28 / 37
第四章 襲来
6 共鳴
しおりを挟む
雨が止んだ。
少し小降りになってきたかなと思った矢先のことで、すごくあっけなかった。
そして、同じぐらいにあっけなくパッヘルは最後の時を迎えようとしていた。
安全な場所に隠れていろと言われても、彼女にはあてがない。彼女の足はごく自然に『魔女の墓』へと向いた。
その道中で傷ついて倒れた魔物たちの姿が散見できた。今も森のどこかで轟音や悲鳴が断続的に響いている。
どこかしらで、ぱちぱちと木の焼ける音も聞こえる。雨も止んでしまったし、このままでは火が森全体に行き渡り、館もただではすまないだろう。
でも、パッヘルにはどうすることもできない。
魔女の墓の大岩の脇。彼女は仰向けになって曇天の空をぼうと眺めていた。もはや神にも悪魔にも祈ることさえしない。彼らはどうせ何もしてくれないのだから。
「わりと楽しかったかな」
ふと口にしたそれは、覚醒してからのわずか五日間の出来事を総評した言葉だった。
「急に魔女だなんて言われて、なんか知らないけど化け物たちに慕われてて、町では英雄扱いされてるし、それなのに国からは命を狙われてるし」
そして、一度大きな溜息をつく。
「せめてもう一度、みんなに会いたかったな」
その時、ぬっと目の前に影が現れた。
少しだけ焦ったが、その正体が分かると同時にパッヘルはほっと胸を撫で下ろす。
「なーんだ、あんたか」
「ひどい言い草だニョロん」
いつの間にここへきたのか、ニョルルンが顔を覗かせていたのだった。
「みんなに会いたいなんて言うから、こうしてやってきたニョロん」
「うん。まあ、たしかに会いたかったけど」
ん?
パッヘルは疑問に感じて、身体を起こしながら言った。
「でも、あんたどうしてここが分かったの? この場所は誰も……」
「パッヘルさまの後ろ姿を見かけて、あとをつけたニョロん」
えっへんとニョルルンは、ない胸を張る。
「誰にも見つからないように、けっこう気を使ったんだけどなぁ」
「ヘビのスニーキング能力を舐めないでほしいニョロん」
そりゃそうか。
パッヘルは納得し、今度は大岩に背中を預けた。
「魔法が、使いたいな」
独り言のように呟く。
「ニョロん?」
「みんなを呼び寄せる魔法」
そう言いながら、ニョルルンを抱き寄せる。
「だって、最後ぐらいはみんなと一緒にいたいじゃん。私は生まれたばかりの赤ん坊みたいなもんなんだよ。一人ぼっちで死んでいくのは寂しすぎると思わない?」
「パッヘルさま……」
「ああ、ごめん。ニョルルンがきてくれたんだったね。ねえ、ニョルルン。ニョルルンは最後まで一緒にいてくれる?」
「パッヘルさまは魔法では倒せないニョロん」
「え?」
予想外の言葉が飛んできて、パッヘルは戸惑う。
「心臓に剣を突き立てない限り、パッヘルさまは死なないニョロん。そのことを知っているグラントさまは、一人で前線の兵士たちを食い止めにいったニョロん」
一人で……前線に?
「シープルは今も館を守るために戦っているし、アザミとガナールも敵の魔導師に苦戦しながらも必死に頑張ってるニョロん」
…………
「だから、パッヘルさまもあきらめちゃ駄目だニョロん」
「分かっ……てんの!」
パッヘルは喉から声をしぼりだすように叫んだ。見る見るうちに涙が溢れ、すぐに視界がぼやけてしまう。
「だから私は魔法が使いたいの! みんなを……みんなを守ることのできる魔法を!」
そうだ。そして、本当はそれが使えるはずなんだ。
全部、全部、私のせいで。みんながいなくなっちゃったんだ。
「パッヘルさま!?」
突然、大声を上げたニョルルンに、パッヘルはビクッと肩を震わせる。
「な、なによ」
「見るニョロん! パッヘルさま!」
「え……?」
両手で涙を拭う。視界に現れたニョルルンは、驚愕の表情でこちらを見つめていた。
「ほら、光が!」
「光……?」
ニョルルンの視線をなぞり、パッヘルは自分の身体、それから両手をまじまじと見つめた。
本当だった。たしかに、体全体が薄く青白い光に包まれているような気がする。
「なんなのこれ……」
「魔力だニョロん! パッヘルさまの感情が、魔力に共鳴してるんだニョロん!」
「魔力に!?」
パッヘルはそのまま立ち上がった。光はつま先から地面に向けて流れ出ているように見える。
「そんな、だって……」
「イメージするニョロん!」
戸惑うパッヘルを諌めるかのように、ニョルルンは力強く言った。
「前に食堂で話したみたいに! きっと今なら……!」
「イメージ……」
パッヘルは静かにまぶたを閉じた。
そうだ。私は……
みんなを――みんなを、守りたい!
次の瞬間、パッヘルの身体から光の柱が天空に向けて伸びていった。
少し小降りになってきたかなと思った矢先のことで、すごくあっけなかった。
そして、同じぐらいにあっけなくパッヘルは最後の時を迎えようとしていた。
安全な場所に隠れていろと言われても、彼女にはあてがない。彼女の足はごく自然に『魔女の墓』へと向いた。
その道中で傷ついて倒れた魔物たちの姿が散見できた。今も森のどこかで轟音や悲鳴が断続的に響いている。
どこかしらで、ぱちぱちと木の焼ける音も聞こえる。雨も止んでしまったし、このままでは火が森全体に行き渡り、館もただではすまないだろう。
でも、パッヘルにはどうすることもできない。
魔女の墓の大岩の脇。彼女は仰向けになって曇天の空をぼうと眺めていた。もはや神にも悪魔にも祈ることさえしない。彼らはどうせ何もしてくれないのだから。
「わりと楽しかったかな」
ふと口にしたそれは、覚醒してからのわずか五日間の出来事を総評した言葉だった。
「急に魔女だなんて言われて、なんか知らないけど化け物たちに慕われてて、町では英雄扱いされてるし、それなのに国からは命を狙われてるし」
そして、一度大きな溜息をつく。
「せめてもう一度、みんなに会いたかったな」
その時、ぬっと目の前に影が現れた。
少しだけ焦ったが、その正体が分かると同時にパッヘルはほっと胸を撫で下ろす。
「なーんだ、あんたか」
「ひどい言い草だニョロん」
いつの間にここへきたのか、ニョルルンが顔を覗かせていたのだった。
「みんなに会いたいなんて言うから、こうしてやってきたニョロん」
「うん。まあ、たしかに会いたかったけど」
ん?
パッヘルは疑問に感じて、身体を起こしながら言った。
「でも、あんたどうしてここが分かったの? この場所は誰も……」
「パッヘルさまの後ろ姿を見かけて、あとをつけたニョロん」
えっへんとニョルルンは、ない胸を張る。
「誰にも見つからないように、けっこう気を使ったんだけどなぁ」
「ヘビのスニーキング能力を舐めないでほしいニョロん」
そりゃそうか。
パッヘルは納得し、今度は大岩に背中を預けた。
「魔法が、使いたいな」
独り言のように呟く。
「ニョロん?」
「みんなを呼び寄せる魔法」
そう言いながら、ニョルルンを抱き寄せる。
「だって、最後ぐらいはみんなと一緒にいたいじゃん。私は生まれたばかりの赤ん坊みたいなもんなんだよ。一人ぼっちで死んでいくのは寂しすぎると思わない?」
「パッヘルさま……」
「ああ、ごめん。ニョルルンがきてくれたんだったね。ねえ、ニョルルン。ニョルルンは最後まで一緒にいてくれる?」
「パッヘルさまは魔法では倒せないニョロん」
「え?」
予想外の言葉が飛んできて、パッヘルは戸惑う。
「心臓に剣を突き立てない限り、パッヘルさまは死なないニョロん。そのことを知っているグラントさまは、一人で前線の兵士たちを食い止めにいったニョロん」
一人で……前線に?
「シープルは今も館を守るために戦っているし、アザミとガナールも敵の魔導師に苦戦しながらも必死に頑張ってるニョロん」
…………
「だから、パッヘルさまもあきらめちゃ駄目だニョロん」
「分かっ……てんの!」
パッヘルは喉から声をしぼりだすように叫んだ。見る見るうちに涙が溢れ、すぐに視界がぼやけてしまう。
「だから私は魔法が使いたいの! みんなを……みんなを守ることのできる魔法を!」
そうだ。そして、本当はそれが使えるはずなんだ。
全部、全部、私のせいで。みんながいなくなっちゃったんだ。
「パッヘルさま!?」
突然、大声を上げたニョルルンに、パッヘルはビクッと肩を震わせる。
「な、なによ」
「見るニョロん! パッヘルさま!」
「え……?」
両手で涙を拭う。視界に現れたニョルルンは、驚愕の表情でこちらを見つめていた。
「ほら、光が!」
「光……?」
ニョルルンの視線をなぞり、パッヘルは自分の身体、それから両手をまじまじと見つめた。
本当だった。たしかに、体全体が薄く青白い光に包まれているような気がする。
「なんなのこれ……」
「魔力だニョロん! パッヘルさまの感情が、魔力に共鳴してるんだニョロん!」
「魔力に!?」
パッヘルはそのまま立ち上がった。光はつま先から地面に向けて流れ出ているように見える。
「そんな、だって……」
「イメージするニョロん!」
戸惑うパッヘルを諌めるかのように、ニョルルンは力強く言った。
「前に食堂で話したみたいに! きっと今なら……!」
「イメージ……」
パッヘルは静かにまぶたを閉じた。
そうだ。私は……
みんなを――みんなを、守りたい!
次の瞬間、パッヘルの身体から光の柱が天空に向けて伸びていった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている
歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が
ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が
一人分減るな、と思っただけ。
ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。
しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、
イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。
3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された
ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。
「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」
「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる