爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第213話 視察の旅 その17 サリル

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 街から元子爵領に向かうためには、二村の方に向かい、北の街道に入ることになる。僕とシェラ、シラーと自警団、さらにサリルを連れての旅となった。シラーの要望で僕も馬車に揺れながらの旅である。ゆっくりと流れる景色を見ながら、馬車は進んでいく。ちなみに、馬車は、六人程度が乗れるように設計されている。自警団以外は徒歩での移動となっているため、四人で座っている形だ。

 サリルは当初、自警団と共に徒歩での移動ということになっていたが、僕が馬車に乗るように指示をしたのだ。怪しい感じは拭えないが、一応はゴードンの代わりとして同行してもらっている以上、色々と話を聞く必要があるため、同じ空間にいることが望ましいのだ。そこで、元子爵領についての考えを聞くことにした。僕との距離が近い気もする。狭い馬車の中だからと諦めることにしたが、やはり落ち着かないな。それでも仕事の話となると、きっちりとこなすようだ。

 サリルは、元子爵領については情報が不足していることは拭えないとしながらも、状況の説明をしてくれた。元子爵領は、公国の一領土となっているが、実際は飛び地になっており物流の点から見て、孤立した場所である。北の街道は、名ばかりで人が二人横に並ぶことが出来るかどうかの道がずっと続いているだけのものだ。さらには、北の街道の途中の土地は公国の領土とは言えないため、物流の安全のために多くの兵を動員しなければならないという弊害がある。

 そのような不利な土地では、なるべく物資は独立採算することが望ましいということである。鉄や木材、食料に至るまでである。それを目標とする開発計画を立てるべきで、必要とあれば、街や二村から移住者を募り、北の土地に新天地を開拓する必要性もあるのではないか、ということだ。

 なるほど。サリルの言うことはもっともだ。たしかに今までの開拓地は大きな街道に沿っていたため物流を阻害するものが少なかったから、その地にあった開拓をしていればよかったが、元子爵領はそうはいかない。物流が制限される以上、生産の計画性が強く求められるわけか。まるで、最初の村のようだな。村にも何もなかった。外から物が入ってくるわけでもないから、すべてを村で賄わなければならなかったな。

 ふと思い、懐かしい気持ちに浸っているとサリルが必要以上に顔を近づけてきて、聞いてますか? とちょっと鼻息を荒くして聞いてきたのだ。

 「ああ、聞いてるぞ。さすがだな。それで、鉄や木材、食料を自給しなければならないという話はよく分かったが、具体的にはどういう事を進めようと思っているのだ?」

 「今分かっている範囲ですが……鉄ですが、元子爵領には鉄鉱山があるという話は聞いたことがありませんので、他に求める必要があります。これから向かう山奥の集落の周辺は鉱山が多数あるという話ですから、そこから調達することが現実的だと思っております」

 そうだな。普通に考えればそうなるが。

 「その場所は公国領ではないことは知っているな? 人も住んでいるかも知れない。その場合は、どうするつもりなのだ? 鉱山が生活の糧になっているかも知れないのだ。うまく採掘をさせてもらえるだろうか?」

 サリルは、それについては一切答えることはなかった。その辺りは自分の管轄ではないということなのだろう。自分の専門外は話さないということか。とりあえず、その場所で採掘の可能性を提示したに過ぎないのだろうな。
僕は次に木材について話を振った。これについては、簡単だった。

 「旧領都の東に広がる大森林を有効活用することがよろしいと思います。実際に、元子爵領は木材で有名な場所でしたから。木材が不足するということはないでしょう」

 最後が食料か。なにやら、サリルが興奮した面持ちで話し始めた。

 「食料については、ロッシュ公の前で言うことはありません。むしろ、私が教えていただきたいくらいですから。ロッシュ公の食料政策は本当に素晴らしいものです。一体、何人の人が救われたのでしょうか。私もその一人ですが、ロッシュ公の作り出した食料を口にした時の感動は今でも忘れることは出来ません。それ以降、私はロッシュ公をずっと尊敬していたのです。一緒に仕事がしたいと願っていたのですが、こんなにも早く叶うとは思ってもいませんでした」

