奴隷商貴族の領地経営〜奴隷を売ってくれ? 全員、大切な領民だから無理です

秋田ノ介

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第8話 奴隷商、エルフを買う

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爺さんの話は十分に銀貨一枚の価値はあった。

奴隷商は普通にやれば絶対に稼ぐことは出来ない。

日々の生活費だけで稼ぎが消えてしまう。

だが、爺さんのやり方は王国の法律の穴を突くようなやり方だ。

安い金額で奴隷を仕入れる。

特技がある者がいいだろう。

その者をギルドに所属させて働かせれば……大きな稼ぎになるはずだ。

ちなみにギルドはあらゆる物の販売権を独占している組織のことだ。

有名所は冒険者ギルドだ。

魔獣狩りを専業として行っている集団だ。

それから得られる魔獣の皮や牙、肉を販売している。

魔獣の種類にもよるが、大きな金額の取引が行われていると聞いたことがある。

「ふぉふぉ。どうするかね? 買っていってくれると助かるんじゃが」

……どういたものか。

エリスにも相談したほうがいいかも知れない。

爺さんのやり方をした場合、その者も一緒に暮らすことになる。

そうなれば、僕の一存だけで決めるわけにはいかないだろう。

だが……

「あの人と話をしてもいいか? それから決めたい」
「ふぉふぉ。好きにするがいい。ただし、手を出したらいかんぞ」

そんなことをする訳がない。

僕には……婚約者がいるんだ……今はもはや空約束になってしまったけど。

少なくとも、こうなったことを謝ってからでなければ、次に進むことは……出来ない。

それがたとえ、エリスだったとしても……。

薄暗い部屋の片隅にいる女性のもとに近づいた。

「ちょっといいか?」
「……」

どう話したものか……。

たしか、彼女はミディールの里の出身だと言っていたな。

ミディールは……イルス地方の地名の一つだ。

そこから話すか。

「僕はロッシュ=イルスと言う」
「イルス? 本当に?」

彼女の顔を初めて見た。

……彼女は……人間ではなかった。

いわゆるエルフという種族ではないだろうか。

会ったことはないが、王国の外れ、イルス地方の奥の方には禁断の森が広がっていると聞く。

そこは信じられないほどの魔獣が生息し、人ならざる者……魔族が住んでいるというのがもっぱらの噂だ。

その魔族の一種族としてエルフがいるという。

耳が長く、体はやや緑がかっている。

薬草の知識に長け、弓矢を自在に操る。

それが伝え聞いているエルフ像だ。

「済まない。初めて、エルフを見たものだから」
「それは不思議ね。イルスなら見慣れているはずでしょ?」

どう、説明したらいいものか。

「イルス姓を名乗ったは昨日からなんだ。元はアウ-ディアだったんだが……いや、今はいいか」
「よく分からない。だけど、イルスだったらお願いがある」

ひと呼吸を置く。

僕はある目的で彼女に話しかけている。

話がまとまれば、買おうとも思っている。

だが、その前に確認しなければならない。

それからでなければ、彼女の話を聞くわけにはいかない。

「もし、僕が言う条件を叶えてくれるのなら、君の願いも聞き届けよう」
「……言って」

エルフか……。

「ミディールの民は薬草に詳しい。それに間違いはないな?」
「ええ。ミディールは薬草の聖地。ここの人間よりは詳しい」

「ならば、毒を飲んでしまった女性を助けることが出来るか?」

なぜか、エルフはじっと僕を見つめた。

それは長く……感じた。

「分からない。診てみないと。だけど、解毒の薬草は誰よりも詳しいと思う。後はイルスが決めろ」

……どうするか……。

奴隷は一度買ってしまうと、売るまでは共に暮らさなければならない。

爺さんの所に戻すことは難しいだろう。

一層のこと、エリスをここに連れてきて、診てもらうか?

「何を悩んでいる? 私を連れていけばいいだけの話だろ?」

それを悩んでいるんだが……。

でも、彼女を買えば、エリスの治療に役に立つ可能性は大いにある。

だったら……

「一つ聞きたい。君の願いってなんだ?」
「ミディールに帰りたい」

……それだけ、なのか?

もっと大層なことを注文されると思ったが……

でも考えてみれば、ミディールはおろか領地であるイルス地方にすら向かえずにいるのだから、難しい問題であることは間違いないか。

「言っておくが、ミディールに行けるのはいつになるか分からない。それでも、付いてくる気があるか?」
「言うまでもない。ここにいれば、一生行くことが叶わない。これは私にとっては千載一遇のチャンスなんだ」

たしかにそうかも知れないな。

「分かった。君の覚悟は確かみたいだな。君を買おう。ただし……」
「分かっている。イルスの大切な人なのだろ? 私も治すために最大の努力をしよう。もっとも奴隷にはそれしか途はないけどな」

エルフには相手の心を読むような力があるのだろうか?

どうして、大切な人だなんて分かるんだ?

「名を教えてくれ」
「私はシェラだ」

薬草師のシェラを奴隷として買うことにした。

「ふぉふぉ。感謝するぞ」

なけなしの金貨10枚を手渡した。

人の価値としてはかなり安いが、それが王国のルール。

手放す時も金貨10枚だ。

奴隷商が貰える報酬は手数料の銀貨1枚だけ。

だが、シェラを手放すことはない。

約束があるのだから……。

「ふぉふぉ。また、頼むぞ。本当はもっと買ってほしいがの」
「無理を言うな。彼女一人だって、相当無理をしているんだ。だが、都合がつけば、また来よう」

シェラを出してもらった。

久しく歩いていないせいか、立つことも覚束ない様子だ。

「大丈夫か? 肩を貸そう」
「大丈夫。すぐに慣れる。それよりもいいのか?」

何のことだ?

「ふぉふぉ。奴隷紋のことじゃよ。さあ、早く、彼女に奴隷紋を」

……奴隷紋?

「何のことだ?」
「ふぉふぉ。これは面白いのぉ。奴隷紋を知らぬとは。その奴隷商貴族の証は……こう使うんじゃ」

爺さんが急に僕の頭を掴み……徐ろにシェラの胸に押し当てた。

「何をするんだ!!」

柔らかな感触が顔に伝わってくる。

なんて大きさなんだ……いや、そうではない。

爺さんの力がこんなにすごいとは……

「さあ、この者を奴隷にすると命じるのじゃ」

こんな状態でどうやって……

彼女が何故か苦しそうな表情を浮かべる。

「お主の印が反応しておるんじゃ。早く、命じるのじゃ」

……くそっ。

「我は命じる。汝を我が奴隷をする」

思いつく言葉を呟くと、頬が急に熱くなり、一瞬だけ光り輝いた。

爺さんの力が緩んだ隙に頭をシェラから離す。

これは……。

シェラの鎖骨あたりに大きく描かれる奴隷の紋章。

これが奴隷紋……。

「ふぉふぉ。これで契約成立じゃ」

これが奴隷契約なのか……。

しかし……

「契約をする度に相手に顔をくっつけなければならないのか?」
「ふぉふぉ。慣れれば、手で触れれば出来るようになるじゃろう。肩にも印があるじゃろ?」

じゃあ、肩でも良かったのでは?

爺さんは「顔のほうが嬉しいじゃろ?」と言っていた。

否定できない自分がなんとも悔しかった……。
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