4歳児、転生がバレたので家出する - 後に赤い悪魔と呼ばれる予定です

でもん

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第2章 4歳児、婚約する

2. 内宮殿へ

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「ソフィア、久しぶりー」

 僕は涙ぐむソフィアに努めて明るく声を掛けた。

「シャルル、よく無事で……」

 そんな僕をみてソフィアが涙ぐみながらも、

「あの時は、色々なことが一度に起こって、ちゃんとお礼をいっていませんでした。このソフィア、心から、あなたに感謝を」

 そういって、僕に頭を下げた。
 王族って、こんなに簡単に頭を下げて良かったんだっけ?

「こうやってみると、ソフィアも、本当にお姫様っていう感じだね。そういえば、ついこの間まで商家の娘だったって言っていなかったっけ?」
「そうね。私がシャルルくらいの頃は、お父様もまだこの国の公主として封ぜられていなかったから……でも、その頃から、このくらいは出来たわよ」

 商家って、そういう感じなんだ。
 一応、僕も良いところのお坊ちゃんのはずだが、まぁ、前世はうだつのあがらないサラリーマンだったし、上品なふるまいには縁がなかった。

「そういえば、カーラさんは?」
「後で会えるわ。でも、まずは陛下に紹介しないと。案内するから一緒にきて」
「やっぱり公王陛下に合わないと駄目?」

「シャルル、そこは諦めろ。この街にいる以上、公王陛下からの召喚状は絶対だ。ソフィア殿下、お初にお目にかかります。ロラン・グランツです」

 ロランは僕を窘めた上で、ソフィアに挨拶をした。

「こちらこそ、ご挨拶が遅れました。グランツ閣下には我が国も大変お世話になっております」
「いえ、そんなことは。それに今回は、このシャルルの保護者という事でお伺いしております」
「組合から連絡はもらっていましたので、聞いてはおりましたが……変な所で、ご縁が出来たものですね」
「そうですね」

 前世の『俺』からすると、まだ幼いソフィアが立派に外交的なやりとりをしているのには驚いた。やはり立場が人を作るって事なんだろうか。あの臭い海賊船の船底に居た頃とは大違いだ。

「それでは、ご案内します。事務局長、ご苦労様でした」
「ありがとうございます、お嬢さ……ソフィア殿下」

 ソフィアのその声に事務局長以下の面々が頭を下げる。
 お嬢様と言いかけたのは商家の頃の名残かな。

----- * ----- * ----- * -----

「そういえば、カーラさんの怪我は? オークションの時、腕を吊っていたよね?」

 僕は歩きながら海賊船から脱出した後の状況を確認してみた。

「あの時……突然、化物がシャルルを海に引きずり込んでしまった際に、カーラも肩をやられちゃって……まだ完全には治っていないわ。どうも治りが遅いみたいなの」

 そうだったんだ。

「それでも、二人で慌ててシャルルが浮かび上がってこないかと周囲を探していたんだけど、結局……ごめんなさい」
「い、いや、いいんだよ。それに僕も海の中で気絶しちゃって、気がついたらエズの村人の家で寝ていたから……」

 その後、役場に連れて行かれて、奴隷として売られてしまったけどね。

「私達もあのあとエズの村まで手漕ぎで何とか辿り着いて、エズにある私達が商家の頃から持っていた屋敷でいって、ようやくお父様へ連絡ができたの」
「そうだったんだ。じゃあ、すぐ近くにいたんだね」
「そうね。でも、カーラの治療のために、すぐ公都へ移動してしまって……本当にごめんなさい。役場に伝えておけば、奴隷として売られる事もなかったのに」
「僕が奴隷として売られた事を知っていたんだ」

 もう少し、運が僕に傾いてくれていれば、屋敷で保護してもらえたかもしれなかったんだね。

「海に沈んでしまったから、もう無理だと思ったんだけど、公都についてから、エズの役場に念のため『赤い鎧を着た男の子』が辿り着いたら保護するようにと連絡したんだけど、すでにその時、シャルルはエズを出発した後だったの」

 おしい。

「シャルルを送り出した担当者が、ちょうど辞めてしまっていたので、あなたが、どこに送られたかがちゃんと解ったのがオークション当日。慌ててカーラと私が自由に出来る全財産を持って会場に駆けつけたんだけど……」

 そう言って、ソフィアは顔を伏せる。
 ああ、だからあそこで僕を買い取ろうとする事ができたんだね。命を助けたといっても、僕は海賊側の人間だった訳だし、そこまでしてもらう必要はなかったのに。

「本当にありがとう。僕を助けるために動いてくれただけでも、嬉しいよ」
「ううん。それに、ただ命を助けてくれたから……という訳じゃないし……」

 そういって、伏せたままの顔を赤らめた。
 なんだろう。何か言いにくい事情でもあるのかな。

「と、とりあえず、まずは陛下にご挨拶を」
「うん。でも、僕、王様に会うための礼儀作法なんてしらないよ?」

 言いづらそうにしているのが少し気になったけど、僕としては、この後の謁見の事を考えると胃が痛む。実際、取引先の社長に会うよりは、ハードルが高い気がする。

「大丈夫。シャルルの年齢なら、出来なくても不敬には当たらないし……ついこの間までは商会の会長だったので、そこまで礼儀作法には煩くないわ」
「それならいいんだけど……」

 社長より上、取引先の会長くらいに思っておけばいいのか?

