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手紙
しおりを挟むうひひひひ。
ベッドの中。あたしは、品の無い笑い声をもらしてしまった。
手には、カワイイ子猫のイラストの描かれた封筒がある。
今日、ヒロシから手渡された封筒である。
あたしとヒロシは幼なじみだ。
子供のころから一緒に遊び、ケンカをし、時には勉強をした仲である。いつも兄妹のようにすごしてきたのだ。
しかし、高校生にもなると、幼なじみといっても微妙なものになってくる。
今のヒロシは、悪ガキだった子供のころからは想像できないぐらい、かっこいい男になった。
でも、あたしだって、けっこう美人になったのだ。
自慢じゃないけど、もらったラブレターの数も十通をこえる。
だけど、あたしが本当に好きなのは、ヒロシなのだ。
ヒロシもあたしのことが好きなはずである。あたしは、絶対にそうだと思っている。
だったら相思相愛で、うまくいきそうなものなのだが、なかなかそうはいかない。
なんとなく、先に「つき合ってください」と言った方が、この先、相手にすべての主導権を渡すような空気になっているのだ。
相手から先に「好きです。つき合ってください」と言わせたい。
しかし、それを、あまりに待ち過ぎると、第三者に横取りされてしまうかもしれない。
もはやチキンレースになっていた。
でも、今日、学校帰りに、ヒロシがいつになく真面目な顔をして、あたしに封筒をさし出したのだ。
「沙也加、これ……」
わずかに視線をそらしながら、あたしの名前を呼び、ヒロシはこう続けた。
「これ、寝る前にベッドの中で読んでくれよ」
あたしは、はっきり言って心臓が高鳴ってしまった。『寝る前にベッドの中で』ってのが、意味深である。
期待に胸がふくらみ、うひひひと、笑いがこみあげてきても仕方ない。
そして、あたしはベッドの中で、手の中の封筒をゆっくりと開けた。
ちょっと手が震える。
期待に胸がふくらんでいるけれども、やっぱり不安もある。
あたしが想像している内容とは、まったく反対のことが書かれていたらどうしょう……。
中には四つ折りの便箋が一枚だけ入っていた。
あたしは思い切って便箋を広げた。
……。
あの野郎。
あたしは唇をかんだ。
便箋には黒のマジックで、大きく、こう書かれていたのだ。
『おやすみなさい』
便箋のむこうに、腹をかかえて笑っているヒロシが、見えるようであった。
翌日、ヒロシに告白された。
「沙也加。ずっと好きだったんだ。俺とつき合ってくれ」
あたしたちの関係は、友達から恋人に変わった。
なぜか主導権は、ヒロシ寄りになっている。
ちょっと納得がいかない。
納得がいかないけど、けっこう幸せな日々である。
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