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第2章 4歳児、婚約する
17. 赤い悪魔団
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タニア商会の奥にあるタニア婆さんの私邸で、僕が引き取る事になった半獣人の子供達は楽しい日々を過ごしていたようで、ドア越しにも、笑い声が聞こえていた。
僕が部屋に入ると、頭の上にピンと耳を立てた男の子が、号令をかける。
「整列!」
その声に子供達が僕の前に並ぶ。
「番号! わん!」
「にぃ」
「しゃん」
「疾ッ」
「こん」
「ろくぅ」
「にゃにゃ」
なんかそれぞれだな。
「えーと」
「シャルル兄貴、いつでも準備はOKです」
「あ、兄貴?」
「はい。俺たち赤い悪魔団、きっちり兄貴のお供が出来るよう準備万端です」
「はい?」
いや、君たち、僕と会うの2度目だよね。
「やっぱりハーレム化するのかなぁ」
「年上の婚約者に、あの綺麗な女の子。私たちもそこにまぜてもらえるんですね」
「はーれむってなんですか?」
「ぽっ……」
女の子組がボソボソと話している。いや、聞こえているけど。
しかし、本当にこの子達、あの牢につながれ世の中に絶望したような目をしていた子供たちか?
「えーと」
「アルスです。兄貴」
最年長らしき犬っぽい男が答えた。
「アルス?」
「はい。犬族とのハーフ、アルスです」
孤児達のリーダと同じ名前じゃん。ややこしい。
「ややこしいので、名前変えていい?」
「はい」
「え? いいの?」
びっくりした。
半獣人って、自分の名前にそんな拘りは無いのかな……
「由緒あるアルスという名前ですが、兄貴のご指示とあれば、早速。名前を付けるのが面倒であれば、イヌとでも呼んでください」
そう言いながら、全力で尻尾を振っている。
「……わかった。とりあずイヌ君で」
「やった! 兄貴から名前をもらった!」
そういいながらアルス改めイヌ君になった半獣人の男の子が部屋中を走り始めた。
「わわわ、壊すから! なんかそこに高そうな壺があるから! ストップ、ストップ ……ああ、もう! 待て! お座り!」
その瞬間、イヌ君はピタッと止まって、その場でしゃがみ込んだ。
もう本当に犬だよ、これじゃ……
「えーと、それじゃぁ」
そう言って、なんとか出発をしようとするが、他の6人の子供達がもの凄い期待するような目で、僕の事を見ている。
「何?」
「ご主人様」
そういって、整列の時、イヌ君の隣にいた、これまた犬っぽい男の子が尻尾を振りながら、その場に座った。
「僕にも名前をください。僕にも名前をください」
「えー」
そして、横に並んでいる子供達を眺めると、みんな、同じように頷いている。
「名前、僕が付けるの?」
「ええ、お願いします。私たち、帰る場所もありませんし、シャルル様に引き取って貰うのであれば、是非、シャルル様に名前を付けてほしいのです」
そう答えたのは、座り込んだイヌっぽい子の隣で立っている明らかに兎だと解る白い耳を持つ女の子だ。落ち着いた雰囲気だが、片方の耳が折れているのが可愛らしい。この中で一番大きいのかな。
「そうなの?」
「はい」
「頼む」
「うん」
「よろしくお願いします」
「頼むよ」
みんな笑顔で名前を付けて欲しいと言う。
なんだ、このイベント。
だけど、ここで変に断ると長くなりそうな気もしたので、僕は見た目に合わせて、さくっと名前を付けていくことにした。恨むなよ。
イヌ君よりは年下に見える、名前が欲しいと座り込んだ男の子には、犬の伝統的な名前タロウを授けた。尻尾を振って喜んでいる。イヌ君の実弟だそうだ。
うさ耳を持つ女の子は、ウサ子と命名。見た目通り、兎族と人族とのハーフ。この中では最年長の9歳だとの事だ。年齢の割には落ち着いた雰囲気だ。ウサ子という名前は失礼かとも思ったが、ほのかに漂う残念な子の空気から、僕はこの名前を選択した。
その横にいる、まるで日本の忍者のような格好をしている女の子は、そのまんまシノブ。ムササビ族と人族のハーフらしい。しかし、どこでこんな装束を見つけてきたのだろう。
5番目も女の子だ。
白っぽい反物で作られた着物を着用している。スンと被るな。