「仕方ないか……会長に会うくらいの覚悟で、頑張るよ」
「シャルルは商会の会長に会ったことあるのか?」

 ロランが、僕の言葉が引っかかったのか、嫌なツッコミ方をしてきたけど、

「無いよ」

 とりあえず、変な誤魔化しをして、転生がバレるような事はせずに、正直に回答をした。

 実際、仕事で会長が出て来るようなシーンは無かったしね。社長クラスなら何度もお会いした事があるが、平社員の『俺』が直接、会話をする事が出来るような小規模の企業の社長だったので、気楽なもんだった。

「でも、公都は公王陛下の都なんでしょ? すごいね。最近、公王になったばかりなのに、こんな大きな街を……」

 話しを逸らす事もあったが、疑問に思っていたことをソフィアに聞いてみる。

「シャルル、それは順番が違うんだ」

 僕の疑問にはロランが答えてくれた。

「この街は、元々アマロ商会があったアラルコン村を中心に作られている。アマロ商会の発展とともに村が大きくなったため、特別に王国からアラルコン及び、周辺にあった、いくつかの村を領地とする公王として、この地に封ぜられる事になったんだ。それが、このアマロ公国であり、アマロ公王家といううわけだ」

 へぇ、まさに立身出世の物語だね。
 せっかく転生したんだから、そういうのを僕がやりたかったんだけどなぁ……
 父上といい、公王陛下といい、転生者の行末を阻んでくれるもんだ。もしかして公王陛下も父と同じように、転移者だったりするんだろうか。チャンスがあったら探ってみよう。

「それが、ほんの6年前。私が5歳の頃の話なの」
「ソフィアは、今、11歳なんだ」
「そうよ。あれ、言っていなかった?」
「うん。まぁ、そのくらいかなって思っていたけどね」

 お姫様歴5年っていう訳なんだね。

「商会から公王に封ぜられたという事で、王国が抱える周辺公国や大公国の間でも、経済発展の結果生まれたアマロの建国譚は最近の事として語られているんだ」
「それにしては立派な公宮なんだね」

 僕はそういって周囲を見回した。
 前世でも、これほど大きな石造りの建造物は、あまり無いだろう。

「あ、ここは元からあったうちの商会本部と、屋敷なの」
「公宮として作られた訳じゃないんだね」
「うん」

 そういって、廊下の奥にある大きな扉の前までやってきた。
 ソフィアは立ち止まり、優雅に膝を軽く曲げてお辞儀をし、

「この奥で陛下がお待ちです。私は後ほど……あ、背中の武器はお預かり……」

 こう言った。
 一瞬、つられて刀を渡しそうになったけど、僕としては、これは出来ない話だ。 

「ごめん。無理」
「え、でも……」
「これを預けるなら、僕はここで帰るよ」
「シャルル……」

 ロランも困った顔をするが、僕はスンと離れる気は無い。

「……ソフィア殿下。この武器は魔具でございます。人化も出来るので、もし許していただけるなら、人化した上で謁見させていただく事は出来ないでしょうか?」
「まぁ、魔具ですの!」

 突然、ソフィアの目が輝いた。
 そして、僕の肩を掴み反転させると背中の刀をマジマジとみつめる。

「そ、それも人化できる魔具なんて……一体、売ればいくらの価値が……じゅる……商人の娘の血が騒ぐ……あ、失礼しました」

 一瞬でヨダレまで垂らしたようにも見えたが、ソフィアはすぐに我に返り、

「シャ、シャルル。もし差し支えなかったら、鞘から出して刀身を見せてくれないかしら」

 食いつかんばかりの勢いで、僕の肩をつかんでこう言った。

「み、見せたら、このまま一緒でもいい?」
「……ええ、いいわ。ちょっとここで待っていてもらう事になるけど、私が必ず許可を取ってきます」
「そう。だったらいいよ。ほら」

