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第376話 決戦前、砦へ
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遠目にもまだ王国軍の姿は見えない。斥候からもまだ連絡が来ない。意外と進軍が遅いのか? 改めて地形を見てみよう。場所は王国とレントークの国境にあり、陸地がくびれたようなところだ。もっとも短い場所だと十キロメートルほどしかいない。北は大海につながり、風は常に北から吹いている。南はちょうと湾のようになっているため、波は常に穏やかだ。南北とも海岸線が広がり、水深は浅めだ。そのため、南に展開する軍艦が陸地すれすれに停泊するのは難しそうだ。
砦はまさに王国とレントーク王都を結ぶ唯一の街道上に鎮座している。砦を通過せずに王都に向かうためには、北部の大部分を占める大森林を通過しなければならない。南には険峻な山が広がり未だに踏破されていないため、大軍での移動はほぼ不可能に近い。砦を改修する際に考えなければならないのは、砦の防御力はもちろんだが、なるべく砦に取り付かれないような工夫が必要となる。
さらに、北の大森林を迂回して、こちらの背後に回られることを警戒する必要がある。できれば大森林に兵を入れておきたいが、今の戦力で大森林に兵を配置することは不可能に近い。ただ、こちらも人が立ち入ることがない森のため大軍での移動は難しく、精々少数での移動というのが限界だろう。王国の主力は従来の武器だ。剣、槍、弓、それに騎馬隊だ。クロスボウも導入されているが、七家領攻防の際の王国兵たちが装備していたクロスボウはとても粗末で、精度も低く実戦に導入したのが不思議なほどだ。
もっとも王国の製鉄技術が素晴らしいのか、鏃《やじり》は凶悪で通常のものに比べて貫通力が格段に上がっており、殺傷能力が高いのが特徴だ。攻防戦で使われた鏃の回収を頼み、今回の一戦で使うつもりだ。
するとライルが側に寄ってきた。あまりいい表情をしていないところを見るといい話ではなさそうだな。
「ロッシュ公。兵の士気が上がらないんだ。やはり外国の地を守るってことに抵抗があるようだな。なにか、いい考えはないか? このまま戦争に突入しても、いい勝負にならないぞ」
ふむ。士気が上がらないか……一番わかりやすい物が報奨を出すことだな。
「報奨を出そう。彼らの士気が高まりそうな物を考えてくれないか?」
「報奨か。物で釣るならもっと簡単な方法がある。酒を出してやればいい。やつら、それだけで満足するだろうよ。ただ、この地には満足するようなものがないんだ。」
酒? 酒を飲むだけで士気が上がるのか? ライルの目は本気のようだ。それならば……カバンからありったけの酒を取り出した。
「おおっ!! すげえカバンだと思っていたが、これほどの量を入れることが出来るなんてな。これだけあれば、兵士に配ることが出来るだろう。いや、助かった。これで士気も一気に上がること間違いなしだぜ」
ライルは部下に指図して、酒樽を運んでいった。それからしばらくしてから、遠くから歓声のような声が聞こえてきた。ただ、横にいるミヤが不機嫌な顔に変わっていた。ミヤだけではない、酒豪を語るにふさわしい吸血鬼の面々もだ。口々に、私達の命の水が人間に盗られた、とか言っているけど渡しただけだからね。
「ロッシュ。どうやら私達を敵に回したいようね。あの酒は私達をここに留まらせておく最低条件だったわ」
「ミヤ……一体、何年の付き合いだと思っているのだ? それを見抜けない僕ではないぞ!!」
カバンから酒樽と取り出した。しかも、大量に。
「えっ!? だって、さっき全部出したって……」
「魔酒には手を付けていなかったんだ。あの酒は酒精が強すぎるし、魔族以外にはそれほど人気がない。でも、ミヤ達は違うだろ? だったら手元の魔酒はミヤたちに取っておくのが道理だ」
「もう!! それを早く言ってよ。じゃあ、私達も戦前に気分を盛り上げるために飲むわよ!!」
「ほどほどにな……あっ、リードとルードはダメだぞ。狙撃手が酒に酔って手元が狂う。なんてことがあってはダメだからな」
