60 / 75
10.本当の姿のお前を見つけ出してやる。
(3)
しおりを挟む
「も、申し訳ございません」
「ほら、またそれだ。お前には申し訳ございません以外脳がないのかよ」
「お客様、どうされましたか?」
そのとき、私の背後から本郷店長の声が降ってくる。
本郷店長が、私のいるメインレジの方へと回って、入ってきてくれたんだ。
「お前がこの店の責任者か?」
本郷店長を品定めでもするように見る男性客。
「はい、そうですが」
「お前んとこの従業員はどうなってんだ。愛想もなければ礼儀もなってないじゃねぇか。ったく、こっちは“お客様”なんだぞ!?」
「申し訳ございません」
「お前も申し訳ございません人形か。だいたいなぁ、最近の若いのは……」
「お客様、恐れ入りますが、只今レジが混み合っておりますので、こちらの方へ移動していただけますか? お会計も終えられてるようなので」
本郷店長は、やんわりと男性客をメインレジの真ん前からレジカウンターの隣へと移動してもらうように促す。
「フン、だいたいお前も……」
男性客は、本郷店長にグチグチ言いながらも、あっさりと私の目の前から離れていった。
「大変お待たせいたしました。二番目にお待ちのお客様、こちらへどうぞ」
一瞬、呆気に取られかけたけれど、これ以上お客様を待たせるわけにはいかない。
さっきまでこっちのレジが使えなかった分、お客様の列はさらに伸びてしまっていた。
「いらっしゃいませ。お預かりいたします」
次に並んでいた、30代くらいの女性客の商品をレジに通し始める。
「さっきのずっと見てたけど、大変だったわねぇ。あんなの、気にしなくていいからね」
「い、いえ。お待たせして申し訳ございません」
確かにクレーム内容は理不尽だったけど、私の対応が行き届かなかったばかりに関係のないお客様にまで迷惑をかけてしまった。
とはいえ、あんなクレームのあとで少し気が滅入りかけていたのもあったからなのだろう。
女性客の優しいお言葉が、胸に沁みた。
*
今日の前半の業務を終えて、休憩に入る。
「高倉さん、お疲れさまです。さっきの、大丈夫でしたか!?」
事務室に戻ったところで、ちょうど休憩を取っていた小梅ちゃんが心配そうに言った。
「うん。ごめんね、心配かけて。店長が来てくれたから、私は大丈夫だったよ」
先程クレームを付けてきた男性客は、あのあとしばらく本郷店長と話をしていたが、腹の虫が収まったのか、最後はあっけらかんとした様子で店舗をあとにしていた。
「あの方、以前、調剤の方にも来られて、私も怒鳴られたことあるんですよ」
「え、そうなの!?」
「はい、そのときは患者様として来られてたんですけど、期限切れの処方箋を出されてお受けできないと断ったら逆ギレされてしまって……。偶然薬剤部の地区長が来られてた日だったので、何とか助けてもらえたんですけどね」
「そうだったんだ……」
「だから、多分いわゆるクレーマーってやつだと思うので、元気出してくださいね」
きっと私を元気づけるようにそう言ってくれてるのだろう。
小梅ちゃんの可愛らしい表情からもそれは伝わってきて、心が温かくなった。
そのとき、事務室のドアが開いて本郷店長が入ってくる。
「て、店長! さっきはすみませんでした」
私は反射的にその場に立って、本郷店長に頭を下げた。
「ああ、あれな。かなり厄介なクレーマーだったな。高倉さんも、お疲れさま」
疲れたような笑みを浮かべて、本郷店長は私の傍まで歩いてくる。
「……いえ。私が至らないばかりにご迷惑おかけしてすみません」
「いや。緑川さんからだいたいの経緯は聞いたが、お前は悪くないだろ。明らかに順番を守らなかった方が悪いんだし」
「そ、そうですけど……」
私は悪くない、と言ってもらえたのは、正直嬉しかった。
だけど、私ももっと適切な対応を取れてたら、あそこまで大きな事態にならずに済んだんじゃないかと思ってしまう。
そんな私の心情が伝わったのか、伝わってないのか。本郷店長はハァとひとつため息を吐き出して口を開く。
「まぁ、あえて言わせてもらえば、何で緑川さんの判断で俺が呼ばれたのかってことだな」
「……え?」
