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第345話 ドラゴンとの遭遇
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僕達はドラゴンと何か別なものがいると思われる天辺山の頂上に向かって、切り立った山を登っていっている。その間のトランの興奮は相当なものだった。
「私は最強の力を手に入れたのだ。ドラゴンをどのようにして屠ってやろうか……」
トランはまるで岩山に何かがいるかのように、一人岩山に話しかけていたのだった。きっと、憐れむような顔をトランに向けているのだろうな。未だにトマトジュースごときで、吸血鬼が先祖返りの力を手に入れられるとはとても思えない。そんなことが出来るのだった、シラーだって魔牛牧場の皆だって変身できてないとおかしいではないか。なんというか、変な勘違いを早く直してやらないと大変なことになるかも知れない……。
「トラン!!」
「ふっふっふっ。んん? おお、なんだ。ロッシュ君どうしたんだ? 今ちょうど、ドラゴンを倒し終えたんだが」
すでに妄想と現実の区別がつかなくなってきているのか?
「そ、そうか。楽しみのところ申しわけなかったな。ところでトマトジュースなんだが……」
「む? トマトジュースなどというな!! あれは吸血鬼の秘宝だ。もっと、カッコイイ言い方とかあるんじゃないか? 例えば、真紅の……なんとか、とか。とにかく、言い方を変えるんだ!! ドラゴンに勝ったら、秘宝の名前を叫びながら飲みたいのだ」
叫びながら飲んだら、むせるんじゃないだろうか? それはともかく、トランの思い込みはすでに病的なまでになってしまっている。真紅のなんたらって、真紅のトマトジュースで十分だろ。
「なあ。トラン。本当にトマトジュースにそんな効果があるのか? あまり思い込みすぎないほうがいいんじゃないか? 戦いに思い込みは危険だと思うんだが」
「笑止!! あれは間違いないものだ。戦いでも必ず役に立ってくれる。いや、逆にこう言っておこう。あれが戦いの役に立たなかったら、私達は致命的な惨敗を向かえることになるだろう。まぁ、ロッシュ君はそもそも戦いにならないことだけを願っておくといい」
「あっ!! それと魔の森のドラゴンには手を出すなよ」
「な、なにぃ!!」
トラン、すっかり戦う気になっていたな。念押しだけしておいて良かった。僕達はそれからもひたすら登り続けるとついに頂上が見え始めていた。頂上にはどうやら火口があるようだ。煙がもくもくと風に流されていく。遠目からも判別がつかなかったが、天辺山は火山だったのか。こころなしか、岩山の肌が温かいのような気がしないでもない。
「ロッシュ君。ついに頂上に辿り着く。もしかしたら戦闘になるかも知れない。わ、私は決して魔の森のドラゴンには手を出す気はないぞ。それでももしかしたら、向こうが襲ってくるかも知れないからな。だから頂上に付いたら、私の後ろにいてくれ。そうすれば何があっても初撃だけはロッシュ君を守ることが出来るからな。それからは適当で頼む」
言葉の端々からトランがドラゴンと積極的に戦闘したいという気持ちがありありと出ているな。しかし、ここまでくればトランの言うことに従っておいたほうがいいだろう。いざという時は、ミヤの名前を出せばトランの暴走を止めることも出来るだろうし。
「分かった。トランの指示に従おう。もう一度言うが、ドラゴンに攻撃は駄目だぞ」
「分かっているわ!!」
ついに僕達は頂上の縁に手を掛けることが出来た。頂上には広大な大地が広がっていた。とても山の頂上とは思えない。うっすらと霧がかかり、奥の方に何があるかよく見えない。ここからは慎重に行動しなければならないな。トランの後ろに控え、歩調を合わせて前進をしていく。横にはシラーがいてくれて、僕の左右を集中的に警戒をしている。
すると、静かだった空間が突如として様相を一変させた。こちらを威嚇するような強烈な鳴き声が襲ってきたのだ。まさに言葉通りで、その鳴き声だけで眷属の数名が転んでしまうほどのものだ。一種の恐慌状態だ。幸い、シラーも僕もなんともなかった。するとトランが急に止まり、目の前に立ちはだかった。
「来るぞ」
そういうと霧がかかった向こうの方からドスン、ドスンとこちらに何かが近づいてくるのが聞こえた。ついに出てきた。おそらく、これがドラゴンなのだろう。全身は漆黒のように黒く、鱗がびっしりと覆っている。二足歩行の爬虫類のトカゲやワニのような雰囲気を感じるが、存在感は全くの別物だ。背中には翼のようなものがある。
「トラン!!」
「ああ。間違いない。ドラゴンだ。しかも私が初めて魔界で戦ったドラゴンにそっくりだな」
ドラゴンはこちらを視認すると、再び強烈な鳴き声を放ってきた。鼓膜が震えると同時に足まで震えだしてしまい、つい膝を折ってしまった。
「ご主人様!! 大丈夫ですか!?」
「ああ、なんともないさ。しかし凄い声だな。とにかく、あのドラゴンの正体を突き止めなくては。魔の森のドラゴンなのかどうか。敵になるのかどうか」
「ロッシュ君。話しているところ済まないが、あのドラゴンはこちらに敵意を示している。いいか? 戦いが始まれば私は戦いに集中する。私達がドラゴンを押さえつけている間に君とシラーで奥に向かってくれ。きっと、別のドラゴンがいるはずだ。こんな禍々しいドラゴンが魔の森のドラゴンとは思えないからな。頼むぞ」
「大丈夫なのか!? トマトジュースは効かないぞ」
「まだ言うか。真紅のなんとかだ!! とにかく戦いが始まったら行くんだぞ」
そう言うやいなや、漆黒のドラゴンはトランに目をつけたのか真っ先にこちらに向かってきた。トランは眷属達に号令を出した。
「皆のもの、行くぞ!! 我らでドラゴンを屠ってくれよう」
そういうとトランは漆黒のドラゴンめがけて突撃を開始した。それに応戦するドラゴン。遠くだったから、はっきりと分からなかったがドラゴンは巨大だ。トラン達がなんとかドラゴンに張り付いたが……まるで存在感がない。それほど大きさに差があるのだ。本当に足止めできるのか? 僕も戦いに加わったほうが……そんなことを考えていると袖がぐいっと引っ張られた
「ご主人様。今のうちです。奥の方に向かいましょう」
「ああ、そうだな」
シラーと共に移動を開始した。すると、ドラゴンが僕達に背を向けるような姿勢になった。どうやらトランがそうなるように注意を逸してくれているみたいだ。僕達はなんとかドラゴンの死角に入り込むことが出来、なんなく戦線から離脱することに成功した。奥に向かっていくと、そこは別世界だった。先程は荒涼とした岩がむき出しだったのだが、このあたりは苔が生い茂り、足が潜るような感覚に襲われる。
歩きにくい場所をひたすら突き進むと、再び岩肌がむき出しの崖にぶつかった。霧で見えなかったが、更に上があるようだ。上を見上げたが何かあるという様子はない。きっと、この台地になにかあるはずだ。僕達は崖に対して左手を向けながら歩き続けた。苔は段々と濃くなってくる。ズブズブと歩く度に音がしてくるのだ。
すると突如として大きく窪んだ場所を発見した。これは一体……。
「ご主人様。先程のドラゴンの足跡ではないでしょうか」
確かに言われてみると足跡のように見えなくはないな。あまりにも巨大すぎるためにその考えを失念していた。そうなると、漆黒のドラゴンはこのあたりに居たことになるな。慎重に進んでいくと、遂にそれらしいものを発見した。そう崖に大きく開いている洞窟を発見したのだ。
カバンから松明を取り出し、洞窟の入り口で松明を灯した。松明では照らしきれないほど、洞窟には奥行きがあるようだ。とにかく慎重だ。シラーは常に左前を進んでくれる。洞窟の中は静まり返り、不気味だが……なぜか少し安心感を覚える感じがある。
洞窟内を進むと、ふいに足元から砂利を踏むような音が聞こえていた。地面の様子が変わったな。松明を地面に照らすと信じられない光景が広がっていた。なんと、真っ赤な細かな石がびっしりと敷き詰められていたのだ。僕は中の大きめなものを摘み、観察してみる。これは……魔石だ。いや、正確には魔石のかけらといった感じか。
「ご主人様。ついに見つけましたね。念願の魔石がこんなに大量に。噂は本当だったんですね」
確かに魔石を見つけることが出来た。そうなると、この洞窟は間違いなくドラゴンの住処だ。漆黒のドラゴンが魔の森のドラゴンでなければ、間違いなく奥にいる!! 足早に奥へと向かっていった。それを追いかけてくるシラー。なぜか知らないが、奥に早く行かなければならないという気持ちになったのだ。
発見した。
「ご主人様。一人で行ってしまっては駄目ですよ!! なにか、あったら……あ、あ、ド、ドラゴンが」
目の前にはドラゴンがいたのだ。先程のドラゴンとは対象的だ。姿形は瓜二つだが、肌は真っ白く、鱗も松明の光を当てると七色に輝くほど美しい。しかし、かなり弱っているな。ドラゴンの周りをぐるっと回るとその原因が分かった。腹や脚に大きな傷が出来、その傷口から大量の血が流れていた。このままではまずいな。
そう思っていると、どこからか声が聞こえてきた。シラーの声とも違う。
「そこにいるのは誰ですか? いいえ、誰でもいいのです!! どうか、私を助けてください!! そうしなければ魔の森が無くなってしまう」
なんだ、この声は。周囲を見渡してもその声の主はいない。
「ご主人様、一体どうなさったのですか?」
「シラーには聞こえなかったのか!?」
「何がですか?」
僕だけに聞こえた? 幻聴だったのか?
「いいえ。幻聴ではありません。どうやら貴方にしか聞こえないようですね。私は貴方の頭に直接話しかけているのです。どうか、お助けください!! もう命が長く持ちそうにありません」
「もしかして、目の前にいるドラゴンか!?」
「その通りです。いいですか? この山を下り、百キロメートルほど進んだところに湖があります。そこには夜だけ生えるムーン草というのがあります。それを取ってきてくれませんか。それがあれば、私の傷はたちどころに治るでしょう。急いでください」
「その前に……治したら魔石をもらってもいいのかな?」
「魔石? よく分かりませんが、お礼は何でもいたしますから、早くムーン草を」
言質は取ったぞ。ドラゴンに手を当て、回復魔法をかけた。ドラゴンの傷がみるみる塞がっていく。これで大丈夫だろう。そう思っていたが再び大きな傷が出来始めたのだ。しかも違う場所に。どういうことだ?
「回復魔法が使えるとは驚きましたが、無駄です。私はあの漆黒のドラゴンに呪いを受けてしまいましたから。ムーン草でその呪いを解かねばなりません」
ふむ。呪いか……ならば!! 僕はドラゴンに浄化魔法をかけた。
「えっ!? ……えっ!?」
特に変化はなかったが、これで回復魔法を……。すると、今度は綺麗に傷が塞がってくれた。
「信じられません。まさか浄化魔法まで使えるとは。貴方は神に連なるものですか? しかし、本当に助かりました。貴方がいなければ、この魔の森は死に絶えていたでしょう」
「それは良かったな。僕としても魔の森のドラゴンがいなくなってしまうのは困るからな。一応、言っておくが回復魔法では失われた血や体力は回復することはない。安静にしておくんだぞ」
「おお。私にそのような事を言う者がこの世界にいたとは。心配されるとは少し嬉しいものですね。しかし、心配は無用です。私の体には魔素が直接流れているのです。この山は魔素の龍脈の中心。自然と回復しますから安心してください」
とりあえず、目的は達成だ。魔石を手に入れ、あとは漆黒のドラゴンをなんとかするのみだ。トラン達は無事だろうか?