リードは一瞬だけミヤ達吸血鬼に対して冷たい目線を送った。
「私達、エルフをあんな吸血鬼達と一緒にしないでください。酒は食事時に楽しむもの。ましてや狩り前に飲むなど……」
いや、戦争は狩りじゃないぞ。エルフの感覚もよく分からないけど。でも大丈夫なのか? ルードは酒をほしそうな顔になっているぞ。しかし、それにリードが気付いたのか、周辺の地理を抑えておくと言ってルードを無理やり連れて行ってしまった。ルードが最後まで、小さな声で酒と呟いていたのが妙に頭に残ってしまった。あとでたくさん飲ませてやるからな。
さて、一人になったぞ。む? シラーが酒を飲まずに待っているだと!? なんていい子なんだ。
「シラーは飲まないのか?」
「だって、砦を作るんですよね? だったら私の出番じゃないですか。今は飲むのを我慢します。その代わり、後でご主人様と二人で飲む時間をくださいね」
遠くからシラーの抜け駆けを叱る声が飛んできたが、シラーは気にする素振りもなかった。了承するとシラーは喜んで僕に飛びついてきた。久しぶりのシラーの感触に高ぶる感情をなんとか抑え、シラーを離し、周りを見渡した。どこから始めようか。
敵は前面からしか攻めてくることは出来ない。となれば、前面だけを再構築すれば問題ないだろう。土塀と空堀を作ってみるか。高さは……五メートルほどだ。空堀の一番下からだと十メートルくらいになるな。これだけあれば、そう易易と登ってくることは出来ないだろう。さらに、土塀の上に兵を配置できるようにし、登ってくる敵兵を落とす役目をさせよう。
シラーとともに空堀を掘り、その土を土塀用に用いることにした。すると空堀を掘っていると水が大量に染み出してきたのだ。どうやら、この辺りは地下水位が高いようだ。空堀が完成する度に出てくる水の量が増えてくる。さすがに満ち満ちと水が張られることはないだろが、空堀の底はかなりぬかるむようになった。これだけでも王国兵は足元の踏ん張りが利かないはずだ。
高い土塀をさらに強固になるよう土を固め、崩れる心配はなくなった。しかし、高い壁が出現すると問題がある。高い壁がバリスタの障害物となるのだ。そのため、バリスタを設置するための高台を設ける必要がある。どうせ固定しておくのだから、やや高めにしても問題ないだろう。正面から台形になるように土を盛り上げ、頂上を平らに均していく。そこには、大量のバリスタが設置される予定だ。弾薬や矢の補給のためにも通路を確保する必要がある。
新たに作った台地兵が展開できるように斜面を作った。勾配も緩やかにしておけば、重い物資を運ぶのにも然程手間はかからないだろう。次に、砦から敵陣に打って出る時に、通用路が狭ければ展開に支障が出てしまう。さらに、高い土塀と空堀が前を阻む形になっているため、大型の架け橋を設置した。
出来れば鉄が欲しかったところだが、ワガママは言えないな。木材でなんとか橋を作り、反撃する際だけ橋を下げるようにすればいいだろう。急拵えとなってしまったが、それなりの砦が完成したと思う。ライルにも完成した砦を見せることにした。
「これならなんとかなりそうだな。ロッシュ公のおかげで兵の士気も幾分マシになったぜ。ところで、大森林に展開する部隊なんだが……」
王国もこの砦を見れば、背後が手薄なのは嫌でも分かってくるはずだ。だとすれば大森林を迂回して背後に回ろうとするはず。それを阻止する部隊が必要なのだ。フェンリル隊にその役割を任せることにした。フェンリルなら大森林の戦いには問題ないだろう。むしろ水を得た魚状態である。本来は、人間たちの戦いに巻き込んではならない存在だ。できれば、人間の手でこの戦は終わらせたい。
そういえば……、ライルが何かを言おうとしていると、戦線を離脱していた将軍の姿が。
「ガモン!!」
「ロッシュ公。遅くなり申し訳ありませんでした。ガモン隊四千人。只今到着いたしました」
ガモン隊は先の戦で王国兵一万五千人を相手に獅子奮迅の働きをして、敵をかなりの時間、食い止めてくれていた。その代償として、ガモン隊の多くの兵が負傷し、戦線を離脱していたのだ。それがなぜ、やってこれたのだ?
「実はマリアナ様ご自身が退避しなければならないのに我らの治療を優先してくれたのです。シェラ様の回復魔法で傷を治療してもらい、マリアナ様から薬を頂いたことでなんとか戦線に戻れるほど回復することが出来ました。残念ながら、千人ほどは戻れるほど回復しませんでしたが」
そうか。エリスも戦っているのだな。
「ガモン。よく来てくれた。お前たちの参加は公国軍に少なくない希望を与えてくれるだろう」
「ありがとうございます。それで私達の部署は?」
そういうとライルが間に入ってきた。
「ガモン将軍。貴方の大森林での活躍は聞いているところだ。また、大森林で王国軍を翻弄してくれないだろうか? その敵が我らの背後に回られると厄介なんだ」
「お安い御用で。我らの真価は大森林で発揮されます。むしろ、そのような仕事があれば志願していたところ。ところで……この辺りにいい香りが漂っているようですが」
ガモンも好きそうな顔をしているな。ライルに余っている酒をこっちに持ってくるように命令すると、樽がひとつだけやってきた。
「済まねえな。まさかガモン将軍が来ると思っていなくて、これしか残っていなかったぜ」
ガモンは樽に近づき、おもむろに樽に指を差し入れ、その指をぺろりと舐めた。
「これは……なんて旨い酒なんだ。なるほど、これがいい匂いの正体か。おい!! お前らも飲め!!」
そういうとガモンの部下たちがガモンに倣って指先に付いた酒を舐めるだけだった。そんなもんでいいのか?
「我らは酒は好きだが、飲める量が少ないのだ。今はこれで十分。戦が終わったら倒れるほど飲ませてくれるのでしょうか?」
もちろんだ。今は在庫はないが、どんな手段を使ってでも酒を手に入れよう。ガモン隊はそれを聞いて、満足したのか、すぐに大森林に向け出発を開始した。フェンリル隊にはそのまま待機してもらい、ガモン隊の打ち漏らしを始末してもらうことにした。そんな時、待ちに待った斥候からの情報が入った。王国軍がこの先、十キロメートルほどの距離に近づいてきていると言う。やはり旗は王弟の物だ。
ライルはすぐに持ち場に付き、バリスタを台地に据え付けるように指示を飛ばしていた。第一軍のクロスボウ隊は土塀の上に陣取り、敵を待ち構える。第二軍は予備兵として待機し、王国が怯めばすかさず飛び出せるように準備をさせてある。ミヤたちには宴会の終了を告げた。
「折角楽しくなってきたところだったのに。この邪魔をした雑魚どもに鉄槌を下す必要があるようね。あれ? まだ来ていないじゃない。もうちょっと飲んでいても……」
再び酒宴に戻ろうとしていたので、なんとか止めさせた。
「あとで好きなだけ飲ませてやるから。今は遠慮してくれ」
「しょうがないわね。いい? ロッシュは私から離れちゃダメよ」
わかったから。なんでそんなに体を寄せ付けてくるんだ。ちょ、ちょっと。眷属まで。酒の香りと吸血鬼の色香に一瞬だけ現実を忘れかけたが、王国軍の出現により目を覚ますことが出来た。
公国と王国の最後の決戦……となるかもしれない戦いが今始まる。
砦はまさに王国とレントーク王都を結ぶ唯一の街道上に鎮座している。砦を通過せずに王都に向かうためには、北部の大部分を占める大森林を通過しなければならない。南には険峻な山が広がり未だに踏破されていないため、大軍での移動はほぼ不可能に近い。砦を改修する際に考えなければならないのは、砦の防御力はもちろんだが、なるべく砦に取り付かれないような工夫が必要となる。
さらに、北の大森林を迂回して、こちらの背後に回られることを警戒する必要がある。できれば大森林に兵を入れておきたいが、今の戦力で大森林に兵を配置することは不可能に近い。ただ、こちらも人が立ち入ることがない森のため大軍での移動は難しく、精々少数での移動というのが限界だろう。王国の主力は従来の武器だ。剣、槍、弓、それに騎馬隊だ。クロスボウも導入されているが、七家領攻防の際の王国兵たちが装備していたクロスボウはとても粗末で、精度も低く実戦に導入したのが不思議なほどだ。
もっとも王国の製鉄技術が素晴らしいのか、鏃《やじり》は凶悪で通常のものに比べて貫通力が格段に上がっており、殺傷能力が高いのが特徴だ。攻防戦で使われた鏃の回収を頼み、今回の一戦で使うつもりだ。
するとライルが側に寄ってきた。あまりいい表情をしていないところを見るといい話ではなさそうだな。
「ロッシュ公。兵の士気が上がらないんだ。やはり外国の地を守るってことに抵抗があるようだな。なにか、いい考えはないか? このまま戦争に突入しても、いい勝負にならないぞ」
ふむ。士気が上がらないか……一番わかりやすい物が報奨を出すことだな。
「報奨を出そう。彼らの士気が高まりそうな物を考えてくれないか?」
「報奨か。物で釣るならもっと簡単な方法がある。酒を出してやればいい。やつら、それだけで満足するだろうよ。ただ、この地には満足するようなものがないんだ。」
酒? 酒を飲むだけで士気が上がるのか? ライルの目は本気のようだ。それならば……カバンからありったけの酒を取り出した。
「おおっ!! すげえカバンだと思っていたが、これほどの量を入れることが出来るなんてな。これだけあれば、兵士に配ることが出来るだろう。いや、助かった。これで士気も一気に上がること間違いなしだぜ」
