爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第215話 視察の旅 その19  モナスとの交渉

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 「それはもちろん、牛に決まっているじゃないか!!」

 モナスの一言は僕に衝撃を与えた。やはり、ここには牛がいるのか!! 僕の心の中の諦めかけていた希望の炎が再燃するのを感じざるを得なかった。僕が興奮している様を見て、純朴そうな顔をしたモナスがくすっと笑った。

 「やはり親子なんだな。父から聞いた話だけど、辺境伯は牛肉をかなり好んで食べていたみたいだな。人前は避けてたみたいだから、お忍びでよくこの地に来て、食べて帰っていたものだよ。いつも帰り際に大金を置いて帰るんだ。それがすごく印象的でよく覚えているよ」

 そうだったのか。父上がこの地に来ていたなんて、初めて知ることだな。牛好きというのも聞いたことがない。僕も産まれてから食べた記憶がないよな? しかし、牛肉とは人前を避けて食べなければならないものなのか?

 「私はそうは思わないけど、一度王宮に献上したことがあったんだが、その時の反応は酷いものだったらしい。なんでも、牛は不浄な生き物なんだとか。よくわからないけど、口に入れられることはなかったみたい。だけど、辺境伯だけは気に入ってくれたみたいよ。そういう意味では変わった人だったわね」

 牛にそんな印象があったなんて。意外だ。もしかして、ゴードン達も僕の前だから牛の話を合わせてくれたが、実は牛なんて見たくもなかったのかな? モナスの話を聞くと、そんなことを考えてしまうな。とりあえず、頭を切り替えて、モナスとの交渉をしなければ。ここに牛がいることは分かったが、目的は牛ではない。その飼育の技術者だ。なんとか、公国に招待したいものだが。

 「モナス。君に頼みがあるんだ」

 僕がそう言うと、モナスは分かっているという顔をして頷いてきた。

 「牛の飼育が出来るやつが欲しいって話だろ? それを応じるのも吝かではないけど、まずは公国という場所について教えてくれないか。それから判断したっていいだろ?」

 これは失態をしてしまったぞ。モナスの言う通りだ。向こうとしても、初めて聞く公国に疑念を抱くのはやむを得ないことだ。ただ、ここでは満足に話すこともできないだろう。ゆっくりと出来る場所に移動したほうがいいな。それには野営地に行ったほうがいいだろう。僕がモナスを誘うと、快く応じてくれた。しかし、倒れている男たちが気がかりだ。僕は、男たちに回復魔法を使って意識を回復させた。

 「お、おい。一体、何をしたんだ? まさか、魔法か? ロッシュはすごいやつなんだな」

 なんというか、すごく新鮮な感想だ。僕はただ、ありがとうと返すだけしかできなかった。男たちは意識を取り戻して、僕に襲いかかろうとしたが、シラーが軽く体を押さえ込んだだけで男は動けなくなった。その間にモナスが説得をしてくれていた。男たちは、未だに納得していない様子だったが、とりあえずはこちらに敵意を向けることはなくなった。

 皆を連れて、野営地を向かうと少し騒がしくなっていた。どうやら、僕の戻りが遅かったからみたいだ。自警団達が野営地から出てきて、知らない一行を見て、すぐに戦闘態勢を取り出した。モナスが連れている男たちも警戒の色を浮かべたが、僕が双方を止め、モナス達に危害を加えることを許さないと告げると、自警団はすぐに武器を収め、道を作るように左右に並び始めた。

 僕達はその間を進み、野営地の大きめのテントに入ることにした。ここは自警団の休憩所として使われている場所だ。そのため、飲み物が揃っているので長居するには丁度いい場所なのだ。サリルも呼び出し、モナスとの会談を始めることにした。

 僕はサリルに対して、モナスの紹介をして、公国の実情について簡単に説明するように命じた。すると、サリルはモナスに対して、自己紹介を始めて、説明が始まった。

 「私は、この一行では物流責任者代理を務めていますサリルと申します。ロッシュ公より公国の実情を、と仰せつかっておりますが、どのようなことを知りたいのでしょうか。答えられる範囲で全てお答えいたします」