キツネ族とのハーフらしいのだが、見た目は、ほぼ人族だ。違いといえば、綺麗な毛並みのフワフワした大きな尻尾だけ。褒めたらもの凄い喜んでいた。背も小さくて可愛らしい。聞けば僕と同じ4歳との事。名前は、コンとした。同い年のタロウと仲良しのようだ。あ、僕も同じ4歳なんだけどね。
6番目は一番身体の大きい、クマ族と言い張る、どうみてもパンダ柄の男の子。年齢はイヌ君と同じ7歳。陽気だけどおっとりとした性格のようで、僕が色々話しかけてもニコニコしている。そしてベジタリアンらしい。やっぱりパンダじゃん! でもクマという所は譲れないらしいので、そのまんま、クマと名付けた。パンダと名付けたりしたら、アイデンティティが崩壊しそうだったしな。
最後、これまた綺麗なネコミミを生やしている女の子。名前はそのままニャンと名付けた。この子もイヌ君と同い年らしい。おませな性格のようで、ハーレムと言い出したのも、この子だ。
「それじゃぁ、もういいかな」
「「「はい、ご主人様!(兄貴)」」」
「あー、僕の事はシャルルでいいから」
「はい! ご主人様(兄貴)」
名前を付けたから、ご主人様という事らしい。イヌ君だけ、頑なに兄貴と呼んでくるけど。
なんか、疲れた。
「それじゃぁ、みんな準備出来ているんだよね、行くよ!」
「はい」
僕が声をかけたが、みんな何かを期待するようにウズウズとしてこちらを見てる。
えー、何? 何か足りない?
僕が戸惑って、イヌ君の方を見ると、イヌ君が小声で、
「赤い悪魔団」
と言ってきた。
いや、本当に恥ずかしいから止めて欲しいんだけど……だが、子供達は僕の事をじっとみつめて、待ち続ける。イヌ君とタロウは全力で尻尾を振っている。
「イヌ君、本当に恥ずかしいし……できれば、おとなしく付いてきてくれると嬉しいんだけど」
「いえ、兄貴。これは必要な事なので」
だから、僕には必要無いんだって。
だけど、このままじゃ埒が明かないので、
「じゃ、じゃぁ、僭越ながら……」
僕はイヌ君の指示通り、出来るだけ小さな声で号令を出す。
「赤い悪魔団、出陣!」
「「「「「「「おおー」」」」」」」
穴があったら入りたい。
***
タニア商会の前で、出かける準備をしていると、子供が子供を率いようとしている姿に、周囲から奇異の目で見られた。今更気にしないけど。
「ご主人様、子作りは大人になってからね」
「知らん!」
猫族ハーフのニャンがませた事を言ってきた。
4歳の子供に7歳の子供が何を求めるのだ。
「ニャンちゃん、ご主人様を困らせちゃだめですよ」
「はーい」
ウサ子は9歳とは思えないくらい、大人びているなぁ。
人と違って、ウサギの9歳並って事なのだろうか……ウサギの寿命って何歳くらいなんだろう。
「兄ちゃん、よかったね。二人で良い名前をつけてもらって」
「ああ、そうだな、タロウ。これからも兄弟仲良くやっていこうな」
俺のすぐ後ろでイヌ君とタロウが二人仲良く手をつないでいる。
ごめんな、イヌ君。タロウの方が本当は兄に付ける名前なんだよ。
「で、シノブ。いちいち物陰に隠れなくていいからな」
「……(こく)」
シノブは商会を出ると同時に建物の影に飛び込み、こちらの様子を窺っていた。
無口キャラはスンで間に合っているんだけどなぁ。
「クマ、大丈夫か? その態勢、疲れないか?」
クマが、最年少の女の子コンを肩に乗せていた。どうみても、パンダにしか見えないけど。
「だ、大丈夫です」
「おりようか?」
コンが健気にも、クマにそうつげるがクマは一生懸命顔を横に振り、大丈夫だとアピールする。なんだ、この可愛らしいツーショットは。
「無理するなよ。どちらにせよ、このあと長旅になるんだ。こんな所でへばっても困るからな。疲れたら言うんだぞ」
「「「「「「「はーい」」」」」」
よし、なんだか引率の先生のような気分だが、大丈夫だろう。
これにあと11人、孤児院の子供がいるんだよな。合計18人……それに僕とスン、エリカ……21人をどうやってビチェまで行くかだ……まさか歩いて行くわけにもいかない。
あ、そうだ。
「タニアさん!」
商会のドアを開け、中でバタバタと走り回っている従業員にハッパをかけているタニア婆さんに声をかける。
「なんだい!? 何かあったのか?」
「ビッチェまで行くのに馬車が必要。ちょうだい!」
僕は可愛らしく右手を出す。
「何人乗りだい?」
「全部で21人、それに荷物も積むかな」
タニア婆さんは少し考え……