ライルは部下に指図して、酒樽を運んでいった。それからしばらくしてから、遠くから歓声のような声が聞こえてきた。ただ、横にいるミヤが不機嫌な顔に変わっていた。ミヤだけではない、酒豪を語るにふさわしい吸血鬼の面々もだ。口々に、私達の命の水が人間に盗られた、とか言っているけど渡しただけだからね。
「ロッシュ。どうやら私達を敵に回したいようね。あの酒は私達をここに留まらせておく最低条件だったわ」
「ミヤ……一体、何年の付き合いだと思っているのだ? それを見抜けない僕ではないぞ!!」
カバンから酒樽と取り出した。しかも、大量に。
「えっ!? だって、さっき全部出したって……」
「魔酒には手を付けていなかったんだ。あの酒は酒精が強すぎるし、魔族以外にはそれほど人気がない。でも、ミヤ達は違うだろ? だったら手元の魔酒はミヤたちに取っておくのが道理だ」
「もう!! それを早く言ってよ。じゃあ、私達も戦前に気分を盛り上げるために飲むわよ!!」
「ほどほどにな……あっ、リードとルードはダメだぞ。狙撃手が酒に酔って手元が狂う。なんてことがあってはダメだからな」
リードは一瞬だけミヤ達吸血鬼に対して冷たい目線を送った。
「私達、エルフをあんな吸血鬼達と一緒にしないでください。酒は食事時に楽しむもの。ましてや狩り前に飲むなど……」
いや、戦争は狩りじゃないぞ。エルフの感覚もよく分からないけど。でも大丈夫なのか? ルードは酒をほしそうな顔になっているぞ。しかし、それにリードが気付いたのか、周辺の地理を抑えておくと言ってルードを無理やり連れて行ってしまった。ルードが最後まで、小さな声で酒と呟いていたのが妙に頭に残ってしまった。あとでたくさん飲ませてやるからな。
さて、一人になったぞ。む? シラーが酒を飲まずに待っているだと!? なんていい子なんだ。
「シラーは飲まないのか?」
「だって、砦を作るんですよね? だったら私の出番じゃないですか。今は飲むのを我慢します。その代わり、後でご主人様と二人で飲む時間をくださいね」
遠くからシラーの抜け駆けを叱る声が飛んできたが、シラーは気にする素振りもなかった。了承するとシラーは喜んで僕に飛びついてきた。久しぶりのシラーの感触に高ぶる感情をなんとか抑え、シラーを離し、周りを見渡した。どこから始めようか。
敵は前面からしか攻めてくることは出来ない。となれば、前面だけを再構築すれば問題ないだろう。土塀と空堀を作ってみるか。高さは……五メートルほどだ。空堀の一番下からだと十メートルくらいになるな。これだけあれば、そう易易と登ってくることは出来ないだろう。さらに、土塀の上に兵を配置できるようにし、登ってくる敵兵を落とす役目をさせよう。
シラーとともに空堀を掘り、その土を土塀用に用いることにした。すると空堀を掘っていると水が大量に染み出してきたのだ。どうやら、この辺りは地下水位が高いようだ。空堀が完成する度に出てくる水の量が増えてくる。さすがに満ち満ちと水が張られることはないだろが、空堀の底はかなりぬかるむようになった。これだけでも王国兵は足元の踏ん張りが利かないはずだ。
高い土塀をさらに強固になるよう土を固め、崩れる心配はなくなった。しかし、高い壁が出現すると問題がある。高い壁がバリスタの障害物となるのだ。そのため、バリスタを設置するための高台を設ける必要がある。どうせ固定しておくのだから、やや高めにしても問題ないだろう。正面から台形になるように土を盛り上げ、頂上を平らに均していく。そこには、大量のバリスタが設置される予定だ。弾薬や矢の補給のためにも通路を確保する必要がある。
新たに作った台地兵が展開できるように斜面を作った。勾配も緩やかにしておけば、重い物資を運ぶのにも然程手間はかからないだろう。次に、砦から敵陣に打って出る時に、通用路が狭ければ展開に支障が出てしまう。さらに、高い土塀と空堀が前を阻む形になっているため、大型の架け橋を設置した。
出来れば鉄が欲しかったところだが、ワガママは言えないな。木材でなんとか橋を作り、反撃する際だけ橋を下げるようにすればいいだろう。急拵えとなってしまったが、それなりの砦が完成したと思う。ライルにも完成した砦を見せることにした。
「これならなんとかなりそうだな。ロッシュ公のおかげで兵の士気も幾分マシになったぜ。ところで、大森林に展開する部隊なんだが……」
王国もこの砦を見れば、背後が手薄なのは嫌でも分かってくるはずだ。だとすれば大森林を迂回して背後に回ろうとするはず。それを阻止する部隊が必要なのだ。フェンリル隊にその役割を任せることにした。フェンリルなら大森林の戦いには問題ないだろう。むしろ水を得た魚状態である。本来は、人間たちの戦いに巻き込んではならない存在だ。できれば、人間の手でこの戦は終わらせたい。
そういえば……、ライルが何かを言おうとしていると、戦線を離脱していた将軍の姿が。
「ガモン!!」
「ロッシュ公。遅くなり申し訳ありませんでした。ガモン隊四千人。只今到着いたしました」
ガモン隊は先の戦で王国兵一万五千人を相手に獅子奮迅の働きをして、敵をかなりの時間、食い止めてくれていた。その代償として、ガモン隊の多くの兵が負傷し、戦線を離脱していたのだ。それがなぜ、やってこれたのだ?
