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本編
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一流ホテルのロビーで顔を合わせたA.Sさんは、プロフィール写真に嘘偽りのない、俺が一目惚れしたそのままの男性だった。ハンサムで高身長・スポーツマンらしい清潔感があって、ハイブランドの高級スーツと高級腕時計も全く嫌みがない。
鶴矢さんが先に挨拶して、それから俺を紹介してくれた。緊張したけど、清一郎さんも俺を気に入ってくれたみたい。俺を見る目があからさまに輝いている。良かった、実物の俺を見て思ってたのと違うってガッカリされないか心配してたんだ。
「はじめまして。雨宮清一郎と申します。年齢は32、職業は雨宮総合法律事務所の弁護士兼、専務取締役です。どうぞよろしくお願いいたします」
「え、えと、木原透です。24歳で、化学メーカーで新素材の営業をしています」
「透くん」とすぐに清一郎さんは俺の名を呼んだ。
「ずっとお名前が知りたいと思っていたんです。イニシャルからたくさん想像していましたが、その中で一番ぴったりだと思います。先日はこちらの都合で申し訳ありませんでした。お会いできて光栄です」
透き通った声と落ち着いた話し方にさらに嬉しくなる。見るからに優しそうだし大人の男の色気もあって、まさに俺の理想の旦那様! 俺はこの人と結婚したい。鶴矢さんには色んな人に会うことを薦められたけどこれ以上の人がいるなんて考えられない!
────でも、……あれっ???
はたと気づいた。
いま雨宮って名乗らなかった???
「あの、清一郎さん……」
どうか聞き間違いであって欲しい。
「恐縮ですが、もう一度お名前を伺っても……?」
清一郎さんは笑って答えてくれた。
「はい。雨宮 清一郎です。雨宮総合法律事務所の専務取締役をしています」
「………………」
雨宮は、誘の名字。それに雨宮総合法律事務所といえば、日本最大手の法律事務所で──誘の実家だ。
誘はあれで御曹司で、俺が大学で初めて知り合ったときは、高級タワマンで外車付きの一人暮らし・最年少で司法試験に合格したときは眩しいくらい輝いていた。卒業後に家出して、今は見る影もないけど。
そういえば家業は従兄弟がかわりに引き継いだって聞いたような。なら、それがこの清一郎さん? たしかにあらためて見ると、立派な体格と甘い顔立ちが誘に似てる。
「──どうぞ受け取ってください」
呆然と立ち尽くす俺に、清一郎さんが淡いピンクのミニブーケを差し出した。
「ど、どうも」
花束をプレゼントされるなんて初めて。俺の手にちょうど収まったお花はとても可愛いくて良い匂いがする。
「よくお似合いです」
照れた微笑みに胸がキュンキュンする。けど、すぐに誘がダブって見えて複雑な気分……。
もしも誘が御曹司のまま、道を踏み外さずに大人になってたら今ごろこんな感じだったのかな。それで俺にプロポーズしてくれたのなら、喜んで受けたのに。
「あの……どうかされましたか?」
清一郎さんの心配そうな声に我に返った。
「いえっ! なんでもありません!!」
笑ってごまかして、頭の中の誘をとっとと追い出す。
清一郎さんを前にして、誘なんか出る幕はない。
誘が恵まれた境遇をドブに捨て、ヘラヘラ笑って遊んでいる間、清一郎さんは堅実にキャリアを積んで社会的地位と高収入を得た。結婚するなら、どう考えても人間性が高い清一郎さんに決まってる。年上で甘えられるし、容姿だって誘に負けてないどころか、身なりが良い分、上を行ってる。
「では着席いたしましょう」
鶴矢さんに促され、窓辺の席に俺、その隣に鶴矢さん、俺の正面に清一郎さんが座った。ちなみに清一郎さんの担当アドバイザーの付き添いはなし。
緊張するぅぅ~。何を話せば良いんだ!?
どぎまぎしてるうちに、テーブルに三人分のコーヒーが並んだ。水面から湯気がフワフワと立ち昇っている。一口飲んでみたけど、味なんてまるで分からない。
「…………」
向かいに座る清一郎さんも黙ったままだ。俺の視線に気づくと、ニコ、と控えめに微笑んだ。頬が赤くて、清一郎さんも俺と同じで緊張してるみたい。
「本日はお天気に恵まれましたね。中庭の景色も緑が鮮やかです」
このままではいつまでも黙ってる俺たちのために、鶴矢さんから話を切り出してくれた。
「そういえば、雨宮様もゴルフがご趣味だとか。ちょうど透くんも始めたばかりで、こうしてお会いするまで、アプリの中で盛り上がったそうですね。どんな雰囲気か、私にも教えていただけませんか?」
さすが、お見合いに慣れているだけあって、絶妙なパス。それを受けて清一郎さんが話しだした。
「ええ。透くんとゴルフという共通の趣味があったのは幸いでした。少々ゴルフ歴の長い僕に透くんは上達したいと質問してくれて、そう大したアドバイスが出来るわけでもないのですが、いつも喜んで聞いてくれて……」
鶴矢さんがうんうんと真剣に聞いている。
「良く分かります。透くんは素直で色々と教えたくなってしまいますよね」
「ええ。僕で出来ることならなんでもしてあげたいなんて、一方的に熱が入ります……。そうだ透くん」
なんか照れちゃうなって思っていた俺に、清一郎さんが向きを変えた。
「次はラウンドをご一緒しませんか? やはり上達には実践が一番ですし、自然を楽しみながらじっくり教えて差し上げたいんです」
これって、次の約束。つまり清一郎さんは、俺と交際するつもりってことだよね!?
