きみに駆ける

美和優希

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「まさか、本当に私の知ってる月島くんなの?」
「もしかして心当たりあるの? 美術室で少しの間だけど、俺のモデルやってくれたよね」

 やっぱり、私の知ってる月島くんだ。私はコクコクとうなずきながらも、信じられない思いで月島くんを見やる。
 試しに私の片手を恐る恐る月島くんの胸元に伸ばすと、すり抜けることなく硬い胸板に触れることができた。

「……うそ、本物? てっきり亡くなったんだと……」
「勝手に殺さないでよ」

 月島くんは、私の記憶の中にある姿と同じようにおかしそうに笑った。

「事故に遭ってから半年以上意識も戻らなくて、もうダメだって言われてたらしいんだけど、一か八かで受けた手術で奇跡的に目覚めたらしいよ」

 自分のことなのに、月島くんは他人事のように説明してくれる。
 でもそれも無理ないのかもしれない。
 私も、今こうして月島くんとまた会えたことを信じられていないのだから。

「ま、意識がなかった間の記憶が戻ったのはつい最近のことだったんだけど、内村さんと過ごした記憶が現実だったのか、俺の見た都合の良い夢だったのかわからなくて……。内村さんにはなかなか声をかけられなくてごめんね」
「……ううん。月島くんが生きててくれただけで嬉しいから、いいよ」

 月島くんの手に触れると、ちゃんとその手を握ることができる。
 触れた指先から、生きた温もりを感じて思わず涙が溢れてくる。

「夢だと思ってたけど、夢じゃなかったんだな」

 月島くんが、私の頭を優しく撫でる。
 そんなことをするから、余計に涙が止まらなくなってしまうじゃん……。

「また内村さんに会うことができて、走る姿を見て、その姿を描くことができて、嬉しいよ」
「私も、また月島くんに会えて嬉しいです」
「何で突然敬語?」
「何でも……っ」

 こんなときなのに、からかわなくてもいいじゃない。
 そうは思うけど、また出会えた奇跡を思えば、そんなことどうでもいい。

 私が月島くんに身を寄せると、彼は私を優しく抱きしめてくれる。
 ちょうど彼の胸元に触れた耳に彼の鼓動の音を感じて、また涙が溢れた。



 *END*
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