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9*本物の幼なじみ
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「何もないで? ガールズトークに花咲かしとっただけや! お水、ありがとうな」
まるで何事もなかったかのように相原くんから水を受け取る葉純さん。
「ちぃ、どないしたんや? 顔、変になってんで?」
「かっ、顔が変なのは元からです!」
心配してくれてるのかと思えば、この言い方!
こうちゃんは「冗談や」って笑いながらあたしにグラスを差し出してくれる。
「あ、ありが……」
だけど、そう言いかけて、思わず言葉が喉でつっかえた。
葉純さんが、まるで不快なものでも見るかのようにこちらを見ていたから。
「ちぃ? ちょっと、朝から歩きすぎて疲れたんか?」
「え、あ、うん。そんなとこ。ありがとう」
何も気づいてないこうちゃんは、珍しく本気であたしを心配してくれてるかのような表情を浮かべている。
だけど、こうちゃんに本当のことを言えるわけがない。
こうちゃんにとって葉純さんは……、あたしよりもずっと本物の幼なじみなんだから。
とりあえずあたしが葉純さんと会うのは今日限りのはず……。
あたしはそれだけを信じて、残りの葉純さんと過ごす時間を耐えきった。
*
「千紗? 大丈夫?」
とうとう最終日を迎えていた関西旅行。
あたしたちは大阪の大きな水族館に来ていた。
実里の言葉に、ふと現実に引き戻されたあたし。
目の前の大水槽の中では、気持ちよさげにこの水族館の売りであるジンベエザメが泳いでいる。
もちろん泳いでいるのはジンベエザメだけではなく、エイや他の魚たちも泳いでいるのだけれど……。
同じ水槽内に種類の違う魚がいて、お互いに食べられないのかな? と少し疑問にも思う。
だけどあたしの頭を埋めくしていたのは、そんな些細な問題じゃなくて……。
「やっぱり、昨日の葉純さんとのこと、引きずってるんでしょ?」
明らかに昨日葉純さんと話してから様子が違うらしいあたしの顔を、心配そうに実里が覗き込む。
「まぁ、……」
『光樹のことは、あんたには渡さへん』
あんな風に断言されて、気にするなって方が無理があると思う。
実際に、葉純さんはあたし以上にこうちゃんと付き合いがあるんだろうし。
あたしの知らないこうちゃんのことも、きっとたくさん知ってる……。
いくら今はこうちゃんと葉純さんは離ればなれになっているとはいえ、葉純さんの勢いにあたしが勝てるとは思えない。
「水嶋ー! 見てみろよ、エイの顔!」
そのとき、楽しそうな声が聞こえてきた方へ顔を向けると、相原くんが水槽に顔を近づけて、水槽にくっつくように泳いでいくエイを見つめていた。
「ちぃ、やっぱり元気ないやんなぁ?」
そんな相原くんらしい姿にクスリと笑ったとき、心配そうなこうちゃんの声が背後から降ってきた。
「……え?」
振り返ると、あたしのすぐ後ろにこうちゃんが立っていて、声と同じように心配げな表情であたしを見つめていた。
「昨日も今日も朝から出づっぱりやもんな。明日には家に帰るんやし、帰ったらゆっくりしてな?」
ふわりとあたしの頭を撫でる、こうちゃんの手。
あたしと実里と相原くんは、明日一足早く新幹線で自宅に帰る。
一方でこうちゃんは、あたしたちを新幹線の駅まで送っていったあと、こうちゃんのお父さんやお母さんと過ごす時間を取るためにもう少し関西の地に残ることになった。
もとは一緒に帰る予定だったんだけど、関西を案内してくれたお礼にと、あたしたち早帰り組三人が話し合って提案したのが事の発端だ。
その意見を出した相原くんに、強がって賛成したあたしも悪い。
その間に葉純さんとこうちゃんに何かあるとか考えたくなくても、考えてしまうのに……。
「少し長くこっちにおる分、ちゃんと土産もちぃに買うて帰ったるから、楽しみに待っとってな!」
本当は、お土産なんていらないからそれ以上に早く帰ってきてほしい。
だけど、そんなことをあたしの口から言うのもおかしいし、せっかくのご両親と過ごす時間をあたしが邪魔するわけにはいかない。
「……ありがとう。楽しみにしてるね」
精一杯の笑顔でそう伝えると、あまりにあたしが素直にそんな反応を見せたからか、こうちゃんは一瞬驚いたような顔をして、そのあと嬉しそうに笑った。
まるで何事もなかったかのように相原くんから水を受け取る葉純さん。
「ちぃ、どないしたんや? 顔、変になってんで?」
「かっ、顔が変なのは元からです!」
心配してくれてるのかと思えば、この言い方!
