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第3章

久々のBARにて(1)

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  年末年始のハードスケジュールが緩まった頃、NEVERの5人は、久しぶりに行きつけのBARに来ていた。


「何や5人で飲むとか久しぶりやなぁ! いつも使わしてもろとる部屋が狭く見えるわ~」


「ほんとほんと~っ!! 桃華ちゃん帰って来てから、拓人付き合い悪ぃんだもん」


 カイトとヒロがからかうような口調で言うが、その表情は嬉しそうにしていた。


「悪い悪い。どうしてもな、できるだけ寂しい思いさせたくなくてさ……」


 桃華の記憶転移について聞いた頃から拓人の中に芽生えていた余計な不安のせいもあり、無意識のうちに拓人はみんなとの付き合いがおろそかになっていた。


 でもその不安も、この前のクリスマスの夜に完全に拓人はふっ切れたように見えた。


「桃華ちゃん、クリスマスライブ満足してくれてたみたいだったけど、あの後は一緒に過ごしたの?」

 隣からハルキが運ばれてきたばかりの酒を手渡しながら言う。


「おう! すごく幸せなクリスマスの夜を過ごせたわ」


 拓人は桃華が『泊まってもいい?』って言ってくれたことが、一緒に夜を過ごせたことが嬉しくて、思わず口を滑らせた。


 言ってしまってからハッとなるも、もはや手遅れで、4人はニヤついた笑みを浮かべて拓人を見ていた。


「何だよ~、拓人。桃華ちゃんと、とうとうヤっちまったか?」


 ヒロが拓人の隣に割り込むように入って来た。


「ヒロが想像してるようなことはしてねぇよっ!! 確かに、一緒に寝たけど、腕に抱いて寝ただけだ」


「ほんまかぁ? 何や信じられへんなぁ?」

カイトまでもが楽しそうにはやし立てる。


「まぁ普通に考えたら、愛し合う2人が一緒に夜を過ごしたって聞かされたら、そう思うでしょ? 桃華ちゃんも治療に成功して、他の人と同じように生活できるようになったんなら、なおさらにね」


「ハルキ、おまえまで俺のこと疑ってんのかよ」


「さぁ?」とハルキは意地悪な笑みを浮かべた。


「まぁ事実はどうであれ、からかわれても仕方ねぇような言い方だったぜ? “幸せな夜”ってな。ノロケ過ぎ」

 シンジはニヤついた表情を崩さず、呆れたようにフッと笑った。


「あぁーっ、もうっ!! してねぇっつってんだろ!?」


 拓人は真っ赤な顔で困ったように怒鳴った。


「……俺だって、できるなら早くしてぇよ。でも、やっぱり桃華の身体も心配でさ……。それに……」


 拓人はいじけたように、目の前のグラスを見つめながらブツブツ言いはじめた。


「ブッ!! おまえ、そんなキャラちゃうやろ!!」

 カイトが吹き出すように笑った。


「……るせぇよ。俺だっていろいろ不安なんだよ」


「拓人……? まさかとは思うけど、おまえまさか……」


「何だよ、ヒロ」

 拓人は口ごもるヒロをうっとうしそうに見る。


「いや、でも確かおまえ、桃華ちゃんが初恋だったよな? クソ真面目なおまえなら有り得る……」


 拓人はヒロが言わんとしてることに気づき、慌てて阻止しようとしたが手遅れに終わった。


「おまえ、まさか童貞? だから戸惑ってんのか?」


 拓人は耳まで真っ赤に染め、ヒロの胸倉につかみ掛かった。


「てめぇ、んな事バカでかい声で言うなっ!」


「……ぐえっ!! 拓人、悪かった。ギブギブ」


「うるせぇっ!! 人のことバカにしやがって!!」


「やめろよ、拓人! 落ち着けよ!」

横から割って入るようにハルキが拓人の腕を掴んだ。


「経験ないからって、そこまで恥ずかしがることないだろ?」


「ハルキっ! てめぇまで何だよっ!!」


 今度はハルキにつかみ掛かろうとするが、拓人はカイトにより後ろから羽交い締めにされた。


「そこまでや! ほんま大人気ないな。拓人はカッとなりやすいとこが最大の欠点やわ」


「……んだよ、みんなして」


「俺は何も悪い思うてへんで? 桃華ちゃんのために“初めて”を取っとった思うたらええんちゃうか?」


「確かに。俺も変に経験人数多い奴より、ずっといいと思うぞ?」

 シンジはそう言うと、意味ありげな目をヒロに向けた。


「何だよ、俺には俺なりの事情ってもんがあんだよ」


「どうだか」

 ヒロが言い返すも、シンジは一言フッと笑い返した。
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