4歳児、転生がバレたので家出する - 後に赤い悪魔と呼ばれる予定です

でもん

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第1章 4歳児、奴隷になる

16. 復讐 ※暴力的描写注意

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「腕が……腕が……俺の腕が……」

 リーダーが突如肘から先を失った自分の腕を呆然とみつめたまま、そう呟いた。そして、

「腕がぁぁぁぁぁ!」

 突如、事態が飲み込めたのか、まるで周囲に噴き出る血を巻き散らかすかのように腕を振り回し、周囲の仲間に向かって叫び始めた。

 ちょっと煩いなぁ……

「静かに」

 僕はそういってリーダーの腹のあたりを、ほんの少し加減をしながら蹴り飛ばす。
 リーダーの上半身は、たったいまスンが締め切ってしまったドアにベタンと張り付いてズルズルと床に落ちていく。下半身から、一瞬血が噴き上がりすぐに収まる。心臓が無い方なので、ポンプの役割をする場所が無いのかな。

「ひっ……ひっ……ひっ……」

 しゃっくりのような音がするので、ドアの方を見ると、そこにさっきから立っていた執事が、両目から涙を流し、口をぽかんといいながら、過呼吸気味にドアに張り付いているリーダーを見つめていた。ありゃりゃ、股間の当たりに黒い染みが広がっているよ。大人なのにな。

「お、おい! お前達! そいつを何とかしろ!」

 ジャンユーグが引きつった声で、自分の部下達に指示を出す。
 執事の股間に注目していた僕はその声で我に返り、声のした方を見ると、ジャンユーグはちゃっかりと本棚の陰に隠れ、室内にいる残りの6人に指示を出したようだ。

 そして、指示を受けた5人がちゃんと距離をとって僕を囲み始めた。

 残った1人は、ああ、僕をダンジョンに突き落とした御者だね。
 腰が抜けたのか、四つん這いになりながらも、ベランダの方へ向かっていた。こいつは、危機察知能力が高いんだろうな。

「お前、今、何をした……?」

 僕を囲んでいる中の一人の男が、こちらに近づかないように最大限に警戒しつつ、僕に質問をしてきた。その声を遮るように、ジャンユーグがポケットのベルを盛大に鳴らす。多分、呼んだのだろう。

「ああ、それは止めておいた方がいいと思いますけど」
「ふん、仲間が武器を持ってすぐにここに駆けつけてくる。魔法か何か知らんが、お前のようなガキ、すぐにナマスのように刻んでやる。お前はもう終わりだ」

 増援が来ることで少し安心したのか、男は表情を引きつらせながらも、口許に下品な笑いを浮かべた。
「いや、そういう意味じゃなくて……ほら、犠牲者が余計に増えるだけだからね、それに……」

 この鎧を着ていた僕を、お前達は、引っかき傷一つも、付ける事が出来なかったじゃないか。もう忘れたの?

 そう言おうとした僕の言葉を遮るように、一人の叫び超えが響いた。

「ふざけるなぶっ!」

 部屋の中に溢れている緊張感に耐えきれなくなったのか、僕の真後ろにいた男が突然飛びかかってきたのだ。

 という事で、軽く裏拳でその顔面を殴り飛ばす。

 あ、しまった。
 首だけが取れて、ものすごい勢いで本棚まで吹き飛んで、砕けてしまった。

 残った身体から大量に吹き出す血が僕の全身を赤く染める。心臓を残すと本当に面倒だ。赤い鎧だから染みが目立たないけど、これは後でちゃんと洗わないと。

 そう思って自分の身体を見下ろしていたら、ドスンっと大きな低い音が室内に響き、「ぐぇ」とカエルを潰したよう悲鳴が聞こえた。

「あれ?」

 顔を上げると、部屋を二つに仕切っていた本棚が倒れて、その下でジャンユーグがバタバタともがいていた。どうやら、今、吹き飛ばした男の頭の勢いを殺しきれず、本棚が倒れてしまったらしい。

