絶対にスパダリと結婚します~玉の輿を目指す営業男子の婚活BL~

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番外編

竹取物語パロ 透と五人の貴公子

竹取物語パロ 透と五人の貴公子

 むかしむかし、都の外れにある竹林で、金色に光り輝く一本の竹から、ひとりの平凡な赤子が生まれました。

 赤子は透(とおる)と名付けられ、何不自由なく大切に育てられましたが、成人してからは、都の役所に仕官することとなり、毎日の宮仕えに疲れ果てておりました。

「……ああ、朝から晩まで働いて、上司には叱られて。こんな生活、もう嫌だ!」

 ある日、透は決心いたしました。

「そうだ! 玉の輿に乗ろう! 高収入で、できればイケメンで……そんな殿方を探そう!」

 こうして透は、都で評判の結婚相談所「エトワール」に登録したのでございます。

 透の噂は、たちまち都中に広がりました。
 ――竹から生まれた、可愛らしい青年が婚活をしている、と。

 透の屋敷には、連日のように求婚の使者が訪れます。
 その中に、透の高い理想にかなう五人の貴公子がおりました。

 一の君・雨宮清一郎

 東大寺で学を修め、今は右大臣家の次期当主。誰もが羨む立場にある殿方でございます。
 身長は六尺一寸(百八十四センチ)。容姿端麗、まさに透の理想そのものでした。

「透くん。僕と結婚していただけませんか」

 清一郎は恭しく頭を下げ、黄金の枝を差し出します。

「これは蓬莱の国の玉の枝。東大寺に伝わる宝物でございます。あなたへの想いの証として」

「こんな貴重なものを俺に……?」

 ――しかし、その時でございます。
 馬に乗った数人の従者が、屋敷へと駆け込んでまいりました。

「清一郎様! 左大臣家のご令嬢との婚約の儀が、すでに整いました!」

「えっ……」

 清一郎は従者たちに囲まれ、牛車へと押し込まれてしまいます。
 遠ざかる牛車を、透は呆然と見送るしかありませんでした。

 二の君・墨谷文人

 文武に優れ、都一番の出世頭と名高い貴族でございます。

 墨谷は懐から、美しい毛皮を取り出しました。

「これは火鼠の裘。火にも水にも強い、唐の秘宝だ。これを得るため、俺は自ら唐へ渡り、三年を費やした」

「……俺のために、仕事命の墨谷さんが三年もかけて……?」

 思わず手を伸ばしかけて、透ははっとします。
 宮中で最も厳しかった墨谷が、まさか求婚に訪れるなど――信じられませんでした。

 苦しめられた日々が、脳裏をよぎります。

「いいか木原。俺の部下になった以上、責任をもって一人前にしてやる。毎朝六時に参内。休日も勉強会への参加を義務付ける。他の貴族とくだらない遊びをする暇があるなら、俺の隣で励め!」

 こんな人と結婚したら、きっと一生働きづめです。

「──け、結構です! お帰りください!」

 透は立ち上がると、屋敷の奥へと逃げ込みました。

 三の君・鶴矢巡

 三人目は、まるで異国の貴族のような美しい青年でございました。
 金髪に青い瞳。
 日の本の者とは思えぬ容姿――それが鶴矢巡でございます。

「透くん。お待たせしました」

 鶴矢は優雅にひざまずき、掌に輝く宝珠を捧げました。

「これは龍の首の珠。東の海に棲む龍を討ち、手に入れたものです」

「りゅ、龍を……!?」

「ええ。あなたのためなら、龍の一匹や二匹」

 向けられた青い瞳に、透は射抜かれたように息を呑みました。喉の渇きを覚えます。

「あの……少し、考える時間を……」

「もちろん。ですが、あまり焦らさないでくださいね」

 鶴矢は微笑みました。
 その笑顔は美しく――どこか、怖ろしくもありました。

 四の君・雨宮誘

 四人目は、陽気な雰囲気の青年でございます。

「やっほー、透くん! 久しぶり~」

「誘!? どうしてここに……!」

 誘は透の昔馴染み。
 かつては清一郎と同じ右大臣家の御曹司でしたが、家を飛び出し、今は市井で暮らしておりました。

「はい、燕の子安貝」

 布包みを開くと、美しい貝殻と、湯気の立つ椀が現れます。

「燕の巣から貝殻を取るだけじゃつまんないでしょ。ついでに、燕の巣のスープも作ってみた」

「え……これ、高級食材の……」

 誘はへらへらと笑いました。

「さあ、召し上がれ♪」

 透は一口、スープを飲みます。

「……おいしい」

「でしょ? 結婚してくれたら、いくらでも作ってあげるよ」

 五の君・帝の犬リオ

 最後に訪れたのは、帝に仕える犬――リオでございました。

「ワン!」

 尻尾を振りながら、透に近づいてきます。

「わあ……可愛い……」

 撫でていると、リオは透の着物をくわえ、外へ引っ張ろうとしました。
 そこには、牛車が待っております。

「ごめんね。気持ちは嬉しいけど……帝によろしく」

「キューン……」

 リオは何度も振り返り、名残惜しそうに去っていきました。

 その夜、満月が煌々と輝いておりました。
 縁側に座り、透は空を見上げます。

「清一郎様は婚約者がいた。墨谷様は厳しすぎる。鶴矢様はなんだか怖い。誘は貧乏。帝は年上すぎる……。こんな平凡な俺に、ふさわしい人なんて……いないのかな」

 その時でございます。
 月の光が一段と強まり、空から白い階段が降りてまいりました。

「かぐや透様」

 月より、美しい衣装をまとった使者たちが現れます。
 その中心に立つのは――見覚えのある姿。

「鶴矢様……!?」

「驚きましたか、透くん。実は私は、月の使者なのです」

 鶴矢は静かに語ります。

「あなたは本来、月の姫君。罪を犯し、地上へと落とされた存在なのです」

 手を差し伸べながら、続けました。

「さあ、月へ帰りましょう。地上での記憶は消え、苦しみも悲しみもなくなります」

 透の目から、涙が溢れます。

「……嫌です……」

「地上は苦しいことばかりでしょう? 月には、永遠の安らぎがあります」

 透は、はっきりと首を横に振りました。

「俺は……まだ、諦めたくないんです!」

 その瞬間――

「待てええええええ!!」

 門が開き、三人の男が飛び込んできます。

「木原は俺が命をかけて守る!」

 馬上の墨谷が叫びました。

「透くんは俺の!」

 誘が前に立ちます。

「僕の天使を奪わないでください!」

 清一郎も駆けつけました。
 犬のリオも果敢に吠え立てます。

「……皆様お揃いで」

 鶴矢は静かに笑いました。

「では、透くん。あなたの答えを」

 透は震える声で告げます。

「俺は……地上に残ります。月が故郷でも……みんなと一緒にいたい」

「では、私も地上に残ります」

「えっ!?」

「月の使者である私が、月の姫を連れ戻せなかった。もはや月には帰れません」

 鶴矢は透の手を取りました。

「後悔はありません。あなたと共にいられるなら」

 月の階段は音もなく消え、使者たちは月へと帰っていきました。

 その後、盛大な宴が開かれ――

「で、透くん」

 誘が悪戯っぽく尋ねます。

「結局、誰と結婚するの?」


 めでたし、めでたし。
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