こうちゃんは「冗談や」って笑いながらあたしにグラスを差し出してくれる。
「あ、ありが……」
だけど、そう言いかけて、思わず言葉が喉でつっかえた。
葉純さんが、まるで不快なものでも見るかのようにこちらを見ていたから。
「ちぃ? ちょっと、朝から歩きすぎて疲れたんか?」
「え、あ、うん。そんなとこ。ありがとう」
何も気づいてないこうちゃんは、珍しく本気であたしを心配してくれてるかのような表情を浮かべている。
だけど、こうちゃんに本当のことを言えるわけがない。
こうちゃんにとって葉純さんは……、あたしよりもずっと本物の幼なじみなんだから。
とりあえずあたしが葉純さんと会うのは今日限りのはず……。
あたしはそれだけを信じて、残りの葉純さんと過ごす時間を耐えきった。
*
「千紗? 大丈夫?」
とうとう最終日を迎えていた関西旅行。
あたしたちは大阪の大きな水族館に来ていた。
実里の言葉に、ふと現実に引き戻されたあたし。
目の前の大水槽の中では、気持ちよさげにこの水族館の売りであるジンベエザメが泳いでいる。
もちろん泳いでいるのはジンベエザメだけではなく、エイや他の魚たちも泳いでいるのだけれど……。
同じ水槽内に種類の違う魚がいて、お互いに食べられないのかな? と少し疑問にも思う。
だけどあたしの頭を埋めくしていたのは、そんな些細な問題じゃなくて……。
「やっぱり、昨日の葉純さんとのこと、引きずってるんでしょ?」
明らかに昨日葉純さんと話してから様子が違うらしいあたしの顔を、心配そうに実里が覗き込む。
「まぁ、……」
『光樹のことは、あんたには渡さへん』
あんな風に断言されて、気にするなって方が無理があると思う。
実際に、葉純さんはあたし以上にこうちゃんと付き合いがあるんだろうし。
あたしの知らないこうちゃんのことも、きっとたくさん知ってる……。
いくら今はこうちゃんと葉純さんは離ればなれになっているとはいえ、葉純さんの勢いにあたしが勝てるとは思えない。
「水嶋ー! 見てみろよ、エイの顔!」
そのとき、楽しそうな声が聞こえてきた方へ顔を向けると、相原くんが水槽に顔を近づけて、水槽にくっつくように泳いでいくエイを見つめていた。
「ちぃ、やっぱり元気ないやんなぁ?」
そんな相原くんらしい姿にクスリと笑ったとき、心配そうなこうちゃんの声が背後から降ってきた。
「……え?」
振り返ると、あたしのすぐ後ろにこうちゃんが立っていて、声と同じように心配げな表情であたしを見つめていた。
「昨日も今日も朝から出づっぱりやもんな。明日には家に帰るんやし、帰ったらゆっくりしてな?」
ふわりとあたしの頭を撫でる、こうちゃんの手。
あたしと実里と相原くんは、明日一足早く新幹線で自宅に帰る。
一方でこうちゃんは、あたしたちを新幹線の駅まで送っていったあと、こうちゃんのお父さんやお母さんと過ごす時間を取るためにもう少し関西の地に残ることになった。
もとは一緒に帰る予定だったんだけど、関西を案内してくれたお礼にと、あたしたち早帰り組三人が話し合って提案したのが事の発端だ。
その意見を出した相原くんに、強がって賛成したあたしも悪い。
その間に葉純さんとこうちゃんに何かあるとか考えたくなくても、考えてしまうのに……。
「少し長くこっちにおる分、ちゃんと土産もちぃに買うて帰ったるから、楽しみに待っとってな!」
本当は、お土産なんていらないからそれ以上に早く帰ってきてほしい。
だけど、そんなことをあたしの口から言うのもおかしいし、せっかくのご両親と過ごす時間をあたしが邪魔するわけにはいかない。
「……ありがとう。楽しみにしてるね」
精一杯の笑顔でそう伝えると、あまりにあたしが素直にそんな反応を見せたからか、こうちゃんは一瞬驚いたような顔をして、そのあと嬉しそうに笑った。
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