Sランク魔術師は苦労人!? ~偽善者と愉快な仲間たち~

山内智一

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魔神結晶奪還編

2話:若作り系女子×ヤクザ=予想外

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「さぁて、テツマ君はどこで何をしてるのやら……」

 都内某所、時刻は正午をやや過ぎたあたり。今風のコンパクトな一軒家の前で、艶やかな黒髪のストレートヘアが特徴的な女性が、ため息を吐き捨てる。

「入る前に魔力探知から、ですねぇ……」

 20代前半くらいに見える妙に若作りした女性は、慣れた手つきで、魔力を込め、自身のを具象化させる。

 具象化した影はまるで自らの意思を持つかのように、目の前の一軒家に入っていく。

「うわぁ……ビンゴっていうか、普通にテツマ君居るんじゃないですかぁ?」

 家の中から極めて高い魔力を持つ生命体を感知した黒間薫くろまかおるは、思わずしかめっ面になる。

「万が一、私もイッカク君も無視して爆睡してたら、お灸をすえないといけませんねェ……」

 カオルはブツブツと愚痴りながらも、自身から伸びている影を操作して、ドアの鍵を難なく解除する。

「……なんだろうなこの音は?まるでイビキのようだけど、いくらテツマ君でもそんなにお馬鹿さんじゃないですよねェ?」

 カオルは廊下に響き渡るイビキに怒りを覚えつつも、まだ確定したわけじゃないと、自身に言い聞かせ、ドアを開ける。

「うふ、うふふ、うふふふふ。テツマ君ったら、暴欲の魔神結晶の窃盗犯の容疑を掛けられてるのに、魔術機構は役員のが慌ててイッカク君を呼びつけて大騒ぎしているのに、私だって柄にもなく本気で心配していたのに、当の本人は自宅で爆睡してるなんて……本当に可愛いんだから♡」