「実はマリアナ様ご自身が退避しなければならないのに我らの治療を優先してくれたのです。シェラ様の回復魔法で傷を治療してもらい、マリアナ様から薬を頂いたことでなんとか戦線に戻れるほど回復することが出来ました。残念ながら、千人ほどは戻れるほど回復しませんでしたが」
そうか。エリスも戦っているのだな。
「ガモン。よく来てくれた。お前たちの参加は公国軍に少なくない希望を与えてくれるだろう」
「ありがとうございます。それで私達の部署は?」
そういうとライルが間に入ってきた。
「ガモン将軍。貴方の大森林での活躍は聞いているところだ。また、大森林で王国軍を翻弄してくれないだろうか? その敵が我らの背後に回られると厄介なんだ」
「お安い御用で。我らの真価は大森林で発揮されます。むしろ、そのような仕事があれば志願していたところ。ところで……この辺りにいい香りが漂っているようですが」
ガモンも好きそうな顔をしているな。ライルに余っている酒をこっちに持ってくるように命令すると、樽がひとつだけやってきた。
「済まねえな。まさかガモン将軍が来ると思っていなくて、これしか残っていなかったぜ」
ガモンは樽に近づき、おもむろに樽に指を差し入れ、その指をぺろりと舐めた。
「これは……なんて旨い酒なんだ。なるほど、これがいい匂いの正体か。おい!! お前らも飲め!!」
そういうとガモンの部下たちがガモンに倣って指先に付いた酒を舐めるだけだった。そんなもんでいいのか?
「我らは酒は好きだが、飲める量が少ないのだ。今はこれで十分。戦が終わったら倒れるほど飲ませてくれるのでしょうか?」
もちろんだ。今は在庫はないが、どんな手段を使ってでも酒を手に入れよう。ガモン隊はそれを聞いて、満足したのか、すぐに大森林に向け出発を開始した。フェンリル隊にはそのまま待機してもらい、ガモン隊の打ち漏らしを始末してもらうことにした。そんな時、待ちに待った斥候からの情報が入った。王国軍がこの先、十キロメートルほどの距離に近づいてきていると言う。やはり旗は王弟の物だ。
ライルはすぐに持ち場に付き、バリスタを台地に据え付けるように指示を飛ばしていた。第一軍のクロスボウ隊は土塀の上に陣取り、敵を待ち構える。第二軍は予備兵として待機し、王国が怯めばすかさず飛び出せるように準備をさせてある。ミヤたちには宴会の終了を告げた。
「折角楽しくなってきたところだったのに。この邪魔をした雑魚どもに鉄槌を下す必要があるようね。あれ? まだ来ていないじゃない。もうちょっと飲んでいても……」
再び酒宴に戻ろうとしていたので、なんとか止めさせた。
「あとで好きなだけ飲ませてやるから。今は遠慮してくれ」
「しょうがないわね。いい? ロッシュは私から離れちゃダメよ」
わかったから。なんでそんなに体を寄せ付けてくるんだ。ちょ、ちょっと。眷属まで。酒の香りと吸血鬼の色香に一瞬だけ現実を忘れかけたが、王国軍の出現により目を覚ますことが出来た。
公国と王国の最後の決戦……となるかもしれない戦いが今始まる。
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