「私は最強の力を手に入れたのだ。ドラゴンをどのようにして屠ってやろうか……」
トランはまるで岩山に何かがいるかのように、一人岩山に話しかけていたのだった。きっと、憐れむような顔をトランに向けているのだろうな。未だにトマトジュースごときで、吸血鬼が先祖返りの力を手に入れられるとはとても思えない。そんなことが出来るのだった、シラーだって魔牛牧場の皆だって変身できてないとおかしいではないか。なんというか、変な勘違いを早く直してやらないと大変なことになるかも知れない……。
「トラン!!」
「ふっふっふっ。んん? おお、なんだ。ロッシュ君どうしたんだ? 今ちょうど、ドラゴンを倒し終えたんだが」
すでに妄想と現実の区別がつかなくなってきているのか?
「そ、そうか。楽しみのところ申しわけなかったな。ところでトマトジュースなんだが……」
「む? トマトジュースなどというな!! あれは吸血鬼の秘宝だ。もっと、カッコイイ言い方とかあるんじゃないか? 例えば、真紅の……なんとか、とか。とにかく、言い方を変えるんだ!! ドラゴンに勝ったら、秘宝の名前を叫びながら飲みたいのだ」
叫びながら飲んだら、むせるんじゃないだろうか? それはともかく、トランの思い込みはすでに病的なまでになってしまっている。真紅のなんたらって、真紅のトマトジュースで十分だろ。
「なあ。トラン。本当にトマトジュースにそんな効果があるのか? あまり思い込みすぎないほうがいいんじゃないか? 戦いに思い込みは危険だと思うんだが」
「笑止!! あれは間違いないものだ。戦いでも必ず役に立ってくれる。いや、逆にこう言っておこう。あれが戦いの役に立たなかったら、私達は致命的な惨敗を向かえることになるだろう。まぁ、ロッシュ君はそもそも戦いにならないことだけを願っておくといい」
「あっ!! それと魔の森のドラゴンには手を出すなよ」
「な、なにぃ!!」
トラン、すっかり戦う気になっていたな。念押しだけしておいて良かった。僕達はそれからもひたすら登り続けるとついに頂上が見え始めていた。頂上にはどうやら火口があるようだ。煙がもくもくと風に流されていく。遠目からも判別がつかなかったが、天辺山は火山だったのか。こころなしか、岩山の肌が温かいのような気がしないでもない。
「ロッシュ君。ついに頂上に辿り着く。もしかしたら戦闘になるかも知れない。わ、私は決して魔の森のドラゴンには手を出す気はないぞ。それでももしかしたら、向こうが襲ってくるかも知れないからな。だから頂上に付いたら、私の後ろにいてくれ。そうすれば何があっても初撃だけはロッシュ君を守ることが出来るからな。それからは適当で頼む」
言葉の端々からトランがドラゴンと積極的に戦闘したいという気持ちがありありと出ているな。しかし、ここまでくればトランの言うことに従っておいたほうがいいだろう。いざという時は、ミヤの名前を出せばトランの暴走を止めることも出来るだろうし。
「分かった。トランの指示に従おう。もう一度言うが、ドラゴンに攻撃は駄目だぞ」
「分かっているわ!!」
ついに僕達は頂上の縁に手を掛けることが出来た。頂上には広大な大地が広がっていた。とても山の頂上とは思えない。うっすらと霧がかかり、奥の方に何があるかよく見えない。ここからは慎重に行動しなければならないな。トランの後ろに控え、歩調を合わせて前進をしていく。横にはシラーがいてくれて、僕の左右を集中的に警戒をしている。
すると、静かだった空間が突如として様相を一変させた。こちらを威嚇するような強烈な鳴き声が襲ってきたのだ。まさに言葉通りで、その鳴き声だけで眷属の数名が転んでしまうほどのものだ。一種の恐慌状態だ。幸い、シラーも僕もなんともなかった。するとトランが急に止まり、目の前に立ちはだかった。
