【旧版】桃色恋華

美和優希

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第1章

突然の依頼(3)

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白石しらいし 桃華ももか

 17歳

 心臓病

 食事制限・運動制限あり』


 ボランティアの承諾の返事をして数日後、願い叶え隊の担当者が事務所に挨拶に来た。


 その時手渡された病気の子のプロフィールにはそう書かれていた。


 調べてみると、この女の子の入院する病院は心臓外科で有名な病院だそうだ。


 家の近くの病院だというのに、拓人はそのことについては全く無知だった。


 訪問は来週のオフの日の昼からになった。


(意外と歳も近いんだな……) 

 拓人は子どもと聞いててっきり4、5歳くらいの子を想像していた。

(よく思い返してみれば未成年って言ってたもんなぁ……)


「……くと! 拓人!!」


「あ……?」


 見上げるとハルキの姿があった。


 今日は新曲の収録の日だった。


 ハルキのギターの収録が終わったようだ。


「その子? 今度会う子」


 ハルキは拓人の手元の紙を覗き込んだ。


「ああ……」


「おぉ! 意外と歳近いじゃん! 俺も一緒に行ってもいい?」


 横からヒロも出てきた。


「おまえなぁ……」


 拓人は相変わらずなヒロに呆れ気味に返事をすると、プロフィールの書かれた紙をポケットに押し込み、立ち上がった。


「俺の収録の番近づいてるし、ちょっと向こうで声出してくるわ」


「待てよ、拓人!!」


 ハルキが拓人の腕を掴み、拓人の動きを妨げて言う。


「あんまり思い詰めるのは良くない。もっと肩の力抜いていこうよ! 拓人らしくない歌にするなよ!」


「……ありがとう」


 別に病気の子だから嫌とかそういう訳ではない。


 ただボランティア団体に依頼してまで拓人に会いたいと思う、その子の期待のようなものを裏切ってはいけないような気がしていた。


 恐らくそれを拓人は少し重荷に感じていたのだろう。


 ハルキの言葉に支えられ、拓人は悩むのをやめた。


 悩んでも仕方ないと思ったからだ。


 とりあえず、なるようになるだろう。


 山ほどの仕事をこなしながら日はあっという間に過ぎて行き、とうとうその女の子に会いに行く日がやってきた。



 手ぶらで行くのも気が引けるから、何か持っていきたい。


 しかし、花を持って行くのもありきたりすぎる。



 拓人はふと願い叶え隊の担当者との会話を思い返す。


『何か持って行って喜ばれそうなものとかありますか?』


『あまり詳しく把握できていなくて申し訳ないのですが、以前、桃華ちゃんのお母さんにりんごを剥いてもらっているの見たことがあります』


 ──りんご。


 その女の子がどのくらいりんごが好きかは分からないが、なんとなく無難な気がして、拓人は果物屋の前で足を止めた。


 そして色鮮やかなりんごを3個程、可愛らしいピンクのリボンの付いたバスケットに詰めてもらった。
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