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最終章
奏ちゃんとお父さん(2)
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顔を青空の方へと向けて、目を閉じていた奏ちゃん。
しばらくして、奏ちゃんは改めて墓石の方へと向き直って口を開いた。
「兄ちゃん、今日は花梨を連れてきたよ。花町三丁目の交差点で、兄ちゃんが助けた女の子だよ」
奏ちゃんにそんな風に説明されて、目に見えるところには私たちの他には誰もいないのに、思わずびくりと身体を強ばらせてしまった。
それに気づいた奏ちゃんは「大丈夫だよ、花梨」と、少しおかしそうに笑っている。
「びっくりだよな。俺と花梨は、同じ高校で知り合ったんだ。気づいたら花梨のことを好きになってて、付き合い初めて。最初はわからなかったんだけど、兄ちゃんが助けた女の子だったんだって知って……」
まるで、すぐ目の前にお兄さんがいるかのように、楽しそうに話す奏ちゃん。
「すげぇよな。そんな偶然あるんだなって思った。あの日、花梨を助けてくれて、ありがとう。兄ちゃんが守ってくれた、愛しい女の子を、もう二度と傷つけないように、大切にしていこうと思う」
その姿を隣で見ていると、胸がきゅっと締め付けられるような切なさを感じる。
本当に私がここに来て良かったんだろうか、って。
そう思ったとき──。
「ほら、花梨も挨拶して?」
「え?」
奏ちゃんに言われて、私も墓石の方へと視線を戻す。
視界に映るのは、ありふれたお墓の風景。
だけど、奏ちゃんにそう言われると、目には見えないけれど、そこに奏ちゃんのお兄さんがいるような気がした。
「岸本花梨です。花町三丁目の事故では、助けてくださり、ありがとうございました。だけど、そのせいで……、すみません。奏ちゃんとは今年度、同じクラスになって知り合いました。まさか、お兄さんの弟さんだったなんて、本当に信じられなかったです」
こうやって想いを口にしようとすると、なかなか上手く言葉にできない。
言葉では言い表せないくらいの感謝と罪悪感を抱えて生きて来たはずなのに、いざ伝えるとなると、難しい。
「お兄さんに助けてもらったから、今私はここにいて、奏ちゃんと出会って、こうして隣にいることができています。お兄さんが助けてくれなかったら過ごせてなかった今やこれから先の未来、お兄さんの分も大切に生きていきたいと思います」
だけど、こうしてお兄さんを前にして出てくる言葉は、不思議なくらい前向きな言葉だった。
奏ちゃんの方を見やると、奏ちゃんはニッと柔らかく微笑む。
「兄ちゃん。俺も花梨と、兄ちゃんの分も笑顔で幸せに生きてくからな。だから、兄ちゃんは安心して見てて」
それからは、私も一緒に墓石を磨かせてもらって、持ってきたお花をWild Wolfの皆さんからのお花の隣に供えた。
最後にもう一度、奏ちゃんと二人で手を合わせて、お墓をあとにしようとした。
だけど、そのとき──。
「え!? お父さん……!?」
向こう側から歩いて来た人影に焦点を合わせると、なんと、私のお父さんがこちらに向かって歩いてきていたのだ。
「花梨……! 何でここに……」
そう言いかけたお父さん。
お父さんの視線が奏ちゃんへと向けられたとき、お父さんの表情が更に強ばる。
「お久しぶりです。こうしてお会いするのは、三年ぶりですよね」
え、奏ちゃん……?
何、久しぶりって。
何が起こっているのかわからなくて、頭が混乱する。
「奏真くん、だったね。うちの娘が許せないのはわからなくもないが、直接娘に手を出すのは……」
ちょっと、お父さん!
奏ちゃんに何言ってるのよ……!
だけど、私が何かを言い返すよりも早く、奏ちゃんはお父さんに向かってペコリと頭を下げた。
しばらくして、奏ちゃんは改めて墓石の方へと向き直って口を開いた。
「兄ちゃん、今日は花梨を連れてきたよ。花町三丁目の交差点で、兄ちゃんが助けた女の子だよ」
奏ちゃんにそんな風に説明されて、目に見えるところには私たちの他には誰もいないのに、思わずびくりと身体を強ばらせてしまった。
それに気づいた奏ちゃんは「大丈夫だよ、花梨」と、少しおかしそうに笑っている。
「びっくりだよな。俺と花梨は、同じ高校で知り合ったんだ。気づいたら花梨のことを好きになってて、付き合い初めて。最初はわからなかったんだけど、兄ちゃんが助けた女の子だったんだって知って……」
まるで、すぐ目の前にお兄さんがいるかのように、楽しそうに話す奏ちゃん。
「すげぇよな。そんな偶然あるんだなって思った。あの日、花梨を助けてくれて、ありがとう。兄ちゃんが守ってくれた、愛しい女の子を、もう二度と傷つけないように、大切にしていこうと思う」
その姿を隣で見ていると、胸がきゅっと締め付けられるような切なさを感じる。
本当に私がここに来て良かったんだろうか、って。
そう思ったとき──。
「ほら、花梨も挨拶して?」
「え?」
奏ちゃんに言われて、私も墓石の方へと視線を戻す。
視界に映るのは、ありふれたお墓の風景。
だけど、奏ちゃんにそう言われると、目には見えないけれど、そこに奏ちゃんのお兄さんがいるような気がした。
「岸本花梨です。花町三丁目の事故では、助けてくださり、ありがとうございました。だけど、そのせいで……、すみません。奏ちゃんとは今年度、同じクラスになって知り合いました。まさか、お兄さんの弟さんだったなんて、本当に信じられなかったです」
こうやって想いを口にしようとすると、なかなか上手く言葉にできない。
言葉では言い表せないくらいの感謝と罪悪感を抱えて生きて来たはずなのに、いざ伝えるとなると、難しい。
「お兄さんに助けてもらったから、今私はここにいて、奏ちゃんと出会って、こうして隣にいることができています。お兄さんが助けてくれなかったら過ごせてなかった今やこれから先の未来、お兄さんの分も大切に生きていきたいと思います」
だけど、こうしてお兄さんを前にして出てくる言葉は、不思議なくらい前向きな言葉だった。
奏ちゃんの方を見やると、奏ちゃんはニッと柔らかく微笑む。
「兄ちゃん。俺も花梨と、兄ちゃんの分も笑顔で幸せに生きてくからな。だから、兄ちゃんは安心して見てて」
それからは、私も一緒に墓石を磨かせてもらって、持ってきたお花をWild Wolfの皆さんからのお花の隣に供えた。
最後にもう一度、奏ちゃんと二人で手を合わせて、お墓をあとにしようとした。
だけど、そのとき──。
「え!? お父さん……!?」
向こう側から歩いて来た人影に焦点を合わせると、なんと、私のお父さんがこちらに向かって歩いてきていたのだ。
「花梨……! 何でここに……」
そう言いかけたお父さん。
お父さんの視線が奏ちゃんへと向けられたとき、お父さんの表情が更に強ばる。
「お久しぶりです。こうしてお会いするのは、三年ぶりですよね」
え、奏ちゃん……?
何、久しぶりって。
何が起こっているのかわからなくて、頭が混乱する。
「奏真くん、だったね。うちの娘が許せないのはわからなくもないが、直接娘に手を出すのは……」
ちょっと、お父さん!
奏ちゃんに何言ってるのよ……!
だけど、私が何かを言い返すよりも早く、奏ちゃんはお父さんに向かってペコリと頭を下げた。
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