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*第4章*
狙われるココロ(3)
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別荘のお庭に戻ると、先輩たちはすでにお肉を焼きはじめて、バーベキューをスタートしていた。
「ああああああーーーっ! やっと戻って来た! おまえ、俺らが苦労してる間に、優芽ちゃん連れてどこ行ってたんだよ!」
口にお肉を頬張って、広瀬先輩はこちらに駆け寄ってくるなり、あたしの手をつかんでいた笹倉先輩の手を振りほどく。
「俺の優芽ちゃんに、気安く触んないでよね!」
そう言って、あたしを抱き寄せる広瀬先輩。
えええーっ!?
「あ、あの……、広瀬先輩……っ」
あ、あたし、いつ、広瀬先輩のものになったんですか……!?
「別にどこに行っててもいいでしょ? 僕と優芽ちゃんは自由行動だったわけだし。それに……」
不服そうに返す笹倉先輩。
そのとき、その言葉に被さるように、広瀬先輩の背後から低い声が響いた。
「いつ、こいつがおまえのものになったんだよ」
その瞬間、広瀬先輩はその声の主に首根っこをつかまれて、あたしから引きはがされる。
「うわっ! れ、蓮、あっちでイチゴ焼いてたんじゃなかったのかよ!」
広瀬先輩をつかんだまま、もう片方の手であたしに竹串に刺さったイチゴを差し出すのは、神崎先輩。
「へ……?」
「やる」
「い、いや……」
竹串に刺されたイチゴは、明らかにさっきまでバーベキューの網の上で焼かれていた痕跡が残っていた。
その証拠に、炭ついてるし……。
「焼きイチゴだ。意外と美味かったから、おまえも食え!」
「えええ!?」
何? 何で神崎先輩、イチゴなんか焼いたの!?
「ちょお、蓮! 優芽ちゃん、困っとるやんか!」
いつの間にかすぐそばに来ていた妹尾先輩が、苦笑いを浮かべながらあたしの肩に手を添える。
不意に妹尾先輩と目があって、優しい笑みを向けられた。
「俺のとこに、優芽ちゃんの分のお肉取っとるから、一緒に食べようや」
「え? あ、ありがとうございます」
「あーっ! 陸人の奴、さりげなく優芽ちゃん誘ってるし! 優芽ちゃんは俺と食べるんだよ!」
広瀬先輩があたしの肩から妹尾先輩の手を振り払ってそう叫んだ。
「おまえら、うっせえよ! こいつは今、俺と話してんだから、黙ってろ!」
神崎先輩は呆れたように二人の方に向かって言うと、再びあたしに視線を戻した。
「串カツ屋とか行ったら、トマトの串カツとかあるだろ? それと似たようなもんだ」
え……、そうなんだ。
ですが、神崎先輩。
まずコレ、串カツじゃなくて、バーベキューです……。
そう突っ込むにも突っ込めなくて、恐る恐る串に刺さったイチゴを口に運ぶ。
じわりと口内に広がる、冷めかけの温いイチゴ果汁。
「わ、悪くはないです……」
冷たい方が、おいしいけど……。
その言葉は喉の奥に抑えて伝えると、神崎先輩は満足げにニッと笑った。
「だろ? まだまだ食材はたくさんあるんだ。俺が焼いてやるから、好きな食材選んで来い」
「お、おい! 蓮、おまえさりげなく……」
そう言いかけた広瀬先輩に神崎先輩は口を開く。
「達也も俺に焼いてほしかったら達也用に焼いてやるぜ? ピーマンの串刺し」
「お、おま……っ、俺がピーマン嫌いなの知ってて、鬼かよ!」
神崎先輩は広瀬先輩のその言葉には何も答えず、テーブルの上に置かれた紙皿と割り箸をあたしに持たせる。
「これ、おまえのな」
そして、神崎先輩はスタスタと火元の方へ歩いて行く。そのとき、ちょうど追加のお肉と野菜の乗ったバットを持ってきた結衣の姿が見えた。
あたしに気づいた結衣がテーブルにバットを置くと、火元にいた神崎先輩と数言かわしてこちらに向かって走ってくる。
「優芽、お帰り! 無事だった?」
無事だった? って……。
広瀬先輩のときといい、今回の笹倉先輩のときといい、結衣の目に先輩たちはどう映ってるんだろう……?
あまりに心配そうにな結衣に、思わずそんな風に思ってしまう。
「大丈夫! 笹倉先輩にはアーチェリーについて教えてもらってただけだから」
と言いながら、いつもと違う雰囲気の笹倉先輩を思い出して、不意に頬が熱くなる。
それを見てなのか、結衣が訝しげにあたしを見る。
「本当に? 変なことされたら、あたしに言うんだよ?」
「……ありがとう」
へ、変なことって……。
「あと、会長が優芽に早く焼いてほしい食材持って来るように伝えろって」
結衣がそう言った瞬間、広瀬先輩が声を上げる。
「うわっ! 蓮の奴、片桐さんを使うなんて……」
「本当に、一番のくせ者だね」
続けて笹倉先輩がおもしろくなさそうに言う。
「ほんま蓮の奴、ちゃっかりしとるなあ。ほな、優芽ちゃん、一緒に食材選びに行こう?」
そう言ってくれる妹尾先輩に、結衣がすかさず声を飛ばす。
「優芽の食材選びはあたしが一緒にしますから間に合ってます! 妹尾先輩は、あたしが焼いたお肉をお皿に盛り付けてあるので、それを食べてください!」
「片桐マネ、そこまでしてくれへんでも……」
困ったように眉を下げる妹尾先輩。
それを見て、広瀬先輩と笹倉先輩は吹き出すように笑った。
「おい、カレー女! そいつらに構ってないで、早く焼くモン持って来い!」
「は、はいっ!」
あたしは結衣と一緒に、綺麗に切られた野菜やお肉の置かれたバットのところへと向かった。
あたしたちは、お腹いっぱいになるまでバーベキューを楽しんだ。
その頃には、太陽はだいぶ西へと傾いていた。
「ああああああーーーっ! やっと戻って来た! おまえ、俺らが苦労してる間に、優芽ちゃん連れてどこ行ってたんだよ!」
口にお肉を頬張って、広瀬先輩はこちらに駆け寄ってくるなり、あたしの手をつかんでいた笹倉先輩の手を振りほどく。
「俺の優芽ちゃんに、気安く触んないでよね!」
そう言って、あたしを抱き寄せる広瀬先輩。
えええーっ!?
「あ、あの……、広瀬先輩……っ」
あ、あたし、いつ、広瀬先輩のものになったんですか……!?
「別にどこに行っててもいいでしょ? 僕と優芽ちゃんは自由行動だったわけだし。それに……」
不服そうに返す笹倉先輩。
そのとき、その言葉に被さるように、広瀬先輩の背後から低い声が響いた。
「いつ、こいつがおまえのものになったんだよ」
その瞬間、広瀬先輩はその声の主に首根っこをつかまれて、あたしから引きはがされる。
「うわっ! れ、蓮、あっちでイチゴ焼いてたんじゃなかったのかよ!」
広瀬先輩をつかんだまま、もう片方の手であたしに竹串に刺さったイチゴを差し出すのは、神崎先輩。
「へ……?」
「やる」
「い、いや……」
竹串に刺されたイチゴは、明らかにさっきまでバーベキューの網の上で焼かれていた痕跡が残っていた。
その証拠に、炭ついてるし……。
「焼きイチゴだ。意外と美味かったから、おまえも食え!」
「えええ!?」
何? 何で神崎先輩、イチゴなんか焼いたの!?
「ちょお、蓮! 優芽ちゃん、困っとるやんか!」
いつの間にかすぐそばに来ていた妹尾先輩が、苦笑いを浮かべながらあたしの肩に手を添える。
不意に妹尾先輩と目があって、優しい笑みを向けられた。
「俺のとこに、優芽ちゃんの分のお肉取っとるから、一緒に食べようや」
「え? あ、ありがとうございます」
「あーっ! 陸人の奴、さりげなく優芽ちゃん誘ってるし! 優芽ちゃんは俺と食べるんだよ!」
広瀬先輩があたしの肩から妹尾先輩の手を振り払ってそう叫んだ。
「おまえら、うっせえよ! こいつは今、俺と話してんだから、黙ってろ!」
神崎先輩は呆れたように二人の方に向かって言うと、再びあたしに視線を戻した。
「串カツ屋とか行ったら、トマトの串カツとかあるだろ? それと似たようなもんだ」
え……、そうなんだ。
ですが、神崎先輩。
まずコレ、串カツじゃなくて、バーベキューです……。
そう突っ込むにも突っ込めなくて、恐る恐る串に刺さったイチゴを口に運ぶ。
じわりと口内に広がる、冷めかけの温いイチゴ果汁。
「わ、悪くはないです……」
冷たい方が、おいしいけど……。
その言葉は喉の奥に抑えて伝えると、神崎先輩は満足げにニッと笑った。
「だろ? まだまだ食材はたくさんあるんだ。俺が焼いてやるから、好きな食材選んで来い」
「お、おい! 蓮、おまえさりげなく……」
そう言いかけた広瀬先輩に神崎先輩は口を開く。
「達也も俺に焼いてほしかったら達也用に焼いてやるぜ? ピーマンの串刺し」
「お、おま……っ、俺がピーマン嫌いなの知ってて、鬼かよ!」
神崎先輩は広瀬先輩のその言葉には何も答えず、テーブルの上に置かれた紙皿と割り箸をあたしに持たせる。
「これ、おまえのな」
そして、神崎先輩はスタスタと火元の方へ歩いて行く。そのとき、ちょうど追加のお肉と野菜の乗ったバットを持ってきた結衣の姿が見えた。
あたしに気づいた結衣がテーブルにバットを置くと、火元にいた神崎先輩と数言かわしてこちらに向かって走ってくる。
「優芽、お帰り! 無事だった?」
無事だった? って……。
広瀬先輩のときといい、今回の笹倉先輩のときといい、結衣の目に先輩たちはどう映ってるんだろう……?
あまりに心配そうにな結衣に、思わずそんな風に思ってしまう。
「大丈夫! 笹倉先輩にはアーチェリーについて教えてもらってただけだから」
と言いながら、いつもと違う雰囲気の笹倉先輩を思い出して、不意に頬が熱くなる。
それを見てなのか、結衣が訝しげにあたしを見る。
「本当に? 変なことされたら、あたしに言うんだよ?」
「……ありがとう」
へ、変なことって……。
「あと、会長が優芽に早く焼いてほしい食材持って来るように伝えろって」
結衣がそう言った瞬間、広瀬先輩が声を上げる。
「うわっ! 蓮の奴、片桐さんを使うなんて……」
「本当に、一番のくせ者だね」
続けて笹倉先輩がおもしろくなさそうに言う。
「ほんま蓮の奴、ちゃっかりしとるなあ。ほな、優芽ちゃん、一緒に食材選びに行こう?」
そう言ってくれる妹尾先輩に、結衣がすかさず声を飛ばす。
「優芽の食材選びはあたしが一緒にしますから間に合ってます! 妹尾先輩は、あたしが焼いたお肉をお皿に盛り付けてあるので、それを食べてください!」
「片桐マネ、そこまでしてくれへんでも……」
困ったように眉を下げる妹尾先輩。
それを見て、広瀬先輩と笹倉先輩は吹き出すように笑った。
「おい、カレー女! そいつらに構ってないで、早く焼くモン持って来い!」
「は、はいっ!」
あたしは結衣と一緒に、綺麗に切られた野菜やお肉の置かれたバットのところへと向かった。
あたしたちは、お腹いっぱいになるまでバーベキューを楽しんだ。
その頃には、太陽はだいぶ西へと傾いていた。
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