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3.気持ち重なるミル・クレープ
3ー5
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一向に何かを話してくれる様子のない坂部くんにしびれを切らして、私は話を続ける。
「嫌じゃないなら、いいじゃん。自分から人を突き放して寂しそうにしてるくらいならさ、何か坂部くんの態度って矛盾してるよね」
「……言いたいことはそれだけか?」
坂部くんのまゆがピクリと動く。
私は何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。
「え……?」
「俺のことなんて放っておけばいいだろう。ついこの前まではおまえも俺のことなんて気にも留めてなかったんだから」
坂部くんは疲れたようにそう言うと、空になったクレープの包み紙をくしゃりと丸める。
確かに寄り道カフェで働くまでは、私も坂部くんに話しかけるようなことはなかった。
「そうだけど……。でも、私は坂部くんに突き放すような態度を取られるのは嫌。少なくとも深入りするなって言われたとき、私は寂しかったよ。私は坂部くんが何であっても、関わっていきたいって思っているのに」
思わず言ってから、一気に顔が熱くなる。
何だか自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったのではないかと思ったから。
ちらりと坂部くんの様子をうかがうと、驚いたとばかりに目を見開いている。同時に、漆黒の瞳は少し戸惑っているように揺れていた。
っていうか、固まってないで何か言ってよ。余計に恥ずかしくなるじゃん……。
「……く、クラスのみんなも、坂部くんの事情まで知らなくても、坂部くんのこと気にしてるよ。あまりに坂部くんが周りに壁を作ってるから声をかけづらいだけで、みんな坂部くんってどんな人なんだろうって思ってるから。だから、特に理由がないなら……みんなに歩み寄ってほしいなって思う」
一気にそこまで捲し立てるように言って「ご、ごちそうさま!」と私は残りのクレープを口に押し込んで席を立つ。
今にも顔が燃え上がりそうに熱くて、もう限界だ。
坂部くんは、相変わらずポカンと口を開けて私を見つめたまま固まっている。
何を考えているのかわからないが、あまりに間抜けに見えるその表情のせいで、せっかくのイケメンが台無しだ。
私は坂部くんを置いてクレープの模擬店の教室を出たのだった。
人混みを掻き分けて走って、校舎を飛び出す。
すぐそばの体育館のそばに立つ時計塔は、もうすぐ明美の出る吹奏楽部の演奏の時間が近いことを知らせていた。
そうだ。体育館に行かなきゃ……。
だけどそのとき、体育館裏の方から複数の女子が揉めているような声が聞こえてきた。
「……だから、そういうのが重いって言ってるんです。先輩が何と言おうと無理なものは無理です。もう、私に関わらないでください」
「ちょっと、浜崎さん!」
今聞こえたのは、日頃から耳にする明美の声だ。
声のした方を見ると、浜崎さんと呼ばれた子が、明美の手にくしゃりと紙を押し付けてこちらに走ってくる。
「……わっ」
ぶつかりそうになったのを思わず避けたが、浜崎さんはそれさえ気づいてないのか、そのまま走り去っていく。
明美は遠目から見てもわかるくらいに、がくりと大きく肩を落とした。明美の隣にいた吹奏楽部の副部長が、励ますように明美の肩を叩いている。
そのそばには、いつだったか明美を教室まで呼びに来ていた一年生と思われる子が三人、困ったような表情を浮かべて立っていた。
吹奏楽部の部長になってから、明美は何かと忙しそうにしていた。
何となく疲れているように見えていたのは、部長の仕事が忙しいからなのだと思っていたけれど、それだけではないということなのだろうか。
「……綾乃?」
静かにその場を立ち去ろうと明美たちの方に背を向けたとき、私は背後から声をかけられた。
聞こえたその声に、しまったと思うが手遅れだ。
「あ、ごめん……」
さっきの現場を見てしまった今、何て声をかけていいか考えあぐねている私を見て、明美は何かを察したのだろう。
「……もしかして、さっきの見てた?」
と、明美は眉を下げて私に聞いてくる。
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、言い争うような声が聞こえて、気になって……」
思わず視線を落とした先に見えた明美の手には、さっき浜崎さんと呼ばれた女子が手渡したのであろうしわくちゃの紙がある。
