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シガシガの木
しおりを挟むシガシガの木は、ずいぶん前から、かれたままでした。
一枚の葉っぱもなく、枝だけが、右へひょろり、左へひょろりと、のびているだけです。
春になると、森の中のほかの木は、たくさんの花を咲かせます。
シガシガの木は、それを見て、かなしくなります。
ああ。ぼくもあんなふうに、きれいな花のぼうしをかぶってみたいよ。
夏になると、森の中のほかの木は、あふれるほどの葉っぱをひろげます。
シガシガの木は、それを見て、ためいきをつきます。
ああ。ぼくもあんなふうに、たくさんの葉っぱの服をきてみたいよ。
秋になると、森の中のほかの木は、おいしい木の実を、たっぷりと実らせます。
そして、あつまってきた小鳥たちと、いろいろなお話をするのです。
でも、シガシガの木には、どの小鳥もよってきません。おいしい木の実が、ひとつもなっていないからです。
ああ。ぼくにも木の実がなったら、小鳥たちに、たくさん食べさせてあげるのに。
そしたら、たくさんお話ができるのに。
そうおもい、シガシガの木は、シガシガ、シガシガと泣くのでした。
冬だけはちがいます。
冬はどの木も、シガシガの木と同じように、枝だけのすがたとなって、寒い、寒いとこごえながら、じっと春がくるのをまっているのです。
シガシガの木は、冬の間だけ、みんなとおなじになるのでした。
でも、冬が終わると、やっぱり森に、春がやってくるのです。
ある春の日のことです。
シガシガの木の前を、ひとりの女の子が通りました。
「まあ。なんて、みすぼらしい木なの」
女の子はシガシガの木を見ておどろきました。
女の子の声がきこえたシガシガの木は、はずかしくて、じっとしています。
「はい。このキャンディーをたべて、すてきな木になってね」
女の子は、シガシガの木の枝に、ひとはこのキャンディーをおき、そのまま、どこかに行ってしまいました。
やさしくされたシガシガの木は、うれしくてキシキシと枝をゆらしました。
すると、キャンディーのにおいにひかれて、アオカブトムシが、シガシガの木にちかづいてきました。
「シガシガさん。おいしそうなキャンディーだね。どうだろう、ひとつ、おいらにくれないかい」
「いいとも。いいとも」
シガシガの木がこたえると、アオカブトムシはメロン味のキャンディーをひとつ、枝のうえからとりました。
「かわりに、このきれいな石を、あげましょう」
アオカブトムシは緑色に光る石を、枝の上にのせました。
しばらくすると、今度はトツトツバッタとデングリトンボが、あらわれました。
「シガシガさん、こんにちは」
「やあ、こんにちは」
「アオカブトムシくんから、聞いたのだけど」
「キャンディーのことだね。好きな味をどうぞ」
トツトツバッタはレモン味のキャンディーをもらい、水色の石をシガシガの木の枝にのせ、デングリトンボはリンゴ味のキャンディーをもらい、金色の石をシガシガの木の枝にのせていきました。
虫たちだけではありません。
ビボ鳥の姉妹は、バナナ味のキャンディーをシガシガの木からもらいました。
「シガシガさん、おいしかったわ」
「お礼に、虹色の羽根を枝にかざっていくわね」
「ありがとう。なんて美しい羽根なんだろう」
ムラサキ猿の一家は、イチゴ味のキャンディーをもらい、めずらしいトルル貝を、枝の上におきます。
ホシリスは、ソーダ味のキャンディーをもらい、赤いおおきな花ビラを、おいていきます。
森の妖精は、ハチミツ味のキャンディーをもらい、星のかけらを、枝にのせます。
とおりがかったキコリの老人までもが、シガシガの木から、ブドウ味のキャンディーをもらうと、かわりに、ちいさなお守りぶくろを、枝にひっかけました。
光る石が枝にならび、きれいな羽根が風にそよぎます。貝や花ビラや、星のかけらに、お守りぶくろ……。
いつしかシガシガの木は、森で一番すてきな木になりました。
「やあやあ、シガシガさん」
「今日は、風が気持ちいいね」
「ここで一休みしてもいいかい」
「昨日ねこんなことがあったんだよ」
「聞いておくれよ、シガシガさん」
今日もたくさんの虫や動物たちが、シガシガの木のもとに集まってきます。
シガシガの木は、すてきなだけではなく、森の中で一番友だちが多い木になったのでした。
応援ありがとうございます!
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