爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第368話 食料問題

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 材木都市を攻略した僕達はすぐに都市を占拠し、食料庫を接収しようと考えていた。材木都市はレントーク王国の全ての食料が備蓄されている場所であり、王国との取引が長かったこともあり十分な備蓄があると予測されていた。七家軍のアロン将軍もそのように考えて、都市攻略を立案してきたのだ。しかし、実際に攻略してみると食料庫は空で、どこを探しても少しの食料も出てくることはなかった。

「アロン。これは一体どういうことだ? 話が違うようだが?」

「ロッシュ公。私としても、ここの食料が空だとは思ってもいませんでした。ここの管轄は王家が行なっており、七家でも実態を把握することが難しい場所なのです。しかし、ここに備蓄することは何百年も変わらなかったことですから、その慣習が最近になって変わったとは思えないのです。だとすると……」

「王国が持ち去ったということか?」
 
「おそらくは、その可能性が一番高いかと。どの軍も食料調達が一番の問題ですから。我々の行動が遅かったのでしょう。思えば、王国軍はレントーク王国に入ってすぐに材木都市を占拠したのですから目的は食料と思うべきでした」

 困ったな。今更、ないものが出てくるわけではないし。食料が王都にあると踏んで、一気に攻め込んでも勝ち目があるかどうか。食料が豊富な王国軍相手では、食料が乏しい公国・七家連合軍に勝ち目を求めるのは厳しいだろうな。ニードとガモンを呼び出した。

「両者とも、話は聞いたか? 当てにしていた食料がないが、公国軍の食糧事情はどうなっているんだ?」

 これに対して答えるのは当然、イハサ副官だ。

「イルス公。状況としてはかなり逼迫していると考えたほうがいいようです。我らが持ってきた食料は二月分程度です。現在はその半分くらいしか残っておりません。しかし問題は七家軍の方なのです。アロン将軍、よろしいですか?」

 アロン将軍は気まずい表情を浮かべながら頷いた。

「七家軍の食料はほとんど底をついている状態です。材木都市攻略は七家軍が存続できるか否かの分水嶺だったわけです。今回は攻略には成功しましたが、内容としては失敗です。作戦の方向転換が必要となってきますが、公国軍の食料備蓄を七家軍と共有するにしても一週間程度しか持ちません。それまでに雌雄を決するとなると……正直、厳しいかと。撤退も視野に入れるべきかも知れません」

 これほどの大勝を収めていながら、撤退だと!? 食料ならば僕の得意分野ではなかったか? 何か方法があるはずだ。周りには豊かな土壌が広がっているのだ!! 半年もあれば数年は食べれるだけの食料など簡単に作れるものを。一週間で、か。無理だな。考えられるのは、もやし程度だ。飢えて死ぬことがなくても、とても戦争を継続することなど不可能だ。

「ガモン。山から食料を調達する方法は? 何か無いか?」

「ロッシュ公……それは難しいかと。七家軍と公国軍だけでも十三万人いるんです。それに七家領の領民も。それらを合わせた人数の食糧を森だけで調達するのは難しいですね。一応、やるだけやってみますが……精々、数千人分くらいしか」

 数千人分か……無いよりはマシだが。残された猶予は一週間か。それまでに考えを決めなければ。するとアロンが僕に頭を下げ始めた。

「申しわけありません!! 調べをもっとしておけば、このような事態に。この作戦のために多くの時間を割きました。わかっていれば、違った作戦も立てられたでしょう。これもすべて私の責任です。何なりと責めを負います。ただ、どうか我らを見捨てないでください。公国……いえ、ロッシュ公がこの地を去れば我らは王国に蹂躙され、亜人は永遠に奴隷という身分で暮らすことになるでしょう。どうか……」

 アロンの願いは切実なものだった。七家領よりも亜人の事を考えているとはな。なんとかしてやりたいが……。

「イハサ。王国の動きはどうだろうか?」

「そうですね。今回は王国の主力ではないでしょうから、多少の混乱が起きているという状態でしょう。それでも立て直しには然程の時間はかからないでしょうから、やはり一週間程度したら七家領への侵攻は開始されるでしょう。一週間後、我らが食料の問題を解決できなければ、全滅の危機にされされる危険性も十分にあります。アロン将軍の願いは私も感じるものがありますが……どうか冷静な判断を」

 さて、どうしたものか。とにかく食料を作らなくてはならない。一週間で……僕はひとつだけ、思いつくことがある。ただ、これをやればその土地は一瞬で荒廃してしまう禁じ手のような方法だ。

「アロン。実はひとつだけ方法がある。一週間か十日か、それくらいで大量の食料を手に入れることが出来る。しかし、これをやれば土地が一気に痩せてしまい、その後百年は草木一本は生えないかも知れない。この地は僕の領土ではない。好き勝手やるのは性分ではないからな。アロンか、サルーンの許可が欲しいのだ」

「ロッシュ公!! そ、それは本当なのですか!? そんな方法が実在するなんて……分かりました。どのような方法かは存じませんが、それで食料が手に入るのならば……全ての責任は私が負います。どうか、よろしくお願いします」

「アロン。そんなに畏まらないでくれ。ただ僕は食料の種を持ち合わせていない。君たちの食料は一体何を食べているんだ? その種をいくつか分けてもらいのだが」

「我々の食料ですか? それならば、すぐにご用意しましょう」

 アロンはすぐにその場を離れ、部下と共に大きな袋を持ってきた。

「持ってまいりました。我々が食している物はこれになります」

 どれどれ……僕は大袋の紐を緩め、中を確認した。そこには芋が大量に入っていた。手に取り、まじまじと芋を見た。これは……サツマイモではないだろうか? アロンに顔を向けると、少し恥ずかしそうに顔を掻き始めた。

「我らは昔から農業がヘタでして……その芋ならば、我らでも簡単に作ることが出来たので以来、我らの主食になったのです。お恥ずかしい限りですが、それがレントーク王国の実情なのです」

 どうやらサツマイモを食べていることを恥じているようだが、この局面でこれが見つかるとは……素晴らしいな。これ以上の食料を手に入れるのが難しいくらいだぞ。

「アロン!! これで……この芋で我々は救われるかも知れない!! よし、さっそく準備にかかるぞ」

 ひとまず拠点に戻ることにした。農地はその辺りを中心に広げるつもりだ。七家軍には材木都市の後始末を頼み、公国軍には農業をしてもらうことにした。今回は時間がないため、殆どを魔法だよりだ。こればかりは仕方がないだろう。

 シラーとルードを呼び出し、二人にはとにかく大規模な畑を作ってもらうことにした。僕はサツマイモの苗を採ることに専念する。公国軍も全員出動だ。

 まずは芋苗を作るところから始める。芋を土に植え、芽出ししたものを採取するだけの簡単なものだ。本来であれば一月以上前から準備をしなければならないが、そんな時間はない。とにかくもらったサツマイモを植えていく。ただ、これだけでは芽など出るわけがない。僕はカバンから一つの瓶を取り出した。これが今回の秘策の物だ。

 アウーディア石の粉末から作り出した土壌復活剤だ。元は枯れた土地を復活させるために使う予定だったが、調べると成長を著しく早めることが分かったのだ。ただ、その分土壌の養分を急激に吸い取るという欠点があったのだが。今回は欠点には目をつぶるしかない。

 芋を埋めた場所に土壌復活剤を与えると、どうだろう。瞬く間に目が吹き出し始めたぞ。尋常じゃない速度だ。僕は公国軍総出で芋苗の採取を始めてもらった。しかし、それでも間に合いそうにない……それならば。僕は一旦公国軍を退かせ、風魔法で芋苗を芋から分離していく。

 何度も何度も、風魔法を使いどんどん芋苗が積み上がっていく。たった一時間程度で芋は力尽きたように芽が出なくなった。僕も風魔法を何度も使ったせいで多少息が切れる。

「皆のもの。芋苗を集め、畑に植えにいくぞ!!」

 公国は農業に特化した国家だ。畑作業は公国軍の者たちもお手の物なのだ。すぐに作業が始められると、滞りなく苗が回収され、シラーとルードが開墾している畑に持ち込まれた。だが、畑の準備は一割程度といった状態だ……ちょっと張り切りすぎたか。

