空に想いを乗せて

美和優希

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第4章

突然の別れ(2)

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「花梨~、昨日はどういうことだよ~」


 教室に戻ると、ふて腐れた様子の奏ちゃんが私を出迎えた。

 私が居ない間に登校してきていたみたい。


「来たなら来たって一言言ってくれたっていいだろ~? 瑛ちゃんとだけ話して帰るとかさ」

「ご、ごめんね」


 でも、そう言う奏ちゃんだって、話しかけられるような雰囲気じゃなかったじゃない……。


 奏ちゃんは、私があの新島先輩との光景を見てたって言ったら、何て言うのだろう……。


「あのね、奏ちゃん……」

「はーい、席につけー! 今日は久しぶりに席替えするぞー!」


 ほんの少しだけ聞く勇気が出た瞬間、タイミング悪く担任の先生が入ってきた。


 しかも今、何て言った? 席替え……?


 この先生のクラスでは、先生の気まぐれでしか席替えをしない。


 そのおかげもあって、ここまで長い期間、奏ちゃんの隣の席にいることができたのに……。


「なんだよ。席替えとかやめろよなー」


 そ、奏ちゃん……!

 私の心の中の声を、教壇の前に立つ先生にも聞こえるようにはっきり言う奏ちゃん。


「なんだ? 柳澤は席替え反対か?」


 先生は不思議そうに奏ちゃんを見る。


「ってか、奏ちゃん。ただ単に委員長と席離れたくないだけだろ~?」


 クラスの男子が一人そう言うと、それに合わせてざわざわとはやし立てられる。


「うっせーよ。黙れ、立川!」


 最初に口を開いた男子に向かって、食いつくように吠える奏ちゃん。


 さっきの今だからそう感じるのかもしれないけど、今日の奏ちゃん、すごく機嫌悪い……。


 昨日のことで怒ってるのなら、私、よっぽど奏ちゃんのこと、怒らせちゃったんだな……。



「はい、みんな静かにしなさい。まぁ、今回の席替えは、今の席も長いし、席替えの要望が多数あって行うことにした。柳澤、そこは理解願おう」


 先生がそう言うと、奏ちゃんはつまらなさそうに「はい」と返事した。


「じゃあ、岸本。席替えの進行、よろしく頼む」

「はい」


 席替えの進行も、クラス委員長の私の仕事。


 私も全く望んでない席替えなのに、自分が先頭に立ってやっていかないといけないなんて……。


「では、前回のように、この箱の中に入っている札を一人ひとつずつ取っていってください。札に書いてあった数字と、黒板に書いた座席と同じ数字の席が、新しい席になります」


 席替えは、公平なくじ引き。

 くじは、前回の席替えでも使ったものを先生が取っていてくれたため、本当にすぐに行うことができた。


「……俺、32。花梨は?」


 全員がくじを引き終え、最後に残ったくじを手に持って今の席に戻ると、奏ちゃんにそう聞かれる。


「私は今と同じ席。16だった」


 言いながら、黒板に書いた座席表を見比べる。


 私の新しい隣の席は、23のくじを引いた人。

 私の記憶が正しければ、私の前後も違う番号。


「めっちゃ離れたし」


 隣でハァとため息を落とす奏ちゃん。


「本当……」


 それもそのはず。


 今と同じ、新しい私の席は、廊下側の後ろから2番目。

 それが、奏ちゃんの新しい席は、窓際の前から2番目になっていたから。


 ……ほぼ対角線上に離れちゃった。



「ま、仕方ねーか。寂しくなるけど、席が離れたからといって、心まで離れてしまうわけじゃないもんな」

「……そうだね」


 本当に、その言葉の通り。

 だけど、私はやっぱりどこかで奏ちゃんのことを信じられていないのかもしれない。


「じゃあ、みんな、新しい席に移動しろー!」


 先生の指示に、私の隣から離れていく奏ちゃんを見て、何故だか奏ちゃんの気持ちまで私から離れていってしまうようにさえ感じたから。




 奏ちゃんと席は離れたとは言っても、昼休みは屋上で過ごしてたし、時々喫茶店バロンにもお邪魔して、いつもと変わらない日常を過ごした。


『今後、来たときは黙って帰らないこと』


 あの席替えの日の昼休みに、奏ちゃんにそう約束させられてからは、奏ちゃんの機嫌も元通り。


 戻ってないのは、私の心の中のモヤモヤだけ。


 結局、新島先輩とのことは、聞き出すタイミングが見つからずに聞きそびれてしまっていた。


 あれから10日ほど経つ。

 今更聞くのもなぁ、と思いながら、日に日にモヤモヤがあとを絶たない。


 この日は、日曜日ということもあって、奈穂とショッピングモールに来ていた。

 前、奏ちゃんと来た映画館のある建物だ。


 奈穂の保育園のお友達のお誕生会が近いらしい。

 今日は、そのプレゼントを見に来ていた。
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