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第3章

予兆の連鎖(1)

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 「そういえばさぁ~、拓人って最近桃華ちゃんとどうなの?」


 事務所の移動用の小型バスで、ヒロが窓枠に頬杖をつきながら言う。


「どうって、あんま変わんねぇけど。オフの合間を縫うように、桃華ん家に行ってる感じかな」


「そうか。なら良いんだけど……。何か、何て言うか、気がかりなこととかねぇのか?」


 拓人は少し表情を曇らせる。

「まぁ、仕事が多いのは嬉しいことだけど、あまりデートに連れてってやれないのが気がかりだな」


「そうか……」

 ヒロは再び考え込むような表情を浮かべ、外に視線を移した。



「何や、ヒロ。今日はえらい2人のこと、心配してんねんな」


「まぁ……。ちょっとな」


 あの雨の日の2人の相合い傘が、ヒロの頭から離れなかった。


 何で拓人以外の男と2人で居たのか?


 何であの楽器店に居たのか?


 何であの2人は1つの傘に寄り添うように入ったのか?


 そして、拓人はあの男の存在を知っているのか?



 そんな疑問が次から次へと頭に過ぎり、ヒロの中で少なからず嫌な胸騒ぎを感じていたのだ。


 でも、見るからに拓人はそのことを知らない様子。

 拓人の嫉妬深さは、NEVERの中では周知の事実。

 知らぬが仏とはこのことを言うのだろうか?



 今、NEVERはPV撮影で山奥にロケに向かっているところだった。


 この寒い中、とメンバー誰もが顔を青くした。


 はじめはみんなバスの中でうたた寝をしていたが、長距離の移動で次第に目が覚めたメンバーは各々口を開いていた。



 相変わらず浮かない表情のヒロにハルキが言う。


「ヒロが何を心配してるのかは分からないけど、拓人たちは大丈夫だと思うよ。そういえば、桃華ちゃんって今度のクリスマスライブに来てくれるんだってね」


「ああ、ずっとNEVERのライブに行きたいって言ってくれてたからな。でも……」


 そう言って、少し心配そうな表情を浮かべる拓人を見て、カイトが不思議そうに首を傾げる。


「何や。どないしたんや?」


「え? ああ、桃華って、人混みに慣れてないとこあるから、ちょっと心配でさ……」


「何や、そんなことか」

 カイトは安心したように笑った。


 拓人がカイトの反応によく分からない表情を浮かべていると、カイトは拓人の背中をペチペチ手の平で叩きながら言った。


「俺の弟カップルも呼んでんねん。彼女さんが俺らのファンらしくてな。やから、それなら弟達に桃華ちゃんのこと頼んどいたるわ」


「え……っ、でもそれ、さすがに悪いよ」


「大丈夫やって。弟も彼女さんも、俺みたいなんやから」

 カイトはバシバシと、さっきよりも力強く拓人の背中を叩いた。


「お、おぅ……。なんか申し訳ねぇけど、ありがとな」


「それにしてもさぁ、カイトみたいな弟と彼女ってなんだよ。弟はともかく、カイトみたいな彼女って、可哀相過ぎんだろ。カイトみたいにイカツい女、俺嫌だわ」

 ヒロが先程のカイトの発言にお腹を抱えて笑った。


「おまえなぁ、何でそうなるねん。そういう意味ちゃうわ!」

 カイトが隣に座るヒロの首に首を絞めるように腕を回した。


「ぐぇ~っ!! 冗談だよ冗談っ! ギブギブ……」


「本当、2人は仲良しだね。拓人も良かったじゃん」

 ハルキがカイトとヒロの様子に、にこやかに笑いながら言った。


「そうだな。やっぱり申し訳ねぇけど、安心だわ」


「……まぁ、下手にNEVERの関係者に付き添い頼むよりかは信頼置けるだろ」


 シンジがパラパラ本を読みながら、低い声を発した。
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