「耐震用の突っ張り棒は入れておいた方がいいよ」

 僕はそうアドバイスする。

「む、無理だ……」
「に、逃げろ……おい、開けてくれ!」

 今の一撃で、僕との力の差に気がついたのか、最初に僕に話しかけてきた男を残して、残った3人がドアに向かって一斉に駆け出した。

 僕の言葉の通り、いくらドアをガチャガチャ
「そっちにはスンがいるから、ドアは開かないと思うよ」

 親切な僕は、一応声がけをしておく。

「あと、誰一人、逃がすつもりはないから……くさっ!」

 僕の丁寧な説明を聞いて、今度は小便を漏らしながら立ち尽くしていた執事がブリブリと大便を漏らし始めた。うん、海賊船を思い出す、懐かしい、う◯この香りだ。

「とりあえず、臭いので執事さんは出ていって下さい」
「「「ひっ」」」

 ドアの近くに立って色々とやらかしてくれている執事に僕が近づくと、ドアを叩いていた3人が一斉に部屋の中へ散らばる。まぁ、それは気にせずに、

「くっさ! ほら……」

 僕は執事さんの手を掴むと、手を引っこ抜かないように気をつけながら、ベランダの外へ投げ捨てた。あ、ちょっとコントロールミス……今、まさにベランダの柵を掴んで這い上がろうとしていた御者の背中にヒットし、御者は内側に落ちて気絶。執事だけ、かすかな悲鳴を引きずりながら、外へ落ちていった。

「ああ……なんか、ごめんなさい」

  一応、あの執事には何もされていなかったしね。例えジャンユーグの仲間であっても、僕に対して攻撃を加えた人以外は、なるべく殺さない方針だ。

 ま、御者は逃がすつもりも無いので、結果オーライかな。

「それじゃぁ、時間も勿体無いし、そろそろ終わりにしようか」

「終わりって……」
「そんな……」
「母ちゃん」

 3人はペタンとへたり込んでしまい、その場で涙を流し始めた。

「お前ら! このまま黙って殺られるくらいなら、殺るしか無いだろう」

「そ、そうだ!」
「殺るしか無い!」
「母ちゃん! 俺はやるぞ!」

 ただ一人、気丈にも部屋の中央で俺を睨みつけている男の声に、3人は何か覚悟を決めたのか立ち上がり、身構えた。

「一斉に行くぞ」
「「「はい」」」
「今だ!」

 そう言って、中央の男が僕に飛びかかり、僕の一蹴りで天井に突き刺さった。石造りの建物なので、人間の身体が本当に刺さったかどうかは解らないけど、両腕がくっついた状態で、ぶら下がっているので、ある程度は石の中に食い込んだのだろう。その身体を伝ってボタボタとに血が降ってくる。

 ああ、また僕の身体に汚れがついたよ。

 そして残りの3人と言えば、

「うわ! 邪魔だ!」
「くそ! 汚えぇぞ!」
「お前もじゃないか」

 ベランダへ出る出口に殺到して、なんかドタバタしている。

「出たいなら、出てもいいよ」

 僕はそう言い、出口に詰まっている3人を思い切り外へ蹴り出す。3人は文字通りバラバラに散らばりながら、外の闇の中へ消えていった。さようなら。

「さて、ジャンユーグさん、生きてます?」
「……」

 本棚の下で口をパクパクさせながら藻掻いているジャンユーグの元へ僕はゆっくりと歩き、彼を押しつぶしている本棚を蹴り飛ばす。

 本棚は奥の壁にぶつかり盛大な音を立てて、バラバラになる。

「ケホっ、ケホっ」

 僕とジャンユーグは、その衝撃で舞った埃に咳き込んでしまった。掃除が足りないんじゃないの? 病気にでもなったら、どう責任を取るつもりだ。これでジャンユーグを恨む理由が、もう一つ増えたよ。

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ」

 埃が落ち着き、ジャンユーグを見ると、必死に地面を這い、何かを言いながら、ドアに向かって少しだけ移動していた。その両足は、ちょっと向いては行けない方向に曲がっている。どうやら本棚が倒れた時に砕けちゃったんだね。


「わ、わ、わ、わ」

「ゆ? わ?」

 呂律が回っていないのか何を言っているのか解らないよ。
 僕はゆっくりとジャンユーグの回りを回るように近づき、その顔の近くにしゃがみ込む。

「何って言っているの?」
「ゆ、ゆ、許してくれ。わ、わ、私が悪かった」
「許す?」
「か、金なら……金なら払う。だから、た、た、助けてくれ」
「助ける?」

 面白いことを言うな、この人は。
 さすが商会を背負って立つトップは言うことが違う。

「ジャンユーグさん? 僕も泣いてお願いしましたよね。もう止めてくださいって?」
「ひっ」

 僕の笑顔をみて、ジャンユーグの動きが止まった。

「こんな可愛い子供の僕が、泣いて、叫んで、助けを請うて……それで止めてくれましたっけ」
「だ、だから……許して……あれは……」

 僕はそこで少し声を落として、ここは敢えて日本語でこう言った。

『謝って済むなら警察はいらないんじゃ』

 言葉は通じなかったと思うけど、僕の迫力に、ジャンユーグの目はぐるりと反転し、泡を吹いて気絶してしまった。

----- * ----- * ----- * -----

「スン、行くよ」
「ん」

 中の様子は把握していたのか、先程、ジャンユーグの部下達がいくら開けようとしても開かなかったドアはあっさり開いた。
 僕はほんの少し開けたドアから顔を出し、スンを呼んで見る。

