」
直接じゃなければ、むずむずならずに済むと思ったんだけど、飲むたびに我慢しないとダメか。
ラビがじっとアイリスをーーというかアイリスの流す血を見ている。さっそくか。
「ど、どうぞ······」
アイリスから言い出したことなのだ。ラビが満足するまで吸われよう。そもそも契約の代価をまだ払っていなかったのだし。
血の流れるうでを持ち上げ待つことしばし。
ラビは血を凝視してごくりと喉をならしーー急に立ち上がった。
「······飯を探してくる。何かあったら大声で呼べ」
呆気にとられるアイリスを置いてラビは森の奥へと走り出した。
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