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本編
32
行きは素通りした滝の広場に出た。夏のシーズンだからか、天井からは水ではなくてミストが勢いよく放出されている。冷気と共にふんわりと広がる霧の雰囲気がいい。そして、そこに置かれた大きな球体の水槽が、実は気になっていた。
「ちょっとだけ見ていってもいいですか?」
清一郎さんにたずねる。
「もちろんです」
大荷物なのにも関わらず、颯爽と方向を変えてくれた。
ちょうどよく他に誰もいない。俺と清一朗さんは水槽の前に寄って中を覗いた。
ガラスに包まれた青い水の中で、無数の熱帯魚たちがすいすい泳いでいる。
「きれ~~い。まるでさっき見せて貰った宝石みたい!」
「ええ本当に。驚くほど輝いて見えます」
「あっ、あっちに大きい魚が……」
「どこでしょうか」
夢中で水槽の周囲を回る。清一郎さんも後ろを付いて来てくれる。しばらく二人並んで水槽の中を鑑賞した。
「透くん透くん」
俺の名を連呼する清一郎さん。振り向くと、ずいぶんキラキラした目をしている。
「この水槽のどこかに『見つけると恋が叶うハートのチャーム』が隠れてるそうですよ!」
「えっ!? どこだろう……」
散々みた水槽の中にもう一度目をこらす。でも広いし、前をお魚がどんどん横切るしで、そう簡単には見つからない。
たぶん誘なら、速攻で見つけるんだけど……。全然見つかんない。
気になるけど、遅くなると清一郎さんに申し訳ない。諦めようと思ったら、清一郎さんは俺より燃えていた。
「絶対見つけましょう!」
「……はい!」
ただのおまじないでも、二人で力をあわせて見つけたら、本当にご利益ありそう!
──しかし、全く見つからなかった。
「これは思わぬ難問ですね……」
清一郎さんが焦った顔をして必死に探していたが、その後、展示は八時までだと警備員さんに促され、俺たちは無念ながら、とぼとぼと広場を出た。
たかがおまじないとはいえ、縁起の悪い結末になっちゃったな。
「透くん、ごめんなさい。絶対に見つけるなんて言ったくせに不甲斐なくて……」
真面目な清一郎さんは責任を感じてしまってる。
「清一郎さんのせいじゃないですよ。もしかして、何かの間違いで最初から無かったのかも」
「いえきっと、僕のせい……」
肩を落とす清一郎さんに、「いいえ連帯責任ですよっ」
つい、そんな言葉が口をついて出た。
連帯責任は、墨谷さんの口ぐせのイヤミだ。
『木原の失敗は俺も連帯責任だ』
『木原のやり残しは連帯責任なので俺もやるしかない』
──一日に何度も言ってくるから、俺にまで移ったっぽい。
幸い、清一郎さんは前向きな意味に受け止めてくれたようだ。
「透くんと連帯責任なんて光栄ですっ!」
喜んでくれて良かったけど、あんな人のことを休日のデート中にまで思い出したせいで、俺は背筋に悪寒が走ってる。
「…………」
おかしいな。悪寒が引くどころか、どんどん増していく。ありえないけど、このゾクゾク感って、墨谷さんの雷が落ちる前の気配にそっくりなんですけど……。
「清一郎さん、俺もうお腹ペコペコです! 早く食事に行きましょう!」
いても立ってもいられず、清一郎さんの腕につかまった。
「えっ、ええ。長々と申し訳ありません。急ぎましょうね」
俺に急かされて、清一郎さんもハッとした顔で外へと向かう。
しかし、背後から聞き覚えのある靴音がどんどん近づいて──
「木原、貴様ッ!!」
怒号と共に、肩と腕を掴まれた俺は、力ずくで清一郎さんから引き剥がされ、訳も分からないまま硬いタイルの上に尻餅をついた。
「痛っぁぁ~~」
昨晩、誘に驚いてぶつけたばかりなのにまたかよ~。