「来るぞ」
そういうと霧がかかった向こうの方からドスン、ドスンとこちらに何かが近づいてくるのが聞こえた。ついに出てきた。おそらく、これがドラゴンなのだろう。全身は漆黒のように黒く、鱗がびっしりと覆っている。二足歩行の爬虫類のトカゲやワニのような雰囲気を感じるが、存在感は全くの別物だ。背中には翼のようなものがある。
「トラン!!」
「ああ。間違いない。ドラゴンだ。しかも私が初めて魔界で戦ったドラゴンにそっくりだな」
ドラゴンはこちらを視認すると、再び強烈な鳴き声を放ってきた。鼓膜が震えると同時に足まで震えだしてしまい、つい膝を折ってしまった。
「ご主人様!! 大丈夫ですか!?」
「ああ、なんともないさ。しかし凄い声だな。とにかく、あのドラゴンの正体を突き止めなくては。魔の森のドラゴンなのかどうか。敵になるのかどうか」
「ロッシュ君。話しているところ済まないが、あのドラゴンはこちらに敵意を示している。いいか? 戦いが始まれば私は戦いに集中する。私達がドラゴンを押さえつけている間に君とシラーで奥に向かってくれ。きっと、別のドラゴンがいるはずだ。こんな禍々しいドラゴンが魔の森のドラゴンとは思えないからな。頼むぞ」
「大丈夫なのか!? トマトジュースは効かないぞ」
「まだ言うか。真紅のなんとかだ!! とにかく戦いが始まったら行くんだぞ」
そう言うやいなや、漆黒のドラゴンはトランに目をつけたのか真っ先にこちらに向かってきた。トランは眷属達に号令を出した。
「皆のもの、行くぞ!! 我らでドラゴンを屠ってくれよう」
そういうとトランは漆黒のドラゴンめがけて突撃を開始した。それに応戦するドラゴン。遠くだったから、はっきりと分からなかったがドラゴンは巨大だ。トラン達がなんとかドラゴンに張り付いたが……まるで存在感がない。それほど大きさに差があるのだ。本当に足止めできるのか? 僕も戦いに加わったほうが……そんなことを考えていると袖がぐいっと引っ張られた
「ご主人様。今のうちです。奥の方に向かいましょう」
「ああ、そうだな」
シラーと共に移動を開始した。すると、ドラゴンが僕達に背を向けるような姿勢になった。どうやらトランがそうなるように注意を逸してくれているみたいだ。僕達はなんとかドラゴンの死角に入り込むことが出来、なんなく戦線から離脱することに成功した。奥に向かっていくと、そこは別世界だった。先程は荒涼とした岩がむき出しだったのだが、このあたりは苔が生い茂り、足が潜るような感覚に襲われる。
歩きにくい場所をひたすら突き進むと、再び岩肌がむき出しの崖にぶつかった。霧で見えなかったが、更に上があるようだ。上を見上げたが何かあるという様子はない。きっと、この台地になにかあるはずだ。僕達は崖に対して左手を向けながら歩き続けた。苔は段々と濃くなってくる。ズブズブと歩く度に音がしてくるのだ。
すると突如として大きく窪んだ場所を発見した。これは一体……。
「ご主人様。先程のドラゴンの足跡ではないでしょうか」
確かに言われてみると足跡のように見えなくはないな。あまりにも巨大すぎるためにその考えを失念していた。そうなると、漆黒のドラゴンはこのあたりに居たことになるな。慎重に進んでいくと、遂にそれらしいものを発見した。そう崖に大きく開いている洞窟を発見したのだ。
カバンから松明を取り出し、洞窟の入り口で松明を灯した。松明では照らしきれないほど、洞窟には奥行きがあるようだ。とにかく慎重だ。シラーは常に左前を進んでくれる。洞窟の中は静まり返り、不気味だが……なぜか少し安心感を覚える感じがある。