「おい、20人は乗れる4頭建ての大型馬車があっただろう。あれを用意しな」
「え、会頭あれは……」
「つべこべ言うな。アタシらが持って行く荷物を売り払えば問題ない」
「わ、わかりました」
なんか、必要なものだったのかな。
「あ、だ、代金は払うよ」
「ふん、馬に馬が食べる干し草、当座の食料は積んでおくよ」
「それでおいくらに……」
僕はタニア婆さんの目をじっとみつめる。
「へぇ、本当に払う気があるようだね。気に入った、元からあの子らを歩いて行かせよう何て考えていなかったから問題ないよ。持って行きな」
「え? いいの……」
「ああ、アタシの気が変わらないうちに持って行きな」
「ありがとうございます……あ、そうだ」
そこで、僕は肝心な事を思い出す。
「そんな大きな馬車だと、釣り合わないかもしれないけど、これで……」
僕は鎧に格納していた師匠の下着を取り出した。
「これは!?」
「蒼龍の鱗です」
「なんでこんなものを坊やが……いや、炎龍の鱗の鎧を着ていた坊やだ。そのくらいは、ありえる事か……」
そういって、僕が指しだした蒼龍の鱗を机の上におくように指示する。
「こんだけあれば、馬車は何十台と買うことが出来るよ。とりあえず、これはアタシが預かっておく。坊やは……」
タニア婆さんが僕に待つように手で示して、商会の奥へ入っていき、しばらくして戻ってきた。
「この札を持って行きな。これさえあれば各国のタニア商会は勿論の事、提携している商会なら、この札を見せれば、いくらでも現金が引き出せるよ」
「そうなの?」
僕は手渡された真鍮のような素材の板切れを眺める。表面には、何やら象形文字のようなものが刻まれている。
「これは、坊やの素性についてタニア商会が全面的に保証するという証さ。逆にこの札を出した人間を騙したりしたら、タニアとその関連グループ全てを敵に回す事になる」
なんだ、そのヤ○ザみたいな組織構造は。
「まぁ、担保として、この鱗は預かっておくよ」
「わかった。ありがとう」
ちょうどその時、商会の入り口に、馬鹿みたいにでかい屋根が付いている馬車が運ばれてきた。
「それに乗っていきな。御者は……あのクマ族の子が出来るはずだ。あの一族は森の支配者で、馬はその支配下にある」
へー、そんな力関係があるんだ。あのパンダ……クマに。
とりあえずドアを開け、外で待っていたクマに声をかける。
「クマ、この馬車の御者を頼める?」
クマは、コンを肩に乗せたまま大きく頷いた。
そして、幌の上にはいつのまにシノブが腹ばいになって張り付いている。
「シノブ……まさか、そこで行く気か?」
「……(こく)」
シノブが静かに頷いた。
そうか。
まぁ、本人がいいならそれでいいんだけど……無理するなよ。
「馬は6頭連れていきな。途中で交代させるようにして、常に4頭で牽かせること。馬が倒れたらおしまいだから、大事に使えよ」
「はい」
「ビッチェに付いたら、ここと同じ看板がある商会を訪ねな。そこに馬車と馬を返せばいい。数日遅れて、アタシらも行くから、そこからは船旅だ」
何から何までありがとうございます。
僕はそういう思いを込めて、頭を下げた。
「ちっ、子供のくせに如才ないね。いいよ、坊やくらいの頃は、大人にちゃんと甘えておきな」
「はい」
「気をつけるんだよ」
「はい! 行ってきます!」
***
クマが手綱を取り、馬車を走らせ孤児院に着いた。
「ここで待っていて」
僕はそういって教会のドアを開ける。
「……何しに来たの?」
そこには、公宮にいた偉そうなローブの5人衆が待っていた。
僕が部屋に入ると、頭の上にピンと耳を立てた男の子が、号令をかける。
「整列!」
その声に子供達が僕の前に並ぶ。
「番号! わん!」
「にぃ」
「しゃん」
「疾ッ」
「こん」
「ろくぅ」
「にゃにゃ」
なんかそれぞれだな。
「えーと」
「シャルル兄貴、いつでも準備はOKです」
「あ、兄貴?」
「はい。俺たち赤い悪魔団、きっちり兄貴のお供が出来るよう準備万端です」
「はい?」
いや、君たち、僕と会うの2度目だよね。
「やっぱりハーレム化するのかなぁ」
「年上の婚約者に、あの綺麗な女の子。私たちもそこにまぜてもらえるんですね」
「はーれむってなんですか?」
「ぽっ……」
女の子組がボソボソと話している。いや、聞こえているけど。
しかし、本当にこの子達、あの牢につながれ世の中に絶望したような目をしていた子供たちか?