 畑作りを手伝い、なんとか広大な芋畑を作ることに成功した。さて、どうなることやら。カバンに入っているありったけの土壌復活剤を投与した。

 ……サツマイモは瞬く間に草を生い茂らせ始めた。この調子ならば予定よりも早く収穫が出来るかも知れないな。あとは果報は寝て待てだ。数日後、材木都市の後処理を終わらせたアロンが拠点にやってきた。そのときのアロンの様子は忘れられない。

「ロッシュ公。私は夢でも見ているのでしょうか? 森しかなかった場所にこれだけ広大な芋畑が出現するとは……あれ? もう地上部は枯れ初めていませんか? えっ!? 収穫を向かえるのですか? まだ、三日しか経ってないですよ? おかしいなぁ……これ、絶対おかしいですよ」

 おかしいのはアロンだと思うぞ。うん。まだ早いから掘ろうとするのは止めて欲しい。部下にアロンを羽交い締めするように命じ、なんとか畑を守ることが出来た。冷静になったアロンを含めて、拠点で作戦会議をすることになった。

「まずは食料の目途は立ちそうだ。これだけの芋があれば……今から芋だけ食べることを考えると嫌になるな。まぁわがままは言ってはいられないが……公国軍、七家軍、七家領民を合わせても数カ月は食べていけるだろう」

「数カ月ですと!? こんな短期間で。ただ、ロッシュ公。思いの外、土地が痩せていないように見えましたが。何か秘策でも?」

「秘策も何もない。もともとあの芋は養分を食わないのだ。枯れた土地でも作れる優秀な作物だ。それゆえ土地への負担は少なかったのだろう。これ以上最適な作物がない理由がわかったであろう?」

「さすがはロッシュ公ですな。私の想像以上のお方です。いや、私の想像では計り知ることは出来ない。とにかく、礼を申します。これで七家領は救われます。ありがとうございました」

 たしかに食料問題は解決されただろう。サツマイモばかり食べるのは嫌だけど。しかし、食料問題は軍を維持するための前提条件だ。これを解決しても戦争に負けては意味がない。それに敵は眼前に迫る勢いだ。早く手を打たなければ。

 作戦会議を始めようとしていると、一人の男が会議室として使っているテントに入ってきた。緊急の要件のようだ。ん? この男は……僕が乗っていた船の船乗りだ。なぜ、ここにいるんだ? その男から手紙を受け取った。内容を見ると、それは海軍将軍ガムドからだった。

 ふむふむ……何⁉

「皆のもの。朗報だ。このタイミングか、という気分だが。どうやら公国海軍は王国海域を完全に掌握したようだ。それゆえ食料運搬が可能となり、レントーク王国南方の離れ島を接収し、すでに大規模な倉庫と大量の食料の備蓄を開始したようだ。それゆえ、船を離れ島に寄越してほしいという手紙だ。これで本当の意味で食料問題は解決だな」

 どうやら公国海軍が海路を移動している時に、王国軍からの攻撃を受けたようだ。それが何故かはわからないがガムドは好機と捉え、完膚なきまでに王国海軍を潰してしまったようだ。知らない間に歴史に残る海戦が行われていたようだ。アロンは僕からの言葉に涙が止まらないようだ。

「なんと素晴らしい国なのでしょうか。私は是非、サルーン様に直訴し公国の傘下に……」

 なにやら不穏なことを言い出しそうだな。

「アロン!! 今は目の前の戦争に集中してくれ」

「失礼しました……どうかしていたようです。如何でしょうか、作戦は七家領に戻ってからにしては。材木都市攻略と食料についての報告もしなければなりませんし」

 ふむ。それがよさそうだ。ガムドが言う離れ島に船を派遣せねばならないしな。それにしてもサツマイモ暮らしにならなくて良かった。絶対、ミヤかシェラあたりが爆発していただろうな。少ない供周りで七家領に向かうことにした。公国軍にはサツマイモ収穫という大仕事があるからな。
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