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*第1章*

またおまえかよ!(3)

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「まどろっこしい言い方するおまえが悪い」

 神崎先輩はフンと鼻を鳴らして、黒板の前に置かれた長机の方へスタスタと歩いて行ってしまった。


「それにしても、何で蓮は優芽ちゃんを連れて来たんや?」

 サッカーボールを頭の上で転がしながら、妹尾先輩が口を開く。

 それに対して、クスリと笑う、笹倉先輩。


「簡単だよ」


 ──シュパン。


 その瞬間、綺麗なフォームで放たれた笹倉先輩の矢は、すぐそばに設置された的の真ん中に刺さった。


「惚れたから、でしょ?」

 カレー臭どころか、ついにはそんなことまで言われて、あたしは思いきって口を開いた。

 だって、このままじゃ皆さんの中の神崎先輩のイメージが……。


「ち、違うんです! あたしが神崎先輩のカッターシャツにカレーうどんの汁こぼしちゃって……、それでここに連れて来られたんです……っ!」

「なんや、そういうことやったんか!」

 ハハッと納得したように笑い出す妹尾先輩。


「じゃああの染みは、蓮の食べ染みではなかったってことだね」

 少しつまらなさそうに弓を下ろす、笹倉先輩。


「でもそれって、優芽ちゃんを狙っても、誰も文句言わねえってことだよね?」

 ふわりとした感覚とともに、突然アップに映る広瀬先輩。

 気づけば、にこやかに笑う広瀬先輩の綺麗な顔が、あたしの顔のすぐそばにあって……。

 ぐいっと顎を片手で掴まれていた。


「は……、え……?」

 突然の出来事に、ドキリと心臓が跳ね上がる。

 何か言いたいのに、声も思うように出なくて……。

 口をパクパクとさせるだけのあたしを見て、広瀬先輩はプッと吹き出すように笑った。


「何? 優芽ちゃんってもしかして、全然男に慣れてない?」

「え……、やっ、その……っ」

 確かに、今まで男の子と付き合ったことなんてなかったし、そう言われても仕方ないけど……。


「その顔、俺のこと誘ってるようにしか見えないんだけど」

 そう言って、広瀬先輩はぐいっとあたしの腰を引き寄せる。

 ちょっと、待ってよー!

 急にこんな甘い雰囲気醸し出されても、どうしたらいいかわからないよ~……。


 そのときだった。


 ──バコッ。


 広瀬先輩の頭に、何かがぶつかって落ちた。


「いってえ!!」

 その瞬間、頭を押さえて唸る広瀬先輩。

 床に転がるのは、広瀬先輩の頭にぶつかったと思われるソフトテニスのボール。

 そのボールが飛んで来た方から、剣幕な表情でこちらに歩いて来る神崎先輩。

 神崎先輩は、先程の染み付きのカッターシャツから体操服のTシャツに着替えたようで、その上に先程は着ていなかった制服の学ランを羽織りながら、姿を現した。


「こんなところで発情してんじゃねーよ!」

「いてて……何だよ蓮。あまりに優芽ちゃんが純情そうだから、からかっただけじゃん」

「こいつは俺に用があんだよ」


 そう言って、ぐいっと神崎先輩はあたしの腕を引っ張る。

 その反動で、思わず神崎先輩の胸元に顔をぶつけてしまった。

 その瞬間、じんわりと身体に伝わる神崎先輩の温もりと体操服のTシャツから香る柔軟剤の香りを感じて、心臓がものすごい勢いでざわつく。


「あ、あの……っ」

 あたしが困ったように神崎先輩を見上げるも、神崎先輩は今度はあたしに向かって一喝浴びせる。
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