「えーと」
「アルスです。兄貴」
最年長らしき犬っぽい男が答えた。
「アルス?」
「はい。犬族とのハーフ、アルスです」
孤児達のリーダと同じ名前じゃん。ややこしい。
「ややこしいので、名前変えていい?」
「はい」
「え? いいの?」
びっくりした。
半獣人って、自分の名前にそんな拘りは無いのかな……
「由緒あるアルスという名前ですが、兄貴のご指示とあれば、早速。名前を付けるのが面倒であれば、イヌとでも呼んでください」
そう言いながら、全力で尻尾を振っている。
「……わかった。とりあずイヌ君で」
「やった! 兄貴から名前をもらった!」
そういいながらアルス改めイヌ君になった半獣人の男の子が部屋中を走り始めた。
「わわわ、壊すから! なんかそこに高そうな壺があるから! ストップ、ストップ ……ああ、もう! 待て! お座り!」
その瞬間、イヌ君はピタッと止まって、その場でしゃがみ込んだ。
もう本当に犬だよ、これじゃ……
「えーと、それじゃぁ」
そう言って、なんとか出発をしようとするが、他の6人の子供達がもの凄い期待するような目で、僕の事を見ている。
「何?」
「ご主人様」
そういって、整列の時、イヌ君の隣にいた、これまた犬っぽい男の子が尻尾を振りながら、その場に座った。
「僕にも名前をください。僕にも名前をください」
「えー」
そして、横に並んでいる子供達を眺めると、みんな、同じように頷いている。
「名前、僕が付けるの?」
「ええ、お願いします。私たち、帰る場所もありませんし、シャルル様に引き取って貰うのであれば、是非、シャルル様に名前を付けてほしいのです」
そう答えたのは、座り込んだイヌっぽい子の隣で立っている明らかに兎だと解る白い耳を持つ女の子だ。落ち着いた雰囲気だが、片方の耳が折れているのが可愛らしい。この中で一番大きいのかな。
「そうなの?」
「はい」
「頼む」
「うん」
「よろしくお願いします」
「頼むよ」
みんな笑顔で名前を付けて欲しいと言う。
なんだ、このイベント。
だけど、ここで変に断ると長くなりそうな気もしたので、僕は見た目に合わせて、さくっと名前を付けていくことにした。恨むなよ。
イヌ君よりは年下に見える、名前が欲しいと座り込んだ男の子には、犬の伝統的な名前タロウを授けた。尻尾を振って喜んでいる。イヌ君の実弟だそうだ。
うさ耳を持つ女の子は、ウサ子と命名。見た目通り、兎族と人族とのハーフ。この中では最年長の9歳だとの事だ。年齢の割には落ち着いた雰囲気だ。ウサ子という名前は失礼かとも思ったが、ほのかに漂う残念な子の空気から、僕はこの名前を選択した。
その横にいる、まるで日本の忍者のような格好をしている女の子は、そのまんまシノブ。ムササビ族と人族のハーフらしい。しかし、どこでこんな装束を見つけてきたのだろう。
5番目も女の子だ。
白っぽい反物で作られた着物を着用している。スンと被るな。
キツネ族とのハーフらしいのだが、見た目は、ほぼ人族だ。違いといえば、綺麗な毛並みのフワフワした大きな尻尾だけ。褒めたらもの凄い喜んでいた。背も小さくて可愛らしい。聞けば僕と同じ4歳との事。名前は、コンとした。同い年のタロウと仲良しのようだ。あ、僕も同じ4歳なんだけどね。
6番目は一番身体の大きい、クマ族と言い張る、どうみてもパンダ柄の男の子。年齢はイヌ君と同じ7歳。陽気だけどおっとりとした性格のようで、僕が色々話しかけてもニコニコしている。そしてベジタリアンらしい。やっぱりパンダじゃん! でもクマという所は譲れないらしいので、そのまんま、クマと名付けた。パンダと名付けたりしたら、アイデンティティが崩壊しそうだったしな。
最後、これまた綺麗なネコミミを生やしている女の子。名前はそのままニャンと名付けた。この子もイヌ君と同い年らしい。おませな性格のようで、ハーレムと言い出したのも、この子だ。
「それじゃぁ、もういいかな」
「「「はい、ご主人様!(兄貴)」」」
「あー、僕の事はシャルルでいいから」
「はい! ご主人様(兄貴)」
名前を付けたから、ご主人様という事らしい。イヌ君だけ、頑なに兄貴と呼んでくるけど。
なんか、疲れた。
「それじゃぁ、みんな準備出来ているんだよね、行くよ!」
「はい」
僕が声をかけたが、みんな何かを期待するようにウズウズとしてこちらを見てる。
えー、何? 何か足りない?
僕が戸惑って、イヌ君の方を見ると、イヌ君が小声で、
「赤い悪魔団」
と言ってきた。
いや、本当に恥ずかしいから止めて欲しいんだけど……だが、子供達は僕の事をじっとみつめて、待ち続ける。イヌ君とタロウは全力で尻尾を振っている。
「イヌ君、本当に恥ずかしいし……できれば、おとなしく付いてきてくれると嬉しいんだけど」
「いえ、兄貴。これは必要な事なので」
だから、僕には必要無いんだって。
だけど、このままじゃ埒が明かないので、
「じゃ、じゃぁ、僭越ながら……」
僕はイヌ君の指示通り、出来るだけ小さな声で号令を出す。
「赤い悪魔団、出陣!」
「「「「「「「おおー」」」」」」」
穴があったら入りたい。
***
タニア商会の前で、出かける準備をしていると、子供が子供を率いようとしている姿に、周囲から奇異の目で見られた。今更気にしないけど。
「ご主人様、子作りは大人になってからね」
「知らん!」
猫族ハーフのニャンがませた事を言ってきた。
4歳の子供に7歳の子供が何を求めるのだ。
「ニャンちゃん、ご主人様を困らせちゃだめですよ」
「はーい」
ウサ子は9歳とは思えないくらい、大人びているなぁ。
人と違って、ウサギの9歳並って事なのだろうか……ウサギの寿命って何歳くらいなんだろう。
「兄ちゃん、よかったね。二人で良い名前をつけてもらって」
「ああ、そうだな、タロウ。これからも兄弟仲良くやっていこうな」
俺のすぐ後ろでイヌ君とタロウが二人仲良く手をつないでいる。
ごめんな、イヌ君。タロウの方が本当は兄に付ける名前なんだよ。
「で、シノブ。いちいち物陰に隠れなくていいからな」
「……(こく)」
シノブは商会を出ると同時に建物の影に飛び込み、こちらの様子を窺っていた。
無口キャラはスンで間に合っているんだけどなぁ。
「クマ、大丈夫か? その態勢、疲れないか?」
クマが、最年少の女の子コンを肩に乗せていた。どうみても、パンダにしか見えないけど。
「だ、大丈夫です」
「おりようか?」
コンが健気にも、クマにそうつげるがクマは一生懸命顔を横に振り、大丈夫だとアピールする。なんだ、この可愛らしいツーショットは。
「無理するなよ。どちらにせよ、このあと長旅になるんだ。こんな所でへばっても困るからな。疲れたら言うんだぞ」
「「「「「「「はーい」」」」」」
よし、なんだか引率の先生のような気分だが、大丈夫だろう。
これにあと11人、孤児院の子供がいるんだよな。合計18人……それに僕とスン、エリカ……21人をどうやってビチェまで行くかだ……まさか歩いて行くわけにもいかない。
あ、そうだ。
「タニアさん!」
商会のドアを開け、中でバタバタと走り回っている従業員にハッパをかけているタニア婆さんに声をかける。
「なんだい!? 何かあったのか?」
「ビッチェまで行くのに馬車が必要。ちょうだい!」
僕は可愛らしく右手を出す。
「何人乗りだい?」
「全部で21人、それに荷物も積むかな」
タニア婆さんは少し考え……
「おい、20人は乗れる4頭建ての大型馬車があっただろう。あれを用意しな」
「え、会頭あれは……」
「つべこべ言うな。アタシらが持って行く荷物を売り払えば問題ない」
「わ、わかりました」
なんか、必要なものだったのかな。
「あ、だ、代金は払うよ」
「ふん、馬に馬が食べる干し草、当座の食料は積んでおくよ」
「それでおいくらに……」
僕はタニア婆さんの目をじっとみつめる。
「へぇ、本当に払う気があるようだね。気に入った、元からあの子らを歩いて行かせよう何て考えていなかったから問題ないよ。持って行きな」
「え? いいの……」
「ああ、アタシの気が変わらないうちに持って行きな」
「ありがとうございます……あ、そうだ」
そこで、僕は肝心な事を思い出す。
「そんな大きな馬車だと、釣り合わないかもしれないけど、これで……」
僕は鎧に格納していた師匠の下着を取り出した。
「これは!?」
「蒼龍の鱗です」
「なんでこんなものを坊やが……いや、炎龍の鱗の鎧を着ていた坊やだ。そのくらいは、ありえる事か……」
そういって、僕が指しだした蒼龍の鱗を机の上におくように指示する。
「こんだけあれば、馬車は何十台と買うことが出来るよ。とりあえず、これはアタシが預かっておく。坊やは……」
タニア婆さんが僕に待つように手で示して、商会の奥へ入っていき、しばらくして戻ってきた。
「この札を持って行きな。これさえあれば各国のタニア商会は勿論の事、提携している商会なら、この札を見せれば、いくらでも現金が引き出せるよ」
「そうなの?」
僕は手渡された真鍮のような素材の板切れを眺める。表面には、何やら象形文字のようなものが刻まれている。
「これは、坊やの素性についてタニア商会が全面的に保証するという証さ。逆にこの札を出した人間を騙したりしたら、タニアとその関連グループ全てを敵に回す事になる」
なんだ、そのヤ○ザみたいな組織構造は。
「まぁ、担保として、この鱗は預かっておくよ」
「わかった。ありがとう」
ちょうどその時、商会の入り口に、馬鹿みたいにでかい屋根が付いている馬車が運ばれてきた。
「それに乗っていきな。御者は……あのクマ族の子が出来るはずだ。あの一族は森の支配者で、馬はその支配下にある」
へー、そんな力関係があるんだ。あのパンダ……クマに。
とりあえずドアを開け、外で待っていたクマに声をかける。
「クマ、この馬車の御者を頼める?」
クマは、コンを肩に乗せたまま大きく頷いた。
そして、幌の上にはいつのまにシノブが腹ばいになって張り付いている。
「シノブ……まさか、そこで行く気か?」
「……(こく)」
シノブが静かに頷いた。
そうか。
まぁ、本人がいいならそれでいいんだけど……無理するなよ。
「馬は6頭連れていきな。途中で交代させるようにして、常に4頭で牽かせること。馬が倒れたらおしまいだから、大事に使えよ」
「はい」
「ビッチェに付いたら、ここと同じ看板がある商会を訪ねな。そこに馬車と馬を返せばいい。数日遅れて、アタシらも行くから、そこからは船旅だ」
何から何までありがとうございます。
僕はそういう思いを込めて、頭を下げた。
「ちっ、子供のくせに如才ないね。いいよ、坊やくらいの頃は、大人にちゃんと甘えておきな」
「はい」
「気をつけるんだよ」
「はい! 行ってきます!」
***
クマが手綱を取り、馬車を走らせ孤児院に着いた。
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僕はそういって教会のドアを開ける。
「……何しに来たの?」
そこには、公宮にいた偉そうなローブの5人衆が待っていた。
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異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
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