絶対にスパダリと結婚します~玉の輿を目指す営業男子の婚活BL~

nuka

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本編

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 鶴矢さんが連れてきてくれたフレンチ・レストラン『puits(ピュイ)』は、川沿いに建つ、真っ白な外壁が目立つおしゃれなお店で、平日の夜というのに、広いホールはほぼ満席。俺たちが到着したときは、ちょうどギターバンドの生演奏中で、温かく賑やかな雰囲気に包まれていた。

「明るくて、いいお店ですね!」

 鶴矢さんにつげると鶴矢さんも自慢気だった。

「気に入っていただけて良かった。お料理も美味しいんですよ」

「シニョール鶴矢!」

 奥から、彫りの深い顔立ちの男性がやってきた。フランス人で、ここの店長だそうだ。

「いらっしゃいませ。こんな時間に珍しいですね。お連れは……」

 青い目で、興味深そうな視線を向けられる。鶴矢さんが紹介してくれた。

「こちらは透くんです」

「デートですか?」

 思わず「イエッ」と叫んだ俺の横で、鶴矢さんはうなずいた。

「そうですよ。ですので個室をお願いします」

「承知いたしました」

 俺はただの結婚相談所の客だけど……。わざわざ訂正するのも変だよな。ドギマギしたまま階段の上の二階へと進む二人に付いていった。

 一階の広々としたホールとは違い、二階は個室ひとつしかない。おそらく普通の客には使わないVIPルームで、一番の存在感を放つ半月型のソファはベッドのように大きい。大画面テレビもあり、窓からは一階のオープンキッチンが見渡せるようになっている。オーダーは専用の電話から。呼ばない限り、スタッフは来ないそうだ。店長が部屋中のキャンドルを灯し終えると、やけにニヤニヤしながら「どうぞごゆっくり」と言って出ていった。

 俺はなんだか恥ずかしい気分だったが、鶴矢さんは気にしていないようだ。

「どうしたんですか? 早く、奥へどうぞ!」

「は、はい……」

 背中を押され、キャンドルの光の中、柔らかいソファに腰掛けた。ただでさえドキドキするのに、隣に鶴矢さんがメニューを広げて、「お腹ペコペコです」と無邪気に寄り添ってきた。

「コースは終了してしまったのでアラカルトでオーダーしましょう。ここの定番は、牛肉のローストですが、夜も遅いですし、重たければ他のものを……。季節のメニューも毎回好評です」

 鶴矢さんのフレグランスの爽やかな香りに、つい上の空で相づちをうっていたのがバレたのか。

「では、オーダーをお願いします」

 メニューを渡された。

「えっ!?」

「私はここのメニュー、見飽きちゃってるんですよね。透くんの気になるもので決めてください」

「で、でも、俺、フランス料理には詳しくなくて……」

 というか、全然分からない。エスカルゴは知ってるけど食べたくないし……。

「構いませんよ」

 「お願いします」と上目遣いで言われたら、もう断れない……。

 トマトのデクリネゾン……
 塩漬け鴨肉のロティ……

 材料をヒントに想像するしかないな……。仕事よりも真剣にメニューを読み込んでいく。

 鶴矢さんは横で静かに、俺を待っていた。ただし、ジーッと俺のことを見つめながら。

 まさか顔に何かついている? 手で撫でて見たが問題なしだった。遅いからイラつかれてるとか……? ちらりと見たら目があって、慌ててメニューに視線を戻した。

「どうぞゆっくり決めてくださいね」

「は、はい」

 鶴矢さんの視線が気になります、とは言えず……。なんとか決めて、顔を上げたときだった。

「────ひぁぅっ!? 」 

 突然フッと耳に息を吹きかけられ、飛び上がった。

「な、な、何するんですかっ!?!?」

 耳を押さえながら抗議するも、振り向いた鶴矢さんに悪びれた様子はなかった。

「蚊がいたんですよ~」

「へっ」

 俺の頬に蚊が止まっているのを見つけて、追い払ったそうだ。

「刺されてないか見ますね~。うん大丈夫で~すっ」

「そうですか……」

 まだ耳がこそばゆい。が、今ので何に決めたか忘れちゃったから、確認しなきゃ……。再びメニューに目を落としたら、鶴矢さんが吹き出した。

「あはっ、ごめんなさい、驚いた声が可愛かったの思い出しちゃって……」

「忘れて下さい!」

「それはちょっと無理ですね。……ふふふっ」

 そんなに笑われると、本当はイタズラだったのでは? と疑いたくなる。でも誘じゃあるまいし、まさか鶴矢さんがそんな馬鹿なことしないよな……。


 一階のホールでのギター生演奏がフィナーレを迎えた。盛大な拍手が送られる。俺と鶴矢さんも、二階の窓辺から拍手を送った。

「良い演奏でしたね。それでは、食事をいただきましょう」

「はい!」

 目の前のテーブルには、結局鶴矢さんが決めてくれた料理がズラッと並んでいる。

 その少し前には、お店からのサービスだというシャンパンも届いて乾杯したので、俺の緊張もすっかり溶けた。

「もう一回乾杯しましょうよ」

 二杯目のシャンパンで食欲もいっそう湧いて。生まれて初めてのフランス料理は言葉にならない美味しさだった。
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