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「あなたが彩葉さんの従者の方なのですね。お名前を教えていただけませんか」
たおやかな印象の、可愛らしいお嬢様。そんな雰囲気をその身すべてから漂わせている。
あれ、名前って、本名でいいのかな?
いや、でもそれはまずいような…
「え、えと、あの…」
「佐倉翼よ。よければ仲良くしてあげてくださいな、瑞季様」
私の代わりに答えてくれたのは嬉しいけど、なんでそういう大事なことを先に教えてくれないんだろうか、この主人は。
「佐倉翼さん、ですね。私は月城女子学園で学生会長をしております、槐瑞季と申します。翼さんがこの学園の一員になるのを心待ちにしていますわ」
「は、はい。ありがとうございます」
「くすっ。それでは、お邪魔しても悪いので、私はこれで失礼しますね」
長いスカートを摘み、丁寧なお辞儀をしてくれる瑞季さん。
こういう人こそ、理想のお嬢様って感じだなぁ…。
私の受け答え、絶対変だったよね…。
優雅に歩き去っていく瑞季さんを見て溜息をつく。緊張した…。
あんなにお淑やかなお嬢様とお話したことが無かったからかな。彩葉様のお友達もみんな彩葉様タイプだし…。
あとは、まあ、色々比べちゃうよね、自分の主人と。
「翼、失礼なことを考えてる暇があるなら行くわよ」
「え!?ちょ、なんで分か…じゃなくて!色々言いたいことあるんですけど!」
「気にしない、気にしない。あなたの名前は佐倉翼よ。それと、歳上のお姉様方にはしっかりと様をつけるように、ね」
私を置いて、速い歩調で校舎へ歩いていく彩葉様を追うように、僕は小走りで校舎へ向かう。
まだ、女の子らしい歩き方に慣れてないから大変なんですけど。
試験自体は滞りなく終わった。
待っていると言っていたはずの彩葉様は急用ができたとのことで、先に帰ってしまったから、一人で帰るつもりだったけど。
「翼さん、試験を見ている感じ、合格になりそうだし、採点もすぐに終わるから、良ければ校舎を見学して行きませんか」
と、試験監督の先生に言われたので、校舎内を歩くことにした。
1時間もすれば採点が終わると言っていたが、それだけこの校舎も見るべきところがあるんだろうか。
お客様用に配布したりしている校内マップがあるらしく、それを頂いたが、どうにも一人じゃ心配だ。
「はあ…。知り合いの一人や二人、いたらいいんだけどね」
なんて、溜息をついても、知り合いなんているはずが、いや、いてもバレる心配があるから怖いんだけど…。
「あれ、君、何してるの?」
廊下の真ん中で分かりやすく落ち込んでいると、後ろから誰かに声をかけられた。
「あ、怪しい者じゃないんです!」
「うわぁ!もう、急に大きな声出さないでよ。今日いるってことはアレでしょ?特待生試験」
驚いて大声になってしまった私を見て、目の前の女の子が言う。驚いてごめんなさい。ここにいてごめんなさい。僕、男なんです…。
怪しい者です。
「試験ってもう終わったはずだよね。ってことは、学内見学中、かな?」
私の手にある地図をチラリと見て女の子が聞いてくる。明るい笑顔で、すごく可愛い。
「はい、全部その通りです」
「そかそか。私は有栖恩。恩返しの恩って書いて、めぐみって読むんだ」
「へえ、珍しい名前ですね。ぼ…私は佐倉翼って言います」
「佐倉翼…うん。翼さんだね。りょーかい。翼さんが、一年生の年齢なら同い年だから全然タメ口でいいからね。あ、違ったら私が失礼になるのか…」
表情をコロコロと変えながら楽しそうに喋る恩さん。
人懐っこい雰囲気だし、みんなに好かれそうなタイプだ。
「くすっ。大丈夫だよ。改めてよろしくね、恩さん」
「うんうん!よろしく、翼さん」
入学前、大丈夫って言ってたから大丈夫だよね、合格が前提で。にこうやって知り合いができるのはありがたい。
入学してから孤立なんてしたくないしね。
「学内見てるんだよね。じゃあじゃあ、是非私に案内させてくれないかな」
「え、本当に?ありがとう、恩さん」