 僕はそういって、背中からゆっくりと刀を外した。

「刀身も見せてくれないかな?」
「わかった」

 僕はソフィアの願いを聞き、鞘から抜刀して、黒檀のようにあまり光を反射しない黒い刀身をソフィアに見せた。

「す、凄い……これ、本当に魔具なの? 本当に人化するの?」
「本当だよ。スン、出ておいで」

 その瞬間、刀が光り、僕とソフィアの目の前にスンが姿を現した。

「……」
「……」
「……」

 僕とソフィア、そしてロランも含め、スンの姿を見て言葉を失った。

主様ぬしさま、なんの羞恥プレイ?」

 ソフィアの勢いに、すっかり忘れてしまっていたが、抜身でスンを呼び出したので、スンは全裸だったのだ。

----- * ----- * ----- * -----

 スンの変化と同時に鞘は、スンが着る着物に変わっている。僕は床に落ちた着物を無言のまま拾ってスンに手渡した。

「ん」

 受け取ったスンは、僕の陰に隠れて、着替え始めた。
 帯もきっちり締め、ちゃんと着替え終わると、ソフィアを正面に見据えて、

「主様がお世話になった」

 そう頭を下げた。

「え、あ、ああ。ごめんなさい」

 スンが現れてから固まっていたソフィアは、そう言って、深呼吸をすると、

「はじめまして。アマロ公国第4公女のソフィア・モルガーヌ・バルゲリー・アマロです。銘を……お名前をお伺いしてもよろしいかしら」

「ん」

 ソフィアの問いかけに、スンはそう返事をして僕のことを見る。
 これは僕が答えろって事なのかな?

「この子はスン。国を出た時に父から貰った……魔具らしいんだ」
「そう……でも海賊船では見なかったけど」

「あの時は海の底。海藻にまみれてた」

 スンが横目で僕を見ながら、ソフィアの疑問に答えた。海に捨てられていたこと、まだ根に持っているのかな。あれは不可抗力というものだ。

「そうなの。解ったわ。人化していれば大丈夫だと思うけど、一応、陛下と近衛騎士団長に許可を取ってきます。そこの控室でお待ち下さい」

 ソフィアはそういって、ドアの横にある廊下の先を指差し、自分は反対側の方へ歩いていった。

----- * ----- * ----- * -----

 ソフィアに教えてもらった部屋は控室なのか、ソファと机が置いてあるだけの簡素な部屋だった。それにしても公王の直ぐ側にいるっていうのに、衛兵が近くにいたりしないんだな。セキュリティ的に大丈夫なのだろうか……

 僕が一度締めたドアを開けて外の様子を窺ったりしているのを察したのか、

「元々、経済的に豊かな街だという事もあって、治安がいいんだよ。ここも商会本部だった事もあって、本国のようなガチガチの警備はしていないんだ」
「本国?」
「ダビド王国の事だよ」
「ダビド王国……」

 さっきから王国というキーワードを聞き流していたけど、それがダビド王国という事なのか……そういえば、母がそこの元王女で元聖女だったような……深く聞くのは止めておこう。

「とりあえず、待っていればいいんだよね」

 その時、タイミングよく、ノックの音がした。

「どうぞー」

 僕が返事をすると、ドアが開き、そこには、

「カーラさん!」

 ソフィアのお付きで、一緒に海賊船に乗っていたカーラさんが立っていた。

「シャルル様、ご無沙汰しております」

 相変わらず大きいオッパイだったけど、左腕を包帯で吊っていたのは、オークション会場で見かけたときのままだった。それに、顔色もあまり良くない。

「お久しぶりです。カーラさん、大丈夫ですか? あまり顔色が……」
「肩を撃ち抜かれた後、どうも調子が悪くて……でも、これでもかなり良くなりました。ご心配には及びません」

 そう言いながらも、言葉には力が無い。

「そうですか。お大事にしてください」
「はい。ありがとうございます。早速ですが、公王陛下のご準備が整いましたので、お三方をご案内しろと指示されております。付いてきていただけますでしょうか」

 案内って、この部屋を出て、すぐそこの扉を開けるだけだと思っていたんだけど……

「え、すぐそこじゃないの?」
「はい。そちらの……スン様もご一緒されるという事で、謁見の場が変更になりました」
「そうですか。わかりました」
「内宮殿までご案内します」

「内宮殿だと!」

 ロランが声を上げた。

「はい。公式の謁見の場には人化出来るとはいえ、やはり武器の持ち込みは原則出来ないとの近衛騎士団長のご判断で、私的な謁見という事に急遽変更になりました」
「なるほど……それで内宮殿という訳か……だが、それだと申し訳ない。私の立場では内宮殿の中に入ることが出来ない」

 ロランが残念そうにそう言った。

「え、そうなの? ここからは僕とスンだけ?」
「すまん、シャルル、スンちゃん。公王と内宮殿で会うというのは私的な付き合いと看做されるので、俺のような高位の国際ラインセンス持ちは、冒協連の許可がいるんだ」

 国際冒険者協会連合の事だね。
 なんか、日本でも似たような名前の機関がいくつもあったような気がする。まぁ、大人の政治って事なんだろうか……

「わかった。じゃあ、頑張って、スンと二人で会ってくるよ」
「すまない。俺は外で待っておくから……問題を起こすなよ」
「大丈夫だよ……多分」
「頼むぞ、マジで」
「善処します」

 不安そうなロランを残して、僕とスンはカーラの案内で、王宮の更に奥、内宮殿に向うことになった。まぁ、自分自身でも、スンと二人で謁見するという事に、一抹の不安はあるものの、どうしようも無い話しだしな。

 いざとなったら、ここから逃げ出せばいいか……そのくらいに考えて気楽に行ってみよう。
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