鶴矢さんが先に挨拶して、それから俺を紹介してくれた。緊張したけど、清一郎さんも俺を気に入ってくれたみたい。俺を見る目があからさまに輝いている。良かった、実物の俺を見て思ってたのと違うってガッカリされないか心配してたんだ。
「はじめまして。雨宮清一郎と申します。年齢は32、職業は雨宮総合法律事務所の弁護士兼、専務取締役です。どうぞよろしくお願いいたします」
「え、えと、木原透です。24歳で、化学メーカーで新素材の営業をしています」
「透くん」とすぐに清一郎さんは俺の名を呼んだ。
「ずっとお名前が知りたいと思っていたんです。イニシャルからたくさん想像していましたが、その中で一番ぴったりだと思います。先日はこちらの都合で申し訳ありませんでした。お会いできて光栄です」
透き通った声と落ち着いた話し方にさらに嬉しくなる。見るからに優しそうだし大人の男の色気もあって、まさに俺の理想の旦那様! 俺はこの人と結婚したい。鶴矢さんには色んな人に会うことを薦められたけどこれ以上の人がいるなんて考えられない!
────でも、……あれっ???
はたと気づいた。
いま雨宮って名乗らなかった???
「あの、清一郎さん……」
どうか聞き間違いであって欲しい。
「恐縮ですが、もう一度お名前を伺っても……?」
清一郎さんは笑って答えてくれた。
「はい。雨宮 清一郎です。雨宮総合法律事務所の専務取締役をしています」
「………………」
雨宮は、誘の名字。それに雨宮総合法律事務所といえば、日本最大手の法律事務所で──誘の実家だ。
誘はあれで御曹司で、俺が大学で初めて知り合ったときは、高級タワマンで外車付きの一人暮らし・最年少で司法試験に合格したときは眩しいくらい輝いていた。卒業後に家出して、今は見る影もないけど。
そういえば家業は従兄弟がかわりに引き継いだって聞いたような。なら、それがこの清一郎さん? たしかにあらためて見ると、立派な体格と甘い顔立ちが誘に似てる。
「──どうぞ受け取ってください」
呆然と立ち尽くす俺に、清一郎さんが淡いピンクのミニブーケを差し出した。
「ど、どうも」
花束をプレゼントされるなんて初めて。俺の手にちょうど収まったお花はとても可愛いくて良い匂いがする。
「よくお似合いです」
照れた微笑みに胸がキュンキュンする。けど、すぐに誘がダブって見えて複雑な気分……。
もしも誘が御曹司のまま、道を踏み外さずに大人になってたら今ごろこんな感じだったのかな。それで俺にプロポーズしてくれたのなら、喜んで受けたのに。
「あの……どうかされましたか?」
清一郎さんの心配そうな声に我に返った。
「いえっ! なんでもありません!!」
笑ってごまかして、頭の中の誘をとっとと追い出す。
清一郎さんを前にして、誘なんか出る幕はない。
誘が恵まれた境遇をドブに捨て、ヘラヘラ笑って遊んでいる間、清一郎さんは堅実にキャリアを積んで社会的地位と高収入を得た。結婚するなら、どう考えても人間性が高い清一郎さんに決まってる。年上で甘えられるし、容姿だって誘に負けてないどころか、身なりが良い分、上を行ってる。
「では着席いたしましょう」
鶴矢さんに促され、窓辺の席に俺、その隣に鶴矢さん、俺の正面に清一郎さんが座った。ちなみに清一郎さんの担当アドバイザーの付き添いはなし。
緊張するぅぅ~。何を話せば良いんだ!?
どぎまぎしてるうちに、テーブルに三人分のコーヒーが並んだ。水面から湯気がフワフワと立ち昇っている。一口飲んでみたけど、味なんてまるで分からない。
「…………」
向かいに座る清一郎さんも黙ったままだ。俺の視線に気づくと、ニコ、と控えめに微笑んだ。頬が赤くて、清一郎さんも俺と同じで緊張してるみたい。
「本日はお天気に恵まれましたね。中庭の景色も緑が鮮やかです」
このままではいつまでも黙ってる俺たちのために、鶴矢さんから話を切り出してくれた。
「そういえば、雨宮様もゴルフがご趣味だとか。ちょうど透くんも始めたばかりで、こうしてお会いするまで、アプリの中で盛り上がったそうですね。どんな雰囲気か、私にも教えていただけませんか?」
さすが、お見合いに慣れているだけあって、絶妙なパス。それを受けて清一郎さんが話しだした。
「ええ。透くんとゴルフという共通の趣味があったのは幸いでした。少々ゴルフ歴の長い僕に透くんは上達したいと質問してくれて、そう大したアドバイスが出来るわけでもないのですが、いつも喜んで聞いてくれて……」
鶴矢さんがうんうんと真剣に聞いている。
「良く分かります。透くんは素直で色々と教えたくなってしまいますよね」
「ええ。僕で出来ることならなんでもしてあげたいなんて、一方的に熱が入ります……。そうだ透くん」
なんか照れちゃうなって思っていた俺に、清一郎さんが向きを変えた。
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これって、次の約束。つまり清一郎さんは、俺と交際するつもりってことだよね!?
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