魔女が魔法を忘れたとき~The perfect illusion~

zenmai2

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第四章 襲来

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 雨が止んだ。
 少し小降りになってきたかなと思った矢先のことで、すごくあっけなかった。 

 そして、同じぐらいにあっけなくパッヘルは最後の時を迎えようとしていた。
 安全な場所に隠れていろと言われても、彼女にはあてがない。彼女の足はごく自然に『魔女の墓』へと向いた。

 その道中で傷ついて倒れた魔物たちの姿が散見できた。今も森のどこかで轟音や悲鳴が断続的に響いている。
 どこかしらで、ぱちぱちと木の焼ける音も聞こえる。雨も止んでしまったし、このままでは火が森全体に行き渡り、館もただではすまないだろう。

 でも、パッヘルにはどうすることもできない。

 魔女の墓の大岩の脇。彼女は仰向けになって曇天の空をぼうと眺めていた。もはや神にも悪魔にも祈ることさえしない。彼らはどうせ何もしてくれないのだから。

「わりと楽しかったかな」

 ふと口にしたそれは、覚醒してからのわずか五日間の出来事を総評した言葉だった。

「急に魔女だなんて言われて、なんか知らないけど化け物たちに慕われてて、町では英雄扱いされてるし、それなのに国からは命を狙われてるし」

 そして、一度大きな溜息をつく。

「せめてもう一度、みんなに会いたかったな」

 その時、ぬっと目の前に影が現れた。
 少しだけ焦ったが、その正体が分かると同時にパッヘルはほっと胸を撫で下ろす。

「なーんだ、あんたか」
「ひどい言い草だニョロん」

 いつの間にここへきたのか、ニョルルンが顔を覗かせていたのだった。

「みんなに会いたいなんて言うから、こうしてやってきたニョロん」
「うん。まあ、たしかに会いたかったけど」

 ん?

 パッヘルは疑問に感じて、身体を起こしながら言った。

「でも、あんたどうしてここが分かったの? この場所は誰も……」
「パッヘルさまの後ろ姿を見かけて、あとをつけたニョロん」

 えっへんとニョルルンは、ない胸を張る。

「誰にも見つからないように、けっこう気を使ったんだけどなぁ」
「ヘビのスニーキング能力を舐めないでほしいニョロん」

 そりゃそうか。

 パッヘルは納得し、今度は大岩に背中を預けた。

「魔法が、使いたいな」

 独り言のように呟く。

「ニョロん?」
「みんなを呼び寄せる魔法」

 そう言いながら、ニョルルンを抱き寄せる。

「だって、最後ぐらいはみんなと一緒にいたいじゃん。私は生まれたばかりの赤ん坊みたいなもんなんだよ。一人ぼっちで死んでいくのは寂しすぎると思わない?」
「パッヘルさま……」
「ああ、ごめん。ニョルルンがきてくれたんだったね。ねえ、ニョルルン。ニョルルンは最後まで一緒にいてくれる?」
「パッヘルさまは魔法では倒せないニョロん」
「え?」

 予想外の言葉が飛んできて、パッヘルは戸惑う。

「心臓に剣を突き立てない限り、パッヘルさまは死なないニョロん。そのことを知っているグラントさまは、一人で前線の兵士たちを食い止めにいったニョロん」

 一人で……前線に?

「シープルは今も館を守るために戦っているし、アザミとガナールも敵の魔導師に苦戦しながらも必死に頑張ってるニョロん」

 …………

「だから、パッヘルさまもあきらめちゃ駄目だニョロん」
「分かっ……てんの!」

 パッヘルは喉から声をしぼりだすように叫んだ。見る見るうちに涙が溢れ、すぐに視界がぼやけてしまう。

「だから私は魔法が使いたいの! みんなを……みんなを守ることのできる魔法を!」

 そうだ。そして、本当はそれが使えるはずなんだ。
 全部、全部、私のせいで。みんながいなくなっちゃったんだ。

「パッヘルさま!?」

 突然、大声を上げたニョルルンに、パッヘルはビクッと肩を震わせる。

「な、なによ」
「見るニョロん! パッヘルさま!」
「え……?」

 両手で涙を拭う。視界に現れたニョルルンは、驚愕の表情でこちらを見つめていた。

「ほら、光が!」
「光……?」

 ニョルルンの視線をなぞり、パッヘルは自分の身体、それから両手をまじまじと見つめた。
 本当だった。たしかに、体全体が薄く青白い光に包まれているような気がする。

「なんなのこれ……」
「魔力だニョロん! パッヘルさまの感情が、魔力に共鳴してるんだニョロん!」
「魔力に!?」

 パッヘルはそのまま立ち上がった。光はつま先から地面に向けて流れ出ているように見える。

「そんな、だって……」
「イメージするニョロん!」

 戸惑うパッヘルを諌めるかのように、ニョルルンは力強く言った。

「前に食堂で話したみたいに! きっと今なら……!」
「イメージ……」

 パッヘルは静かにまぶたを閉じた。

 そうだ。私は……
 みんなを――みんなを、守りたい!

 次の瞬間、パッヘルの身体から光の柱が天空に向けて伸びていった。
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