そこには『退部届け』と何の温かみも感じられない文字が印字されていた。
「夏の大会のあとから部活に出てこなくなっちゃった子がいて、ずっと気にかけてたんだけど、もう辞めるって……」
「嫌じゃないなら、いいじゃん。自分から人を突き放して寂しそうにしてるくらいならさ、何か坂部くんの態度って矛盾してるよね」
「……言いたいことはそれだけか?」
坂部くんのまゆがピクリと動く。
私は何か気に障ることを言ってしまったのだろうか。
「え……?」
「俺のことなんて放っておけばいいだろう。ついこの前まではおまえも俺のことなんて気にも留めてなかったんだから」
坂部くんは疲れたようにそう言うと、空になったクレープの包み紙をくしゃりと丸める。
確かに寄り道カフェで働くまでは、私も坂部くんに話しかけるようなことはなかった。
「そうだけど……。でも、私は坂部くんに突き放すような態度を取られるのは嫌。少なくとも深入りするなって言われたとき、私は寂しかったよ。私は坂部くんが何であっても、関わっていきたいって思っているのに」
思わず言ってから、一気に顔が熱くなる。
何だか自分がとんでもなく恥ずかしいことを言ってしまったのではないかと思ったから。
ちらりと坂部くんの様子をうかがうと、驚いたとばかりに目を見開いている。同時に、漆黒の瞳は少し戸惑っているように揺れていた。
っていうか、固まってないで何か言ってよ。余計に恥ずかしくなるじゃん……。
「……く、クラスのみんなも、坂部くんの事情まで知らなくても、坂部くんのこと気にしてるよ。あまりに坂部くんが周りに壁を作ってるから声をかけづらいだけで、みんな坂部くんってどんな人なんだろうって思ってるから。だから、特に理由がないなら……みんなに歩み寄ってほしいなって思う」
一気にそこまで捲し立てるように言って「ご、ごちそうさま!」と私は残りのクレープを口に押し込んで席を立つ。
今にも顔が燃え上がりそうに熱くて、もう限界だ。
坂部くんは、相変わらずポカンと口を開けて私を見つめたまま固まっている。
何を考えているのかわからないが、あまりに間抜けに見えるその表情のせいで、せっかくのイケメンが台無しだ。
私は坂部くんを置いてクレープの模擬店の教室を出たのだった。
人混みを掻き分けて走って、校舎を飛び出す。
すぐそばの体育館のそばに立つ時計塔は、もうすぐ明美の出る吹奏楽部の演奏の時間が近いことを知らせていた。
そうだ。体育館に行かなきゃ……。
だけどそのとき、体育館裏の方から複数の女子が揉めているような声が聞こえてきた。
「……だから、そういうのが重いって言ってるんです。先輩が何と言おうと無理なものは無理です。もう、私に関わらないでください」
「ちょっと、浜崎さん!」
今聞こえたのは、日頃から耳にする明美の声だ。
声のした方を見ると、浜崎さんと呼ばれた子が、明美の手にくしゃりと紙を押し付けてこちらに走ってくる。
「……わっ」
ぶつかりそうになったのを思わず避けたが、浜崎さんはそれさえ気づいてないのか、そのまま走り去っていく。
明美は遠目から見てもわかるくらいに、がくりと大きく肩を落とした。明美の隣にいた吹奏楽部の副部長が、励ますように明美の肩を叩いている。
そのそばには、いつだったか明美を教室まで呼びに来ていた一年生と思われる子が三人、困ったような表情を浮かべて立っていた。
吹奏楽部の部長になってから、明美は何かと忙しそうにしていた。
何となく疲れているように見えていたのは、部長の仕事が忙しいからなのだと思っていたけれど、それだけではないということなのだろうか。
「……綾乃?」
静かにその場を立ち去ろうと明美たちの方に背を向けたとき、私は背後から声をかけられた。
聞こえたその声に、しまったと思うが手遅れだ。
「あ、ごめん……」
さっきの現場を見てしまった今、何て声をかけていいか考えあぐねている私を見て、明美は何かを察したのだろう。
「……もしかして、さっきの見てた?」
と、明美は眉を下げて私に聞いてくる。
「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、言い争うような声が聞こえて、気になって……」
思わず視線を落とした先に見えた明美の手には、さっき浜崎さんと呼ばれた女子が手渡したのであろうしわくちゃの紙がある。
そこには『退部届け』と何の温かみも感じられない文字が印字されていた。
「夏の大会のあとから部活に出てこなくなっちゃった子がいて、ずっと気にかけてたんだけど、もう辞めるって……」
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