 たしかにそうだ。公国と行っても村とラエルの街だけの小さな領土ではない。実情なんて説明していたら一日で説明するのは難しいだろうな。モナスはじっと僕の方を見てから、サリルの方を向いた。

 「簡単なことです。ロッシュは、牛の飼育が出来る者を欲しいと言っているが、どういう待遇なのかを知りたいのだ。それと何人まで受け入れが出来るんだ?」

 「お答えいたします。が、その前に、ロッシュ公と呼んで頂けませんか? 公国の主に対して、呼び捨ては不敬だと思うのですが」

 「モナス。サリルの言うことは気にするな。まだ、公国の民ではないのだ。その者に呼び名を強制するつもりはない。サリルも余計なことを言うな」

 僕の言葉にモナスはコクッと頷くだけだった。

 「大変失礼を致しました。話を続けさせてもらいます。待遇については、牛の飼育をして頂けるのでしたら、衣食住の提供を保証いたします。公国では基本的に労働に対して、衣食住を提供することになっていますから。もちろん、医療も受けられますし、休暇もありますよ。受け入れの上限については、今すぐとなると一万人が限度ですが、今年という時間があれば、十万人でも可能です」

 そのことを聞いて、モナスは目を輝かせていた。

 「怪しく思ってしまうくらい、すごい待遇だな。これなら村の奴らも文句は出まい。それにしても、一万とか十万人とかすこし風呂敷をでかくしすぎなんじゃないか? 別に私の前だからって、見栄を貼る必要はないんだぞ」

 「見栄などではありません。先日も五万人の移住者を受け入れたばかりですから。そのため、余力がなく一万人と申しましたが、春から秋にかけて作物の収穫が進めば、十万人でも受け入れは可能となります。それほど、公国は豊かですばらしいところなのです。そんな国を築かれたロッシュ公は、まさに当代の救世主と呼ばれるにふさわしいお方。私はこの方にお仕えできたことがどれほど嬉しいか……」

 なにやら話が大きく逸れ始めてきたので、僕はサリルの話を遮った。

 「サリルの言う待遇は間違いない。それは僕が保証しよう。それで、飼育の技術者を公国に呼びたいのだが、どうだろうか?」

 「その条件なら受けさせてもらいたいな。そこで相談なんだが」

 モナスの相談というのは、この地域、オーレック騎士爵領の住民全員の移住を認めてくれないか、ということだった。やはり、この地で暮らすのは困難で、しかも牛の餌となる牧草が育たなくなってきているというのだ。ここにも荒廃の波が押し寄せていたんだな。今は、牧草が確保できる場所に移動してなんとかやっているみたいだが、将来の保証もない以上、皆で移住することが望ましいと考えたことらしい。

 僕は頷き、働くことを条件にすると、子供以外なら、と応じてくれた。人数は五百人程度みたいだ。人数としては多くはないが、その代わり、牛が二千頭ほどいるらしい。これも公国の管理下に入れても構わないといってくれた。これはすごい宝を手に入れてしまったな。僕はつい表情を緩めてしまった。

 モナスとの会談によって、オーレック領の住民がすべて公国に属することとなった。それに伴い、このオーレック領も公国に含まれることとなった。モナスが言うには、オーレック領は面積だけなら王国でも上位に入るほどだが、その殆どは山に覆われており、人が住める場所と言えば、この盆地だけだと言う。その他の場所は未開の地で人が立ち入るのは困難を極めるらしい。今、モナス達が拠点にしている場所も人が住むのには適しているとは言えないが、牧草がそこしか栽培することが難しいので仕方なく住んでいるみたいだ。

 僕はその場所が少し気になっていたのだ。アウーディア石の恩恵がなくなった場所は、荒廃が徐々に進行していく。進行は場所によって様々だが、この場所がこれほど荒廃していて、然程離れていない場所だけ荒廃から免れているというは考えにくい。そうなると、考えられる可能性はアウーディア石の存在だ。もちろん、確実とは言えないが、探して見る価値はありそうだな。

 モナスは領民の説得するために、住んでいる場所に赴くと言うので、僕達も一緒に行くことにした。僕達も行った方が説得力が増すだろうと思ってのことだが、石の探索も当然行うつもりだ。見つかるといいが。
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