飼い猫クロの憂鬱

綾辻凛

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女はわからない

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“俺の飼い主は、バケモノだ!”

 毎朝そう思う。


 ニャァッ?ニャァッ?

❨腹減った。直子、ご飯は?❩

 俺の可愛い声も耳に入らないのか、直子は鏡に向かって、メイクをするのに一生懸命だ。

「あん、もうちょっと待ってぇ。あと少しだからぁ」

 少し舌っ足らずな独特の口調で、俺に返してくるが、顔は鏡を向いている。

 カチャッ···カチッ···カタンッ···


 俺は、このメイクとか言う匂いは好きではない。のに、直子や他の女共は、

「あっ、これいい匂ーいっ!」

 だの、

「こっちも。肌に馴染むー」

 と訳のわからない事を言っては、騒いでいる。


 シュッ······シュッ···

 っ!!

❨また、あの匂いだ!俺が嫌いなのに!❩

「ふふっ···。でーきたっ!かっわいっ!」

 ソファの上で、不貞腐れながらもチラッと直子を見た。

❨バケモノだ!いつもの直子はどこいった?❩

 と毎回思う位に、女はメイクをすると変わる!

「あっ!いっけなぁい!」

❨おっ?やっと飯を食えるのか?今日はなんだ?❩

「遅刻しちゃうぅ!」

❨······。❩

「あ、クロ!今日もこれでごめんね。今月ピンチなんだ!」

 ザザッ···ザッ···

❨また、カリカリだけ···❩

 んなぁぁぁっ?

 皿の前に座って、直子を見上げるも···

「急がないと···」

❨無視かよっ!!❩

 鍵が締る音や直子のコツコツとした靴の音が、段々と小さくなった。

 ボリッ···ガリッ···

❨まぁ、これも好きだけどな。たまには···❩


『···だよねぇ!』
『ほんと、ありゃバケモノだ。』
『俺の飼い主、男だけど、うるさいっていうか、臭い?的な?』

    いつものように窓の隙間から、こうして外に出てはいつもの仲間と日向ぼっこ、影ぼっこしながら話す。

『臭い?』

 とソラに聞いた。ソラの飼い主は、男でなかなか仕事が忙しいらしい。

『うん。酒って言うのか?家じゃ飲んでないけど、仕事帰りに飲んできては、くっさい息吐きながら絡んでくる。この間なんかな···』

 しばし、ソラの愚痴を聞く俺とモモ。あ、モモの飼い主は、お婆ちゃんで、時々俺やソラにもおやつをくれる。

『へぇ。うちのお婆ちゃんはね、寝てばっかよ』

 モモの話は、だいたい飼い主のお婆ちゃんだけど、時々、孫の隆太が登場してくる。

『でね、この間その隆太くんのお母さんが来たんだけどね。帰ってから、お婆ちゃん泣いてたの』
『今でいうなら、いじめか?』
『わかんない。みんな変わったって···。モモだけだって』

 俺らには、飼い主や人間が何を考えてるのかはわからないけど、喜怒哀楽はわかる。

 そんな話をしたり、他の仲間とかけっこしたり、ゴロゴロしたり、を楽しんで帰った。


 コトンッ···

 新聞受けに何かが入った音がしたが、俺にはドンみたいに大きな爪も歯もないから、出せない。ドンは、この住まいを管理してるおじさんに飼われてる犬。もっとも、ドンは『俺が、アイツ(おじさん)を飼ってるのさ』と言ってるが、そんなことはどうでもいい。

 残っていたカリカリを食べ、水を飲み、ゴロゴロしながら直子の帰りを待つ。

❨······。❩

 待つ!

❨······。❩

 待つーーーーーーっ!!

❨暇じゃねーかっ!❩

 で、色々と遊んで···


「まぁたっ、こんなことしてぇ!!めっ!!」

 と直子に怒られる。

 ンニァッ!!

❨だったら、早く帰ってこい。腹減ってんだよ!❩

 と抗議しても、届いた手紙を読んでて、俺の声で届かず···

「そっか···。···するんだ···」

❨ん?なんか、変だぞ❩

 ンニャッ?

 直子が、俺を膝に乗せて、背中を撫でる。

「ね、クロ。覚えてる?」

❨なに?❩

 直子に甘える俺···。柔らかくて、気持ちいいから···

「先月だったかな?ほら、夜にさ、小林くん来たでしょ?」

❨先月?小林···。あー、あのニヤけた感じの男か!❩

「結婚するんだってぇ···」

❨はっ?でも、直子と付き合ってたんじゃね?そいつ❩

 確か、直子とそいつは、カレカノだったような?前、嬉しそうに話してたし···

❨別れたのか?いつの間に?❩

「可愛いんだよぉ。その相手の女の子···」

 ゴロォッ···

❨お前も可愛いぞ。そのメイクを取れば!❩

「ほんとにねぇ···」

❨うん···❩

「むっかつくぅ!!あんのバカっ!」

❨···へっ?❩

「だいたいね、私と言うものがありながら、合コン行く?」

❨いや、知らない···❩

 フガッ···

「いやぁ、なんか気が合って···だ?ふざけんなっ!」

❨いや、だからさ。離して?❩

 フガッ···ンギャッ···

 逃げようとしても、逃げれず浸すら愚痴を聞かされた。

 要は、直子は振られたらしい。自分より若くて可愛い女の子に、好きな小林を取られたと···

 俺に散々愚痴ったあと、

「クロが、彼氏だったらなぁ。クロ、さっきはごめんね···」

❨あー、はい。いつものことだから❩

「クロぉ、大好きぃ···」

❨うん、うん。わかったから···❩

「愛してるぅ」

 フガッ···フゴッ···

❨離せ···離せ···俺は、俺は···❩

 フギャーーーーーッ!!

❨腹が減ってんだぁーーーーーーーっ!!❩

 と叫びに叫んで、飯にありつけたのは、直子がド素っぴんになってからだった···。


 そして、また···

“女は、本当にバケモノだ”

 昨日、散々愚痴って、『男なんかもぉ懲り懲りよぉ!』って言ってたのに、テレビを見ながら、『あんな彼氏欲しい!』とか言ってたもんな。

❨······。❩

 ひとり空っぽの器を見ながら、溜息をつく俺。

 ウナァーーーーッ!!

❨めーーーーーしぃーーーーーーっ!!❩
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みんなの感想(1件)

楠乃小玉
2018.03.23 楠乃小玉

猫が主人公のお話は貴重なので、今後も続いてほしい。

解除

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