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2*ほんま、目離されへんな

(2)

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「別に良く知ってるってわけじゃないよ? だって、もう10年くらい前の幼なじみだし……」


 むしろ最近のこうちゃんについては、全く知らない。


 今の時点でわかってるのは、あの優しかったこうちゃんがかっこよくなった反面、意地悪大魔人になってしまったことくらい……。



「そんなに昔からの付き合いなの!? あ、もしかして彼? 昔、千紗に初恋の幼なじみの男の子がいたって話、してくれたじゃない!」



 うわっ! あたし、以前、実里に初恋の話してたっけ……?


 思い返してみれば中学のとき、そんな話をしたこともあった気がするけど、まさかそんなことを覚えてるなんて……。


 人の記憶力って怖い……っ!



「だからそんなんじゃないってば! この10年間のことは、あたしも全く知らないし。それに、あいつはあたしの初恋の相手じゃ……っ!」


「ちぃの初恋の相手がどないしたんや?」


 あたしが実里の言葉を全否定しようとしたときだった。


 まだまだ聞きなれない、今話題にしてた昔の幼なじみの低い声が聞こえたのは……。



「こ、ここここうちゃんっ!」


「ちぃの初恋話、俺も興味あるわ! “あいつ”って誰や?」


 ニコニコと満面の笑みのこうちゃん。

 まさか今の会話、聞かれてた……?



「え、……」


 でも、“あいつ“が誰かなんて、会話を聞いてたらわかってしまうのに……。



 わかってて意地悪で聞いてるのか?

 偶然、あたしの口から初恋という言葉が出たのを耳にして、興味本位で聞いてるのか?


 こうちゃんの表情を見るだけじゃ、どっちなのかわからないけど……。ここは前者であっては困るから、後者だと信じよう。



 とはいえそんなこと聞かれたところで、答えられるわけがない。


 現に本物のあたしの初恋の相手は、今目の前にいるこうちゃんだけど。そんなの、今の意地悪になったこうちゃんに知られてたまるか! って感じだし。



「そ、そんなの、誰だっていいでしょ!? だいたい女の子にそんなこと聞くなんて、デリカシーなさすぎ!!」


「うわっ! そんな怒らんでもええやん! ほんまちょっと見ぃひんうちに、怒りっぽくなったよな」


 それは、あんたのせいでしょっ!!

 まぁ、言ったところで余計にからかわれるのなんて、目に見えている。


 あたしは小さく息を吐くと、さっきから疑問に思っていたことを口にした。



「そういえば、さっきまでのこうちゃんの取り巻きの女の子たちはどうしたの?」


 あの中から無理やり抜け出してここに来たわりには、あたしたちはギャラリーに囲まれずに済んでいる。



「ああ。ちぃとも話したいからって言って、退いてもらったんや」


「あ、そうなんだ」


 って、え……?

 そうなんだ、じゃない!


 何となく嫌な予感がしてこうちゃんの席の方を振り返れば、どこか恨めしそうにこちらを見ている女子の集団。


 いやいやいや、皆さん、怖い!
 怖いからっ!


 耳を澄ませれば、「聞いた? こうちゃん、だって」とか言われてる声が微かに聞こえた。


「そんなひきつった顔せぇへんでも、あの子らは大丈夫や。なんやかんや言うて、みんなええ子らやから、な?」



 そう言って、こうちゃんが、いつまでもこうちゃんの机の周りに佇む女子たちを見ると。


「もちろんよ」


「水嶋さんは、早瀬くんの“昔の”幼なじみだもんね!」


 女子たちは、みんな口々にそんなことを言っていた。


 なんか、やけに“昔の”が強調されてるように聞こえるのは、あたしだけ?



「せや。ちぃ、放課後暇やろ?」


「ちょ、暇って……っ!」


 確かに部活も入るつもりのないあたしは、放課後何も用事なんてないけどさ。

 そう言われると、あたしがまるで暇人みたいで嫌だ。


「あ、もしかして何か用事あるん?」


「な、ないけど……」


「それなら話は早いわ! 放課後、校内案内してな!」


「え、そんな勝手に……」
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