「うわぁ」
「主様、あとよろしく」

 僕の目の前に、スンが涼しげに立っており、その周囲を取り囲むように、全身汗びっしょりの暑苦しい男達が、剣や斧などの思い思いの武器を掲げ、ぜぇぜぇ言いながら、こちらを睨んでいた。

「あ、誰も倒してないんだ」
「ん。それは私の仕事じゃない」

 そういう事か。
 刀の癖に、自分では倒してくれないんだね。どうやら、増援が駆けつけた後、ひたすら防御に徹してくれていたらしい。スンを取り囲んでいた全員は、今にも座り込みそうな程、疲れ果てている。

「そうか、解った」

 スンにそう言って、僕は全員を見回し、

「あー、今から一歩でもこの部屋に入ったら、こうなるよ」

 ドアを前回にして、ドアに張り付きっぱなしのリーダーの姿を見せる。

「ひっ」
「おぇぇぇ」

 ドアを開けた事で、天井に突き刺さっている男の姿も見える。それを見て吐き出す人もいた。

「いいかな?」

 僕の言葉に全員がコクコクと頷く。

「そう。ありがとう。じゃぁ、スン」
「ん」

 僕はスンを招き入れ、ドアを再び閉じる。

 その瞬間、ドアの向こうでバタバタと駆け出す音がした。逃げ出したんだろうね。

「ちょっとだけダンジョンに行ってくるけど、スンはどうする?」
「ちょっとだけなら、ここで待つ」
「そうか」

 スンの答えを聞いて、僕はベランダで気絶そており御者と、泡を吹いて倒れているジャンユーグを掴むと、

「じゃぁ、行ってきます」

 そう言って、一気にベランダから外へ飛び出た。

ググ!」

 僕が念じると、鎧の背中から翼が飛び出し、僕は上昇気流を掴んで大空高く舞い上がる。
 このままこれで一気に行っちゃおう。夜間のゲート破りも、空の上からだし、この時間ならバレないでしょ。

 こうして、僕は気分よく、暗闇の中を飛行し……

「生きてますー?」

 気絶していた二人を軽く叩いて起こす。

「う、うわ!」
「ど、どこだ、ここは」

 もうすっかり外は夜も更け闇に包まれている上、そもそも王都から100キロ以上離れているから、想像もつかないか。

「ほら、ここに見覚えは無い?」
「わ、わしは知らん」
「あ、あ、あ、あ……」

 僕の言葉に御者だけが反応した。
 そりゃそうだ。ジャンユーグには無くても、御者には見覚えのある場所のはずだ。

「どうした? どこなんだここは?」

 御者の動きを見てジャンユーグが詰め寄る。
 といっても、両足が折れているので、腕だけ伸ばして御者の胸ぐらを掴んだだけだが、御者はそれでも自分の雇い主の言葉に悲鳴のような声で、必死に答えた。

「ダ、ダンジョンです! 試練の間があるダンジョンの裏にある通常は使われない入口です!」
「はっ?」

 叫びながらも御者は自分にこの後襲いかかるだろう事態を理解し、必死に僕に拝み始めた。

「ゆ、許してください! 俺はボスに言われただけなんです! 本当はやりたくなかったのに! 本当です! 許してください」

「でも、投げたよね」
「え?」
「僕が死ぬのを解っていて、ここに投げたよね」
「い、いやそれは命令で仕方なく……」
「ふーん、まぁいいや、おじさんは僕を投げる時に『頑張れ』って言ってくれたから」
「ゆ、許してくれるのか?」

 一瞬、御者の表情が緩むが、

「お前も頑張れ」

 その言葉に再び絶望に染まる。

 僕は、御者の首根っこをつかむと、ダンジョンの縦穴に御者を放り込んだ。かぼそい悲鳴と、砂袋が何かにあたるような音が、何度か聞こえ、やがて消えた。

 縦穴、結構深かったからな。運が良ければ、即死はしていないだろう。

「くそ! 貴様、碌な死に方をしないぞ!」

 ジャンユーグは、この先に待ち受ける自分の運命を理解し、さすがに諦めたのか、僕に対して悪態を付き始めた。

「死に方? あの時の拷問よりも酷い死に方ってあるのかな?」

 少なくとも僕には思いつかない。

「さ、それじゃ、復讐ターイム!」
「なんだ、さっさと殺せ!」
「いや、殺さないよ?」

 僕はそんなに酷い子供じゃない。

「ジャーン!」

 僕は鎧から道具を取り出した。

 ハンマー
 ノコギリ
 釘抜き
 酸が入った瓶詰め
 油
 その他もろもろ

 先程、会頭室で見つけた拷問道具をググに仕舞っておいたんだ。

「出来るだけ優しくするからさ、すぐには死なないと思うよ」
「な、な、な、な、な」

 僕の言葉にジャンユーグはガタガタと震え出す。

「何って? 目には目を、歯に歯を……的な?」
「こ、殺すなら一思いに……」

 そう言って、涙を流しながら、僕に懇願する。
 ツンとアンモニア臭が漂ってきたが、どうやら執事と同じような状態になったみたいだ。

「じゃぁ、まず動かなくなったその足を……じゃっじゃじゃーん。トンカチ!」

 僕は、節を付けてトンカチを持ち上げ、そのまま軽く振り下ろす。

「ぎゃー」

 ジャンユーグの足首が砕け、半分取れかかった。

「あれ、こんなにすぐ壊れちゃうと、困るな。もう少し、優しくするね」
「ひっ、ひっ、ひっ」
「じゃんじゃじゃーん! ノコギリ!」

 ジャンユーグの悲鳴が夜の森をコダマする。

----- * ----- * ----- * -----

「じゃぁ、僕は行くね。元気でね、ジャンユーグさん!」

 僕は朗らかに、ジャンユーグだったものに笑いかける。
 四肢は砕けてしまったけど、今までと違い丁寧に壊したので、まだ息はある。

 慈悲深い僕は、落ちている途中で死んだりしないように、僕自身の手で、丁寧にダンジョンの縦穴の下まで彼を運んだ。先程投げ入れた御者はどこにもいなかったけど、ダンジョンの横穴から溢れる薄明かりが、入口付近で中に何かを引きずった後のような跡を映しだしていたので、そういう事だろう。

「あ、この中には、賢そうな蜘蛛が沢山いるから、仲良く暮らしてね!」

 僕の言葉に、ダンジョンに繋がる横穴からカサカサと気配が反応をした。

「お、お願いだ……こ、殺してくれ……」
 
 微かに漏れるような息でそう言ったようにも感じたが、僕は何も応えず笑顔のまま、手を振り、縦穴を一気に駆け上がった。


「そういや、警察とかいるのかな……スンを残したのは、ちょっとやばかったかな……」

 そんな事を考えながら、闇の中を滑空する。急がないとスンが怒りだすかもしれない。出来るだけ急いだので、夜が明ける前に、僕は、再び、ジャンユーグの屋敷に戻る事が出来た。

「あ、そう言えばベランダから落ちた執事さんはどうしたかな?」

 空から、屋敷の外に落ちた山賊と執事さんの姿を探したけど、すでに綺麗に片付けられたのか、何も残っていなかった。それよりも、ランプを持った人が沢山出入りしているんだけど……大丈夫かな?

「スン? 終わったよ」
「ん」

 僕は外から声を掛けつつ開けっ放しのベランダから入った。スンは、ドアの前で膝を抱えて眠っていたようだ。部屋の中に残っていたはずの死体はスンが片付けたのか、すっかり綺麗になっていた。

「大丈夫だった?」
「主様に会いたいって」

 僕の質問にスンはドアの向こう側を指差す。

「会いたい? 誰が?」

 スンは立ち上がり、ドアを開けた。

「うわ!」

 ドアの向こうで寄りかかっていたのか、一斉に何人かの人が倒れてくる。ノコギリとかハンマーを持っている騎士もいるので、ドアを壊そうとしていたのかな。

「シャルル! 大丈夫か!」

 そして、その先頭には青い顔をしたロランさんが……

「大丈夫だよ。ロランさん、一体、何の騒ぎ?」
「何の騒ぎって……エリカから俺はお前がここに連れ込まれたからと……そうしたら外に死体が転がっていて、気が狂った執事や、逃げ出してくるチンピラがいて……」

 そこで、ロランさんは僕の姿に気が付き、すっと目を細める。

「お前、その血は何だ?」
「ええっと、何でしたっけ?」

 正直に言えばいいのか、誤魔化せばいいのか悩む場面だ。

「あいつらの言っていた赤い悪魔か……血は争えんという事か?」
「どういう事?」
「いや、いい。それよりも、一緒に付いてきてくれ。手続きがある。スンちゃんも一緒に」
「ん」

 そう言って、ロランは先に歩き始めた。
 その後に、僕とスンは付いていく。

 手続き、どういう事だ? もしかして、殺人か何かでこのまま警察に連行されちゃうのかな……ま、そんな事より、早く風呂に入りたい。
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