爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第241話 命名式

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 僕が視察の旅から戻ってきてからしばらくの時間が過ぎた。エリスの体調もかなり回復してきた。二人の子供も健やかな成長を見せている。そろそろ、皆に名前を公表してもいい頃合いだろう。といって、多分に儀式的なもので実際は屋敷にいる者たちは子どもたちの名前を当然知っている。僕が決めた名前は、男の子にはホムデュム、女の子にはサヤサと付けたのだ。僕としてはなんとなく付けた名前だったのだが、アウーディアの昔の言葉に似たような言葉が存在するらしく、草木にまつわる言葉らしいのだ。

 ただ、それを教えてくれたマグ姉もあまり詳しくは知らないみたいだったが、僕らしくていい名前だと褒めてくれた。エリスもそのことを知ったおかげかもしれないが、名前を気に入ってくれたみたいだ。皆も一様な反応だった。とりあえず、僕はホッとしたのを思い出していた。

 皆が名前を知っているとは言え、一応は儀式をやっておくのがいいだろう。僕としてはこの儀式を経て、子どもたちが正式に僕達の家族となると思っているからだ。僕は皆を集めた。これには、シェラとミヤも強制参加だ。皆を一同に集め、これから命名の儀式を行う、といってから用意していた紙を皆の前に差し出した。

 その紙は二枚あり、それぞれに子供の名前が記されている。実は僕は日本にいた頃、幼少から書道を嗜んでいたこともあり、字に関してはそれなりの自信があった。僕は皆の感嘆する声があがるのを期待して待っていたが、期待通りとはいかなかった。ぼそぼそと話し声が聞こえるだけで一向に僕に向かられる言葉がない。

 すると、エリスが僕に言葉をかけてきてくれた。僕はエリスの言葉を聞きたかったので、すぐに耳を傾けた。だが、様子が少し違ったのだ。なんというか、すごく遠慮している感じなんだよな。

 「ロッシュ様……すみませんが、読めません。多分、ホムデュムとサヤサの名前が書いてあると思うんですけど、こんな文字見たことがなくて」

 するとシェラが笑いながら、それは旦那様の前に住んでた世界の文字ですよ、と言ってくれた。僕は大きな過ちをしてしまった。つい、子供が生まれた興奮が冷めない状態で紙とペンを持って書いたものだから、日本語で書いていてしまったのだ。当然、読めるわけはないか。皆は僕の前の世界の文字を書いたと知ってから、興味深そうに文字を食いいるように見つめていた。ただ、ティアとシラーは取り残されていたが。この二人はまだ、僕の告白を受けていないから知らないのだ。僕が転生者であることを。

 とりあえず、僕は差し出した紙を皆の前から隠し、改めて書き直すと告げるとエリスがそれを止めに入ってきた。

 「ロッシュ様。せっかくですから、それを貰ってもいいですか? この世界にない意味のある貴重な文字なんですから、きっと子どもたちの宝物になるはずです。書き直してくださるなら、それも頂きたいですが、それも欲しいんです」

 そういうものだろうか? 僕は紙をエリスに渡し、子供の名前を皆の前で宣言して、命名式を終わらせることにした。それからこの世界の文字で書き直したものもエリスに渡した。エリスはそれらを大事そうに額にしまい込み、子どもたち用の部屋にそれらを飾ったのだった。いつしか、子どもたちが大きくなった時に、この知らない文字について説明する時が来るのだろうな。そんなことを思いながら、僕は額を眺めていた。

 僕は子供の世話を手伝いながら、執務をこなしていた。基本的には決済ばかりだったので、退屈な仕事ばかりだった。その中で面白かったのは、果樹についての報告だ。この村には試験的にブドウ・オレンジ・レモン・リンゴが植えられている。ハイエルフのリリから譲ってもらった種から栽培をしている。リリが言うには、長年エルフの里で栽培が試みられていたが一度も成功したことがないという曰く付きのものだったが、村で栽培してみたところ成功の兆しが見えていたのだ。しかし、僕が知っているのは視察に行く前の状態だ。それからについては全く知らなかった。

 実は気にはしていたのが、この寒い中で果樹が育つはずがないと思いこんでいたため、見に行くのはもう少し暖かくなってからにしてもいいだろうと思っていたのだ。しかし、報告が上がってきたのを見て、二度見してしまうほどだったのだ。

 これを知ったからには、実物を見なくては気がすまない。屋敷の裏の果樹園と化した場所に向かった。裏庭はまだ雪が多く残っているため、屋敷内の扉を開けて直接いくことが出来ないので、一旦玄関から表に出て回っていくしかないのだ。若干和らいだと言っても、まだまだ寒い。屋敷内が暖かいせいで薄着で外に出てしまったことを後悔しながら、裏に回っていく。

 すると、一面に信じられない光景が広がっていたのだ。僕が知っている果樹の苗ではなかった。すでに何年もそこに植えられたのではないか、と思わせるものだった。リンゴやオレンジ、レモンの幹は太く、空に向かって大きく伸びている。新芽が吹き始めている様子が見られ、この調子では春になると一斉に花が咲いてくれそうな感じがある。ただ、ブドウが若干厄介なことになっている。ブドウは蔓性の植物だ。僕はここまで成長することを見込んでいなかったので、誘引するための棚を用意していなかったのだ。そのため、ブドウは他の木々に身を寄せるかのようにしっかりと絡みつくように大きくなっていたのだ。

 これには困ったという表現しか言いようがない。とりあえず、収穫が終わってから考えなくてはならないな。しかし、報告の通りだったな。報告でも、村の果樹園に植えられた各々の果樹の生育状況が書かれており、どれも今年中に収穫可能な様子であることが書かれていたのだ。もちろん、ブドウについては果樹園の方はしっかりと棚が作られているので、屋敷裏のような状態にはなっていない。

 あとは、収穫を楽しみにしたいところだが、急激な成長をしていることが気がかりだ。そろそろ肥料をやらねばならないだろうな。ただ、そろそろ肥料について再び考え直さなければならないだろう。このところ、急激に農地拡大を進めてきた。しかし、問題となるのは肥料の不足だ。現状では、海由来の海産物を乾燥させ、粉末化しているものを中心に使用している。さらには、魔牛牧場で作られる魔牛由来の肥料と人由来の肥料が使われている。

 これらの肥料を組み合わせて、村では生産量を急激に伸ばすことが出来ていた。しかし、アウーディア石の効果により他の地域での土地の荒廃はなくなり、作付け可能な土地は大幅に拡大したが、多い収量を見込むためには肥料がどうしても必要となる。しかし、現地で調達できる肥料は限られているのだ。

 堆肥の生産量は今のところは足りている状態だが、今年の作付け面積を考えれば夏頃には枯渇してしまうだろう。海由来についても船の建造で漁獲量の増大が出来たとしても、とても間に合うものではない。肥料について早急に手を打たなければ、春の作物が十分に育たないばかりか、地力を急速に失いかねない。そうなれば、アウーディア石でもどうすることも出来ないのだ。

 そこで考えているのは、いわゆる化学肥料というやつだ。肥料成分のみを抽出し、成分を圧縮することで少量でも高い効果を期待することが出来、もっとも優れているのは物流に載せることが出来るという点だ。今は、とにかく肥料を遠くまで運ぶことが求められるのだ。僕は、その相談をするために屋敷から出たのだった。
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