洞窟内を進むと、ふいに足元から砂利を踏むような音が聞こえていた。地面の様子が変わったな。松明を地面に照らすと信じられない光景が広がっていた。なんと、真っ赤な細かな石がびっしりと敷き詰められていたのだ。僕は中の大きめなものを摘み、観察してみる。これは……魔石だ。いや、正確には魔石のかけらといった感じか。
「ご主人様。ついに見つけましたね。念願の魔石がこんなに大量に。噂は本当だったんですね」
確かに魔石を見つけることが出来た。そうなると、この洞窟は間違いなくドラゴンの住処だ。漆黒のドラゴンが魔の森のドラゴンでなければ、間違いなく奥にいる!! 足早に奥へと向かっていった。それを追いかけてくるシラー。なぜか知らないが、奥に早く行かなければならないという気持ちになったのだ。
発見した。
「ご主人様。一人で行ってしまっては駄目ですよ!! なにか、あったら……あ、あ、ド、ドラゴンが」
目の前にはドラゴンがいたのだ。先程のドラゴンとは対象的だ。姿形は瓜二つだが、肌は真っ白く、鱗も松明の光を当てると七色に輝くほど美しい。しかし、かなり弱っているな。ドラゴンの周りをぐるっと回るとその原因が分かった。腹や脚に大きな傷が出来、その傷口から大量の血が流れていた。このままではまずいな。
そう思っていると、どこからか声が聞こえてきた。シラーの声とも違う。
「そこにいるのは誰ですか? いいえ、誰でもいいのです!! どうか、私を助けてください!! そうしなければ魔の森が無くなってしまう」
なんだ、この声は。周囲を見渡してもその声の主はいない。
「ご主人様、一体どうなさったのですか?」
「シラーには聞こえなかったのか!?」
「何がですか?」
僕だけに聞こえた? 幻聴だったのか?
「いいえ。幻聴ではありません。どうやら貴方にしか聞こえないようですね。私は貴方の頭に直接話しかけているのです。どうか、お助けください!! もう命が長く持ちそうにありません」
「もしかして、目の前にいるドラゴンか!?」
「その通りです。いいですか? この山を下り、百キロメートルほど進んだところに湖があります。そこには夜だけ生えるムーン草というのがあります。それを取ってきてくれませんか。それがあれば、私の傷はたちどころに治るでしょう。急いでください」
「その前に……治したら魔石をもらってもいいのかな?」
「魔石? よく分かりませんが、お礼は何でもいたしますから、早くムーン草を」
言質は取ったぞ。ドラゴンに手を当て、回復魔法をかけた。ドラゴンの傷がみるみる塞がっていく。これで大丈夫だろう。そう思っていたが再び大きな傷が出来始めたのだ。しかも違う場所に。どういうことだ?
「回復魔法が使えるとは驚きましたが、無駄です。私はあの漆黒のドラゴンに呪いを受けてしまいましたから。ムーン草でその呪いを解かねばなりません」
ふむ。呪いか……ならば!! 僕はドラゴンに浄化魔法をかけた。
「えっ!? ……えっ!?」
特に変化はなかったが、これで回復魔法を……。すると、今度は綺麗に傷が塞がってくれた。
「信じられません。まさか浄化魔法まで使えるとは。貴方は神に連なるものですか? しかし、本当に助かりました。貴方がいなければ、この魔の森は死に絶えていたでしょう」
「それは良かったな。僕としても魔の森のドラゴンがいなくなってしまうのは困るからな。一応、言っておくが回復魔法では失われた血や体力は回復することはない。安静にしておくんだぞ」
「おお。私にそのような事を言う者がこの世界にいたとは。心配されるとは少し嬉しいものですね。しかし、心配は無用です。私の体には魔素が直接流れているのです。この山は魔素の龍脈の中心。自然と回復しますから安心してください」
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