――数分後、部屋中にテツマの悲鳴が響き渡るのであった。


「つまり、二日酔いでダウンしてたからスマホの電源切って爆睡してたと?」

「……はい、そうです」

 床に正座させられたテツマは気まずそうに視線を逸らす。

「はぁ……Sランクに認定されて、すっかり大人になったかと思えば、相変わらずお馬鹿さんのようですねぇ」

「うぐっ……大人だから、酒を飲みたくなるんだよ」

 テツマはいじけた子供のように言葉を返す。

「大人だったらお酒に呑まれないで下さい。とにかく、イッカク君に電話して謝りなさい」

 カオルはまるで母親のように、呆れながらテツマを叱る。

「はい……電話、します」

 テツマは死んだ魚のような眼でイッカクに電話を掛け、珍しくマジギレしたイッカクに謝りたおすのだった。


――都内港区某所――

「うふ、到着です♡」

「……はい」

 イッカクから暴欲の魔神結晶奪還を命じられたテツマ達は、東京湾に面する、某企業の倉庫に訪れた。

「あら?テツマ君、どうしたんですかぁ?お顔が疲れてますけど?」

「……あの、そろそろ腕を離してもらっても良いでしょうか?」

 テツマは道中、カオルの大人げない圧力に屈し、死んだ魚のような瞳で、カオルと腕を組み、都内の街を歩くハメになっていた。

……なんの罰ゲームだよ。

「うふっ♡そんなに照れなくても良いのに♪」

「照れてるんじゃなくて、本当に嫌なんだよ……」

「あらいけず。昔は素直で可愛いかったのに、カオルは悲しいですぅ……」

 あからさまなカオルの泣き真似に、若干の殺意が芽生えるも、自分に負い目がある為、テツマは鋼の意思で我慢した。

「オーケーわかった。俺が悪かったよ。頼むからその泣き真似は辞めてくれ。イタ過ぎて目の毒なんだ」

「まあひどい。こんな可愛い娘になんて酷いことを言うんですかぁ。本当に泣いちゃいますよぉ?」

「あんたの実年齢に触れるつもりはないが、外見が20代前半の女がやるには、キツイって言ってるんだよ」

 実際のところ、黒間薫くろまかおる の年齢は誰も知らない。 

 ただ言えることは、魔術機構が発足した当時の写真に、カオルそっくりの女がピースで写っているということだ。

……魔術機構が発足してから、もう20年以上が経過している。

「あらひどい。これでもギリ10代で通用してるんですよぉ!」

「それはない。社交辞令を真に受けるなよ」

 カオルは魔術機構に所属する魔術師の中でもぶっちぎりの最古参。

 つまり、テツマの大先輩にあたる人なのだが、ほぼ反射的に突っ込みを入れていた。

「それで、ここの倉庫で如月ちゃんの痕跡を探すんだっけか?」

「ええ、園田君の報告によれば、ここでテツマ君とサイカちゃんに襲われたってことなんですけど……」

「戦闘が起きたにしては綺麗すぎるな。如月ちゃんが戦ったなら、辺り一面に焦げ跡が着いてるハズだぜ?」

 誰が戦ったのにせよ、何の痕跡も残ってないのはありえないということだ。 

「テツマ君が戦ったのならば、辺りには刃物による切り傷が残りますもんね。まあ、そもそもテツマ君と園田君が戦ったのなら、園田君がと思いますけどねぇ……」

「おいおい、俺はアンタらキチガイと違って、余程のことがない限り、殺したりしないぜ?」

「テツマ君が平和主義なのは知ってますけど、それでもに来たら、殺さざるを得ないですよね?」

 テツマはカオルの物騒な言葉に息を呑み、思わず視線をカオルに向ける

「園田が俺のことを殺したいって?何を根拠に……って何してんの?」

 カオルはいつの間にか、倉庫の床に魔法陣のような物を描いており、バッグから巻物のような物を取り出した。

「園田君はテツマ君のことを随分とライバル視してましたからねえ。2人が闘うなら、殺し合い以外はありえませんよぉ」

「おいおい、園田はそんな物騒な人間じゃないだろ?あいつはもっと爽やかな人間だぞ?」

「テツマ君は純粋ですからねえ……いや、人に興味が無いと言うべきか。とにかく、これで私の言いたいことがわかると思いますよぉ?」

カオルは喋りつつも、テキパキと魔方陣に術式を書き込み、完成したようだった。

「よし、完成です☆」

 カオルが描いた魔方陣は、六芒星の隙間にお経のような文字がびっしり書き込まれた、ややグロテスクなものだった。

「うわぁ。すごいね。で、誰を呪い殺すの?」

「違いますぅ。これは日本古来の由緒正しい探知魔術ですよぉ」

 カオルは頬を膨らませるぶりっこポーズをとりながら、巻物を魔方陣の中央に放りこむ。

「え?巻物って普通読むものだよね?」

「あくまでも、術式の系統に合わせて巻物の見た目にしてるだけですからねえ。本質は、古代呪術のトーテムに近いです」

「さらっとトンデモナイこと言うね」

「魔術というのは結局のところ、思考の拡張ですから♪臨機応変に、柔軟にいかないと☆」

 カオルは無駄に可愛らしいウィンクをテツマに放ちつつ、魔方陣に手を当てる。

千里眼・再現開始私の瞳は過去を見透す

 カオルがキーワードと共に魔力を流すと、周囲の空間に魔力が放出され、巻物を中心とした、円形のドームのような物が展開される。

 そして、中央の巻物が顔のない人形のような姿に変わった。

 そのままカオルが魔力を流し続けると、人形が3つに分身する。

 分身した人形は、更に姿を変え、片方は、門倉鉄舞かどくらてつまの姿になった

 もう一つの分身は、赤いセミロングの髪とやや気が強そうな表情が特徴的な女性の姿へと変わる。

 更にもう一つは、黒いサングラスをしたイカにもヤクザのような男の姿へ変わった。

「俺と如月ちゃんと……もう1人の男は誰だ?」

「いかにもな見た目ですけど、さて……どうなることやら」

3人の男女へと姿を変えた人形は会話を始めた。

「ここが何処の縄張りシマ理解わかってのんか?四獣会青龍組しじゅうかいせいりゅうぐみ縄張りシマだぞ?」

「おっとこいつはすいませんね。この女にトドメを刺したら、すぐに消えますんでご容赦を」

「うぅ……門倉先輩、どうしてなのっ!?」

 腹部から血を流したサイカは涙ながらにテツマの姿をした男に言葉を投げる

「はい、さようなら」

 テツマの姿をした男は言葉の代わりに、魔力で生成した剣をサイカ目掛けて放出する。

「事情はわからんが、お前が腐ってる野郎だということは理解わかったぜ」

 サイカ目掛けて放たれた剣は、サングラスをかけた男の拳で叩き落とされた。

「え?ちょっと、なんで邪魔すんの?こいつ殺したらすぐに消えるって言ったじゃーん」

「青龍組の舎弟頭しゃていがしら無礼ナメるなよ小僧ガキが。こちとら女子供を見殺しにするような、渡世は張ってねェんだよ」

「あっそう。だったら――」

 園田が何かを言い終える前に、3人の分身にノイズのような物がはしる。

「えっ?おい、どうなってるんだ?」

「あぁ。もう限界ですかぁ。やっぱり、血継魔術のインスタント化は難しいですねぇ」

 3つの分身はそのままザザァとノイズ音を発しながら、砂のように溶けていった。

「これで終わりって感じか。それにしても、予想外のことが起きすぎて頭がパンクしそうだよ」

「そうですかぁ?青龍組以外は、私の予想通りですけどねえ?」

「何処がだよっ!?俺の偽物が如月ちゃんを殺そうとしたんだぞっ!?何処のどいつだが知らねえが、ふざけやがってっ!!」

 テツマは柄にもなく熱くなり、怒りを爆発させる。

「はいはい、熱くならないの。テツマ君の偽物ですが、ある程度の予想が着きます。それよりも、今は青龍組のことを考えましょう。完全なイレギュラーなので」

 カオルはテツマを宥めるように肩を叩き、倉庫の外へと歩いて行く。

「青龍組が予想外なのはわかるけどさ、俺としては一刻も早く偽物野郎をぶっ殺したいんだけど?」

「その偽物君に辿り着く為には、サイカちゃんを保護するのが一番手っ取り早いと思いませんかぁ?」

 カオルはなおも熱くなるテツマに、ビシッと人差し指を突きつける。

「うっ……わかったよ。とにかく、青龍組について調べるんだな?」

「調べる?そんな面倒なことはしませんよぉ。青龍組の事務所に行きましょう?」

 カオルはなんてこともないように、あっさりと言った。

「……え、マジ?ヤクザの事務所に乗り込むの?たった2人でっ!?」

「私とテツマ君が居れば十分ですよぉ。さぁ、れっつごー☆」

 ノリノリでぶりっこポーズを決めるカオルを見て、テツマは頭痛をこらえるように額を抑える。

……ああ、今日もクソッタレな日になりそうだ。
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