ストーリーの重厚感や完成度はさることながら、章が変わるごとに登場人物の名前にルビを振り直してくださっている親切さに驚きました。
途中で「読み方なんだっけ……？」と引っかかることなくストーリーに集中できるので大変助かります。

架空の戦国物語ということで、読者に時代考証や日本史の基礎知識を求めない読みやすさがありながら、一切ファンタジックな甘さがない。ここの両立にまず感動しました。

数年前から私は『花浮舟』のファンですが、別サイトに掲載されていたバージョンよりかなり修正されており、より練り上げられた作品となっていました。

あまりに現実的で、あまりに生々しく、あまりに非情で、そして美しい物語でした。


ここからは本編及びあとがきのネタバレを含みます。

これは私の考察になるのですが、那須様が一切妥協しなかった現実の描写。
きっとこれを忖度して甘さが出るのが、あとがきにあった『洸清を主人公に据えた』場合の作品なのだろうと思いました。
洸清が主人公の作品なら、12歳の公主が40代の宵君と婚姻を結ばないし、子も成さない。
洸清が主人公の作品なら、どんな劣勢もご都合展開で乗り切り、主人公は死なずにハッピーエンドを迎える。

那須様はあとがきにて「大衆受けするコンテンツを作るなら主人公は洸清」と仰いましたが、まさにそうであると感じました。
そして、今こうして改めて完結を見届けた私も、「現実的に考えるなら洸清は宵君を倒せないばかりか、かすり傷ひとつ付けられない」との見解に同意です。
さそれどころか、宵君は暁光や洸清、鯨一郎など全ての主要人物が束になってかかっても敵わないとのこと(那須様の許可を頂きましたので感想にて共有させて頂きます)。

因みに私の推しは暁光と洸清です。本編を拝見した段階で既に好きだったのですが、那須様に見せて頂いたイラストでのビジュアルが好みすぎて……。
宵君もめちゃくちゃ好きですが……！

長々とまとまりのない感想になってしまいましたが、甘くないからこそ美しい『花浮舟』。この作品に出会えたことに心から感謝致します。
現代の若者は活字に弱く～、のくだりに耳が痛くなるほど、普段文学作品を積極的に読む方ではない私ですが、これを機に他の作者様の作品も拝見しようと思います！

創作時代小説というジャンルを初めて拝見したのですが想像以上でした。
もっとファンタジックでふんわりしたイメージを抱いていましたが、読み進めるほどに圧倒される重みのある作品でした。

「本物の『主人公が悪役』作品」というフレーズに惹かれて拝読しましたが、こちらも「実は良い奴」展開を予想していたところ……読了した感想は「参りました」の一言に尽きます。
作者様があえて「本物の」と枕詞をつけた意味がよく分かりました。宵君は本物の悪役でした。それでいて後書きの(こちらの後書きの書き方もお洒落で、最後まで驚かされっぱなしです)「クズで片付けていい人物ではない」という面もしっかりと描かれていました。

お見事です。