地べたに倒れた俺に人影が重なる。思わず息を呑んだ。俺を見下ろすのは世にも恐ろしい般若……ではなく、鬼上司・墨谷 文人だった。
「ちょっとだけ見ていってもいいですか?」
清一郎さんにたずねる。
「もちろんです」
大荷物なのにも関わらず、颯爽と方向を変えてくれた。
ちょうどよく他に誰もいない。俺と清一朗さんは水槽の前に寄って中を覗いた。
ガラスに包まれた青い水の中で、無数の熱帯魚たちがすいすい泳いでいる。
「きれ~~い。まるでさっき見せて貰った宝石みたい!」
「ええ本当に。驚くほど輝いて見えます」
「あっ、あっちに大きい魚が……」
「どこでしょうか」
夢中で水槽の周囲を回る。清一郎さんも後ろを付いて来てくれる。しばらく二人並んで水槽の中を鑑賞した。
「透くん透くん」
俺の名を連呼する清一郎さん。振り向くと、ずいぶんキラキラした目をしている。
「この水槽のどこかに『見つけると恋が叶うハートのチャーム』が隠れてるそうですよ!」
「えっ!? どこだろう……」
散々みた水槽の中にもう一度目をこらす。でも広いし、前をお魚がどんどん横切るしで、そう簡単には見つからない。
たぶん誘なら、速攻で見つけるんだけど……。全然見つかんない。
気になるけど、遅くなると清一郎さんに申し訳ない。諦めようと思ったら、清一郎さんは俺より燃えていた。
「絶対見つけましょう!」
「……はい!」
ただのおまじないでも、二人で力をあわせて見つけたら、本当にご利益ありそう!
──しかし、全く見つからなかった。
「これは思わぬ難問ですね……」
清一郎さんが焦った顔をして必死に探していたが、その後、展示は八時までだと警備員さんに促され、俺たちは無念ながら、とぼとぼと広場を出た。
たかがおまじないとはいえ、縁起の悪い結末になっちゃったな。
「透くん、ごめんなさい。絶対に見つけるなんて言ったくせに不甲斐なくて……」
真面目な清一郎さんは責任を感じてしまってる。
「清一郎さんのせいじゃないですよ。もしかして、何かの間違いで最初から無かったのかも」
「いえきっと、僕のせい……」
肩を落とす清一郎さんに、「いいえ連帯責任ですよっ」
つい、そんな言葉が口をついて出た。
連帯責任は、墨谷さんの口ぐせのイヤミだ。
『木原の失敗は俺も連帯責任だ』
『木原のやり残しは連帯責任なので俺もやるしかない』
──一日に何度も言ってくるから、俺にまで移ったっぽい。
幸い、清一郎さんは前向きな意味に受け止めてくれたようだ。
「透くんと連帯責任なんて光栄ですっ!」
喜んでくれて良かったけど、あんな人のことを休日のデート中にまで思い出したせいで、俺は背筋に悪寒が走ってる。
「…………」
おかしいな。悪寒が引くどころか、どんどん増していく。ありえないけど、このゾクゾク感って、墨谷さんの雷が落ちる前の気配にそっくりなんですけど……。
「清一郎さん、俺もうお腹ペコペコです! 早く食事に行きましょう!」
いても立ってもいられず、清一郎さんの腕につかまった。
「えっ、ええ。長々と申し訳ありません。急ぎましょうね」
俺に急かされて、清一郎さんもハッとした顔で外へと向かう。
しかし、背後から聞き覚えのある靴音がどんどん近づいて──
「木原、貴様ッ!!」
怒号と共に、肩と腕を掴まれた俺は、力ずくで清一郎さんから引き剥がされ、訳も分からないまま硬いタイルの上に尻餅をついた。
「痛っぁぁ~~」
昨晩、誘に驚いてぶつけたばかりなのにまたかよ~。
地べたに倒れた俺に人影が重なる。思わず息を呑んだ。俺を見下ろすのは世にも恐ろしい般若……ではなく、鬼上司・墨谷 文人だった。
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