 そうだったのか。サリルも餓えを経験したものの一人だったか。それならば、僕に何か思ってしまっても仕方がないかも知れない。しかし、それは空想に過ぎない。食料は、公国の民が寝食を惜しまずに労働した結果生み出されたものだ。それによって、餓えから救われるものが出てきているのだ。

 「サリル。僕を尊敬してくれるのは有り難いが、本来、尊敬されるべき対象は僕ではなく、公国の民たちなのだ。僕はその手助けをしているに過ぎないことを忘れないでくれ。僕は、民が公国を支え、民がそれぞれ助け合う、そんな公国にしていきたいのだ」

 こんなことを言えば、サリルは幻滅するかもしれない。しかし、それでいいのだ。僕に対する尊敬する心がなくとも、この公国にいたいと思う心さえ残ってくれれば、僕の目指す公国になっていくのだから。しかし、僕が思っていたのは逆で、サリルの興奮はさらに高まっていたのだ。

 「まさか、ロッシュ様の考えを直に聞くことが出来るとは。これ以上の幸福はありません。自らの権勢を誇らずにひたすら民の事を考える姿に感服致しました。まさに王の鏡です。この荒廃した世界を立て直した救世主であり、種族の壁を越えて餓えている人に手を差し伸べる人格者、圧倒的劣勢でありながら王国軍を度々破る英雄、そして、なんとも麗しい容姿。これほどを備えた王が今までいたでしょうか!! いや、いない。すみません、鼻血が出そうなので、外に出てきます。話の続きは後でお願いします」

 急に熱くなって、出ていってしまったぞ。これにはシェラも驚いていた。

 「すごかったですね。あんなに旦那様を称える人なんて初めて見ましたよ。救世主に人格者、英雄。どれもいい響きですね。旦那様にはピッタリの称号です。私が褒められているようで嬉しくなったんですよ。だけど、最後だけおかしかったですよね? いや、間違ってはないんですけど、おかしいですよね? 容姿は関係ないですよね。今の話には」

 僕も褒められて悪い気はしなかったが、最後は確かに気になった。どれも僕が関わった事への評価だ。それについては気持ちよく受け取ったが、麗しい容姿って……それは完全に私感だよね? 初めて、聞いたよ。そんな事。僕も自分の顔は整った容姿だと思うけど、英雄とかと並列するほどではないと思うんだ。うん、サリルは要注意だね。ゴードンの言っていた事がなんとなくだけど分かった気がするよ。

 僕はシェラとシラーにサリルが同行する間は、ベッドを共にすることを頼むとシラーは快く返事をしてくれたが、シェラは寝室で酒を飲むことを許可してくれたら、と交渉までしてきた。僕は次の日の事を考えて、寝室では酒を飲まないようにしていたのだ。それを前々から不満を漏らしていたのがミヤとシェラだ。今回は身の危険を感じることだから、形振り構ってはいられないな。今回の旅の間は、という条件を付けて了承することにした。

 だが、この判断が僕の予定を大きく狂わせる。これから長い旅が始まるのだが、一体何日まともに寝れるのだろうか。馬車は、山道に入り、時々大きな石を超えたのだろうか、大きな揺れを感じながら山奥に向かって進んでいったのだった。

 サリルを警戒しながら野営地で一泊してから、ほぼ寝ることなく、再度、北の街道を進んでいく。馬車の中でうたた寝をしていると、先行している斥候から集落を発見したという情報がもたらされたのだった。しかも、集落には人の影が見えたと言う。どうやら、噂は本当だったみたいだな。あとは噂通りの人がいるかどうかだな。どんな集落が広がっているのだろうか。
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