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 アイリスを抱えたまま女性は走っている。たまに魔物に襲われても危なげなく一撃で倒す。
 小脇に抱えられたままガクガクとゆさぶられ続けたせいか、アイリスは気持ちが悪くなった。

「ダンジョンの出口はどっちだったかにゃ。あにゃた、マップを持ってにゃいかにゃ?」
「······う、ぷっぼろろろろろろ~」
「にゃーーー!?」

 女性が立ち止まったところで、アイリスの我慢が限界になりせきが崩壊した。女性は慌ててアイリスを下ろして背を撫でる。

「だ、大丈夫かにゃ?」
「なんとか······」
「えっと、水を持ってるかにゃ? あったにゃ。あ、マップもあったにゃ」
 
 女性はアイリスの荷物から水とマップを取りだし、アイリスに水を渡した。
 アイリスは水で口をゆすいで吐き出したあとぐったりと壁にもたれかかった。

「顔色が悪いから、もう連れていくのはやめるにゃ」

 女性がかがんでアイリスの様子をみながら言った。

「でもウチには魔力が必要にゃ。悪いけど、血を飲ませてもらうにゃ」
「やめ······っ、ぁっ」
 
 アイリスは抵抗しようと腕を出したが押さえつけられてしまい、女性に首筋を噛まれた。
 痛い。ラビ相手だとあまり痛みを感じないのに、今は血を飲まれることがひどく痛い。
 嫌だ。そこは、血を飲んでいいのは、ラビだけだ。

「このっ······!」

 押さえつけられたままアイリスはもがき、押し退けられないとわかると目の前にある女性の肩に噛みついた。

「にゃっ? おとなしくするにゃっ」

 女性は離れたが、すぐにアイリスをうつ伏せにして拘束した。

「暴れにゃければすぐすむにゃ」
「嫌だ······!」

 先ほどからずっと身体強化もして力の限り足掻いているのに、女性はびくとももしない。
 再びアイリスの首に女性が噛みつこうとした瞬間。

「そいつの首を噛んでいいのは俺だけだ」
「にゃぎゃっ!?」

 声がすると同時に女性が蹴り飛ばされ壁にぶつかった。
 どこかで聞いたことのある男性の低い声。すぐには思い出せなかった。
 見上げると男性がいた。初めて見る顔なのに、前にもこんな風に見上げたことがあると感じる。ふいに男性が誰なのか気づいた。

「ラビ?」
 
 ラビはアイリスの襟をつかんで立たせると、女性が噛んでいた場所に噛みついた。

「······ぁ······ぁっ」

 いつもより噛む力が強い。痛みはあるがそれよりも安堵感があった。アイリスは抵抗することなくラビに身を任せた。

「他の奴に飲ませるな。減る」
「ぅん」

 アイリスが頷くとラビはアイリスを支えていた手を放した。アイリスは少しふらついたがどうにか一人で立てた。
 
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