「もちろん!入学前の転校生と仲良くなれるなんて私もラッキーだよ」
「よし、これで一通りの説明は終わりかな。まあ、私もまだ入学してから一ヶ月だからしらないところもあるんだけどね」
恩さんの案内が終わり、時間もいいぐらいになっていた。時々時計を見ていたから、気を使ってくれていたんだろうなぁ…。
「あ、そうそう!この学園には一つ、伝説があるの」
「伝説?」
前に立つ恩さんがふと振り返る。その表情は恋に恋する乙女、みたいだ。
「えとね、この学園を囲っている木の中に、一本だけ冬桜があって。そこで愛を誓いあった二人は永遠の愛で結ばれるっていう話。女の子からしたら憧れだよね、そういうの!まあ、うちは女子学園なんだけど…」
「へぇ…。凄いね。そんな伝説とかあるんだ…」
この学園自体、古いものだからこそ、伝説があるんだろう。
それに、お嬢様学園っていうのもあるのかな。多かれ少なかれ、この学園に通う女の子たちは何かに拘束されていただろうからね。今は、旧家名家の人ばかりってわけじゃないけど。
女子学園なのは昔からだから、恋愛の意味はあまり強くないんだろうね。
「でしょ!?いいよね、永遠の愛!」
「うん。でも、その愛って恋愛だけじゃないと思うよ」
「ん?どういうこと?」
「たとえば、友愛とかかな。あとは、多分、主従の愛もあるんじゃないかな」
僕の言葉を一生懸命に聞いてくれる恩さん。最近、こういう人とお話してないから、なんか嬉しいな…。
「そうだよね。この学園ってやっぱりいいところの子?っていうのかな、お嬢様が多いのもあって、主従関係の子たちもいるみたいなの」
この学園に来て、主従になる子もいるのかな。何にせよ、従者が僕だけじゃないのは、助かる。
「私の学年にも一人いるんだよ。楪清香ちゃんと、御供朔夜ちゃん。また今度紹介するね!」
ん?
「う、うん。ありがとう。じゃあ、私は職員室に行くから。恩さん、今日は本当にありがとうね」
「うんうん、またね!」
「ふう…」
めっちゃ焦ったぁ!
え、朔夜いるの!?
これは…非常にピンチだ。
たおやかな印象の、可愛らしいお嬢様。そんな雰囲気をその身すべてから漂わせている。
あれ、名前って、本名でいいのかな?
いや、でもそれはまずいような…
「え、えと、あの…」
「佐倉翼よ。よければ仲良くしてあげてくださいな、瑞季様」
私の代わりに答えてくれたのは嬉しいけど、なんでそういう大事なことを先に教えてくれないんだろうか、この主人は。
「佐倉翼さん、ですね。私は月城女子学園で学生会長をしております、槐瑞季と申します。翼さんがこの学園の一員になるのを心待ちにしていますわ」
「は、はい。ありがとうございます」
「くすっ。それでは、お邪魔しても悪いので、私はこれで失礼しますね」
長いスカートを摘み、丁寧なお辞儀をしてくれる瑞季さん。
こういう人こそ、理想のお嬢様って感じだなぁ…。
私の受け答え、絶対変だったよね…。
優雅に歩き去っていく瑞季さんを見て溜息をつく。緊張した…。
あんなにお淑やかなお嬢様とお話したことが無かったからかな。彩葉様のお友達もみんな彩葉様タイプだし…。
あとは、まあ、色々比べちゃうよね、自分の主人と。
「翼、失礼なことを考えてる暇があるなら行くわよ」
「え!?ちょ、なんで分か…じゃなくて!色々言いたいことあるんですけど!」
「気にしない、気にしない。あなたの名前は佐倉翼よ。それと、歳上のお姉様方にはしっかりと様をつけるように、ね」
私を置いて、速い歩調で校舎へ歩いていく彩葉様を追うように、僕は小走りで校舎へ向かう。
まだ、女の子らしい歩き方に慣れてないから大変なんですけど。
試験自体は滞りなく終わった。
待っていると言っていたはずの彩葉様は急用ができたとのことで、先に帰ってしまったから、一人で帰るつもりだったけど。
「翼さん、試験を見ている感じ、合格になりそうだし、採点もすぐに終わるから、良ければ校舎を見学して行きませんか」
と、試験監督の先生に言われたので、校舎内を歩くことにした。
1時間もすれば採点が終わると言っていたが、それだけこの校舎も見るべきところがあるんだろうか。
お客様用に配布したりしている校内マップがあるらしく、それを頂いたが、どうにも一人じゃ心配だ。
「はあ…。知り合いの一人や二人、いたらいいんだけどね」
なんて、溜息をついても、知り合いなんているはずが、いや、いてもバレる心配があるから怖いんだけど…。
「あれ、君、何してるの?」
廊下の真ん中で分かりやすく落ち込んでいると、後ろから誰かに声をかけられた。
「あ、怪しい者じゃないんです!」
「うわぁ!もう、急に大きな声出さないでよ。今日いるってことはアレでしょ?特待生試験」
驚いて大声になってしまった私を見て、目の前の女の子が言う。驚いてごめんなさい。ここにいてごめんなさい。僕、男なんです…。
怪しい者です。
「試験ってもう終わったはずだよね。ってことは、学内見学中、かな?」
私の手にある地図をチラリと見て女の子が聞いてくる。明るい笑顔で、すごく可愛い。
「はい、全部その通りです」
「そかそか。私は有栖恩。恩返しの恩って書いて、めぐみって読むんだ」
「へえ、珍しい名前ですね。ぼ…私は佐倉翼って言います」
「佐倉翼…うん。翼さんだね。りょーかい。翼さんが、一年生の年齢なら同い年だから全然タメ口でいいからね。あ、違ったら私が失礼になるのか…」
表情をコロコロと変えながら楽しそうに喋る恩さん。
人懐っこい雰囲気だし、みんなに好かれそうなタイプだ。
「くすっ。大丈夫だよ。改めてよろしくね、恩さん」
「うんうん!よろしく、翼さん」
入学前、大丈夫って言ってたから大丈夫だよね、合格が前提で。にこうやって知り合いができるのはありがたい。
入学してから孤立なんてしたくないしね。
「学内見てるんだよね。じゃあじゃあ、是非私に案内させてくれないかな」
「え、本当に?ありがとう、恩さん」
「もちろん!入学前の転校生と仲良くなれるなんて私もラッキーだよ」
「よし、これで一通りの説明は終わりかな。まあ、私もまだ入学してから一ヶ月だからしらないところもあるんだけどね」
恩さんの案内が終わり、時間もいいぐらいになっていた。時々時計を見ていたから、気を使ってくれていたんだろうなぁ…。
「あ、そうそう!この学園には一つ、伝説があるの」
「伝説?」
前に立つ恩さんがふと振り返る。その表情は恋に恋する乙女、みたいだ。
「えとね、この学園を囲っている木の中に、一本だけ冬桜があって。そこで愛を誓いあった二人は永遠の愛で結ばれるっていう話。女の子からしたら憧れだよね、そういうの!まあ、うちは女子学園なんだけど…」
「へぇ…。凄いね。そんな伝説とかあるんだ…」
この学園自体、古いものだからこそ、伝説があるんだろう。
それに、お嬢様学園っていうのもあるのかな。多かれ少なかれ、この学園に通う女の子たちは何かに拘束されていただろうからね。今は、旧家名家の人ばかりってわけじゃないけど。
女子学園なのは昔からだから、恋愛の意味はあまり強くないんだろうね。
「でしょ!?いいよね、永遠の愛!」
「うん。でも、その愛って恋愛だけじゃないと思うよ」
「ん?どういうこと?」
「たとえば、友愛とかかな。あとは、多分、主従の愛もあるんじゃないかな」
僕の言葉を一生懸命に聞いてくれる恩さん。最近、こういう人とお話してないから、なんか嬉しいな…。
「そうだよね。この学園ってやっぱりいいところの子?っていうのかな、お嬢様が多いのもあって、主従関係の子たちもいるみたいなの」
この学園に来て、主従になる子もいるのかな。何にせよ、従者が僕だけじゃないのは、助かる。
「私の学年にも一人いるんだよ。楪清香ちゃんと、御供朔夜ちゃん。また今度紹介するね!」
ん?
「う、うん。ありがとう。じゃあ、私は職員室に行くから。恩さん、今日は本当にありがとうね」
「うんうん、またね!」
「ふう…」
めっちゃ焦ったぁ!
え、朔夜いるの!?
これは…非常にピンチだ。
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