「ほら、またそれだ。お前には申し訳ございません以外脳がないのかよ」
「お客様、どうされましたか?」
そのとき、私の背後から本郷店長の声が降ってくる。
本郷店長が、私のいるメインレジの方へと回って、入ってきてくれたんだ。
「お前がこの店の責任者か?」
本郷店長を品定めでもするように見る男性客。
「はい、そうですが」
「お前んとこの従業員はどうなってんだ。愛想もなければ礼儀もなってないじゃねぇか。ったく、こっちは“お客様”なんだぞ!?」
「申し訳ございません」
「お前も申し訳ございません人形か。だいたいなぁ、最近の若いのは……」
「お客様、恐れ入りますが、只今レジが混み合っておりますので、こちらの方へ移動していただけますか? お会計も終えられてるようなので」
本郷店長は、やんわりと男性客をメインレジの真ん前からレジカウンターの隣へと移動してもらうように促す。
「フン、だいたいお前も……」
男性客は、本郷店長にグチグチ言いながらも、あっさりと私の目の前から離れていった。
「大変お待たせいたしました。二番目にお待ちのお客様、こちらへどうぞ」
一瞬、呆気に取られかけたけれど、これ以上お客様を待たせるわけにはいかない。
さっきまでこっちのレジが使えなかった分、お客様の列はさらに伸びてしまっていた。
「いらっしゃいませ。お預かりいたします」
次に並んでいた、30代くらいの女性客の商品をレジに通し始める。
「さっきのずっと見てたけど、大変だったわねぇ。あんなの、気にしなくていいからね」
「い、いえ。お待たせして申し訳ございません」
確かにクレーム内容は理不尽だったけど、私の対応が行き届かなかったばかりに関係のないお客様にまで迷惑をかけてしまった。
とはいえ、あんなクレームのあとで少し気が滅入りかけていたのもあったからなのだろう。
女性客の優しいお言葉が、胸に沁みた。
*
今日の前半の業務を終えて、休憩に入る。
「高倉さん、お疲れさまです。さっきの、大丈夫でしたか!?」
事務室に戻ったところで、ちょうど休憩を取っていた小梅ちゃんが心配そうに言った。
「うん。ごめんね、心配かけて。店長が来てくれたから、私は大丈夫だったよ」
先程クレームを付けてきた男性客は、あのあとしばらく本郷店長と話をしていたが、腹の虫が収まったのか、最後はあっけらかんとした様子で店舗をあとにしていた。
「あの方、以前、調剤の方にも来られて、私も怒鳴られたことあるんですよ」
「え、そうなの!?」
「はい、そのときは患者様として来られてたんですけど、期限切れの処方箋を出されてお受けできないと断ったら逆ギレされてしまって……。偶然薬剤部の地区長が来られてた日だったので、何とか助けてもらえたんですけどね」
「そうだったんだ……」
「だから、多分いわゆるクレーマーってやつだと思うので、元気出してくださいね」
きっと私を元気づけるようにそう言ってくれてるのだろう。
小梅ちゃんの可愛らしい表情からもそれは伝わってきて、心が温かくなった。
そのとき、事務室のドアが開いて本郷店長が入ってくる。
「て、店長! さっきはすみませんでした」
私は反射的にその場に立って、本郷店長に頭を下げた。
「ああ、あれな。かなり厄介なクレーマーだったな。高倉さんも、お疲れさま」
疲れたような笑みを浮かべて、本郷店長は私の傍まで歩いてくる。
「……いえ。私が至らないばかりにご迷惑おかけしてすみません」
「いや。緑川さんからだいたいの経緯は聞いたが、お前は悪くないだろ。明らかに順番を守らなかった方が悪いんだし」
「そ、そうですけど……」
私は悪くない、と言ってもらえたのは、正直嬉しかった。
だけど、私ももっと適切な対応を取れてたら、あそこまで大きな事態にならずに済んだんじゃないかと思ってしまう。
そんな私の心情が伝わったのか、伝わってないのか。本郷店長はハァとひとつため息を吐き出して口を開く。
「まぁ、あえて言わせてもらえば、何で緑川さんの判断で俺が呼ばれたのかってことだな」
「……え?」
1
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる