高鳴りそうだ。

みやび だい

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高鳴りそうだ。

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 高校二年の授業も大半が終わっていた。テスト前ということもあり自習だったが僕の通っている高校は進学校ということもあり真面目に勉強する生徒が大半を占めている。眠っている生徒もおり、そういう奴に限ってテストで高得点を出し、学年の順位も高い。ちなみに僕は学年四〇〇人中二〇〇位くらいだ。学校で勉強せずに点が取れる奴は努力を表に出さない秀才型だ。結局この世界は努力が大事なんだ。
 そんなことを考えていた時に、
「俺は上東大学にするよ。」
 聞いてもいないのに拓也が話しかけてきた。
 正直どうでもいい。
 ただ、僕はこれまでの高校生活でごく普通のいい奴くらいの高校生として生活してきていた。ぶっきら棒な反応をするわけにはいかない。しかし裏の僕は静かで一人でブツブツ言ってるような簡単に言えば陰キャだ。
 正直この表の顔はとても面倒くさい。心の中でため息をつきながら、
「まじか!お前すげーな!」
 精一杯頭を回転させて僕の中で考えつく最高の言葉を捻り出したがこのざまだ。
「なぁ、お前はどうすんの?」
 なんの悪意もなく聞いてくる拓也に一瞬イラッとしたが顔には出さずに、
「そーだなー芸人にでもなるかな!」
 そう精一杯の笑みで応えた。
 実際僕はお笑い芸人という職業に憧れていた。僕は昔からドラマやアニメなどは観ず、観ている番組といったらバラエティかネタ番組だった。小さい頃からお笑いを見て育った僕はいつしかお笑い芸人というクソかっこいい職業に憧れを抱いていた。そんなことも知らずに拓也は、
「それいいね!めっちゃ向いてるよ!」
 と無責任な言葉を吐いた。
 僕レベルで芸人に向いてたらそこら中に面白い芸人が生えてるだろう。だって一生懸命振り絞って出した言葉が「まじかすげーな」なんだから。
 そんなことを思いつつも進路はそろそろちゃんと考えなければならないと分かっていた。進路が決まりそこに向けて頑張っているクラスメイトや友人に劣等感を感じた。
 自習が終わるまでボーッと窓の外を眺めて過ごしていた。澄みきった青空にさえも嫌気がさした。
 
 テストが終わり、いつも通りの勉強時間だった僕は、廊下に貼ってある順位表を確認した。なんら変わりのないいつも通りの順位を見て特に何の気も覚えずそのまま家へ向かおうとした。そんな中またあいつが来た。拓也だ。
「おいおい聞いてくれよ!俺順位めっちゃ上がって、学年二〇位まできたよ!」
 正直本当にどうでもいい。お前が順位上がってようが僕には関係ない。と思いつつも、
「まじか!お前めっちゃ勉強してたもんな!」
 となんの変哲もない誰でも言える言葉が自分の口から出た。もっと面白いこと言えばよかった。もう寒気までした。僕はただ元気なだけだ。僕の憧れる芸人たちはもっと面白いのになぜ僕はこんなにつまらないのか。「まあ僕はただの高校生だ。そんなことどうでもいい。」そう言い聞かせた。
 テストが終わり二年生も終わりを迎えた。高校二年生というのはとても平和な一年間だ。何か特別なことが起きるわけでもなくただ平穏な一日を三六五回繰り返しただけだった。そんなことを考えながら家に着いた。一度二階にある部屋に行き好きな芸人の漫才をスマホで見ていた。液晶の中の男たちは誰よりも馬鹿で誰よりも格好よかった。
「はー」
 いつの間にか口から息が漏れていた。そのため息の意味を知りたくなかった僕は不貞腐れたように仮眠をとった。
「ご飯だよ。降りてきてー」
 母の声で目が覚めた。ご飯を食べなきゃいけない。仕方なくまぶたを開け寝ぼけた顔をしながら居間へ向かった。
「あぶね!」寝ぼけていたからか階段から落ちそうになったがなんとか落ちずに済んだ。いや、いっそのこと落ちて怪我でもした方が面白かったかもしれない。と考え始めた僕はそろそろ面白くならなきゃいけない症候群に蝕まれているのだと感じた。
「あんた高校卒業したらどうするの?」
 と母が聞いてきた。学校ではあいつに聞かれ、家では母親に聞かれた。そうなってくるとコンビニに行けば店員も聞いてくるのでは?という訳の分からない結論に至った。そんなことを考えつつも
「まだ考え中。」
 そう伝えた。一体何と何で考え中なのか。
「何と何で考え中なの?」
 そう質問を投げてきた母親に恐怖すら感じた。今の一瞬で同じことを考えたのか。遺伝子とは恐ろしいものだ。
 「芸人かミュージシャン」 
 そんなことが言えたらいいのだが言えるはずもなく
「大学か就職。」
 そう答えた。本当は普通の道なんか進みたくない。憧れの男たちのように波乱万丈、爆笑人生を送りたい。ただそんなことは僕の羞恥心が作用するため言えなかった。
「あんたつまらなくないの?今の生活。」
「つまらん」
 と言いたかったが、変に心配されるのも嫌だったから
「普通。」
 と言ってやり過ごした。
「何か趣味でも見つけな。」
 と言った母に
「趣味はお笑いだよ」
 と伝えた。すると三秒程度の沈黙の後
「え、まじ?超意外。」
 びっくりしすぎたのか若者のような喋り方になり
「じゃあ芸人にでもなれば。あ、でもあんた面白くないから無理か!ハハハ」
 やかましいわ。本当に母親なのか?と疑いたいくらい息子の気持ちがわかってない。今一番言われたくない言葉第一位を見事に的中させた。そういう意味では気持ちをわかっているのか。遺伝子というのは恐ろしい。
 母の言葉を無視して部屋へ向かった。部屋に戻りベッドに身を委ねズボンのポケットに入れたスマホを取り出し、漫才と検索した。そこには学生がやっている漫才が出てきた。興味本位で見始めたが、どの学生も芸人のパクリでただの下位互換だ。あまりの酷さに、自分の方が面白いだろ。と思って一本ネタ書いてみようという気が起きた。いざ机に向かい書こうとしても何も出てこない。芸人たちはこんなことをしていたのか。そう考えながらもなんとか一本完成させたが、あまりの酷さに笑えてきた。ネタは下ネタが大半を占めていた。これならその辺のバカな子供たちの会話の方がよっぽど面白い。こんな漫才を人に見せるくらいならさっき見たエセ漫才を見せる。
「やってられるか!」
 そう言って不貞腐れるようにまぶたを閉じた。

 春休みが夏休みくらいあればいいのにと思ってるうちに春休みに終止符が打たれた。
 新学期が始まりクラス替えが行われた。
 良いか悪いかはわからないが、あいつは同じクラスだ。
 だが春休み中に盲腸になりあいつは登校初日で皆勤賞は途絶えた。
 表向きでは明るいキャラだったため何人か友達はいたが面倒くさくて一人本を読んでいた。
「ねぇ、何読んでんの?」
 という声が後ろから聞こえた。後ろの席の小鳥遊くんだった。珍しい名字だったため彼だけはすぐに覚えられた。ちなみに僕は相馬という名前だ。
「好きな芸人のエッセイ本」
 というと彼は
「まじ?誰?」
「エビシュウマイの迫田さん」
 と僕が返すと
「え!まじ! 俺もそれ読んだ! めっちゃ面白かった! 普通のことなんだけどそれをまぁ面白く書くじゃん! 最高だった!」と急に彼のテンションが上がった。
 僕はびっくりした。
 まさか自分と似たような趣味を持つ人種がこの進学校にいるとは思ってもいなかったから。
 僕も思わずテンションが上がり、
「だよね!迫田さん独特の語り口というか、クスッと笑っちゃう感じ!」と伝えた。
 彼は名字こそ珍しいもののいわゆるイケメンで、高身長の陽キャだったため意外だった。
「他には好きな芸人いる?」
 と小鳥遊くんが聞いてきた
「有名どころで言えばハトポリスさん、トラクターさん、あとは、タジマタジマさんとか筋斗雲さんあと桜大根さんとか、ストーンさんとか」
 と答えると彼は
「桜大根いいよね!あとタジマタジマとかハトポリスとか俺も好き!」
 彼は続けて
「趣味合うね!」
 と眩しい笑顔で言ってきた。
 あまりの爽やかさに僕の中の汚いものはなくなったのではと錯覚してしまった。
「だね!」
 と負けじと笑顔で言ってみるも遠く及ばず完敗だった。
 ただ趣味が合う友達が欲しかったため嬉しかった。
「つかさー。ちょっときてー。」
 下の名前で呼ばれた彼は
「じゃあまた話そ! 相馬くん!」
 と爽やかな笑顔で去っていった。僕が女子だったら確実に彼に恋するだろう。そんなことを考えながら僕は内心とても喜んでいた。
 僕はテンションが高いまま家へ向かった。
 家に着き部屋に向かうと実は春休みも書き続けていたネタの新作を書き始めた。
 なんか今日は調子いいなと思いながら書き終えた。
 ネタを見てみるとそこそこ面白くできた。
 芸人レベルとはいかずとも文化祭などでやればウケるだろう程度だ。
 今までのネタが酷かったため今回の新作が嬉しくなってもう一本書き始めた。
 もう一本の新作もなかなかよかった。
 やはりテンションが高いと良いネタが出来るんだなと思った。
 この日は満足感からか夕飯を食べお風呂に入りすぐに寝てしまった。
 昨日のテンションが残っていたのか今日はいつもより早く起きた。ゆっくりと支度をし学校へと向かった。途中で昨日休んだあいつにが来た。
「俺昨日は大事をとって休んだんだけど行っても平気くらいだったわ。」
 正直休んでくれてよかった。こいつがいたら小鳥遊くんとは仲良くなれなかっただろうから。ありがとう。と心の中で呟いた。
 学校に着きあいつは他クラスの奴らと絡みに行ったためまたエッセイを読み始めた。
「また読んでんだ。」
 小鳥遊くんが言う。僕は恋する乙女のごとく心拍数が激増した。
「今日はタジマタジマの飯野さんのやつ読んでんだ。」と言うと。
「いいね!読み終わったらさ俺にも貸してよ」と小鳥遊くん。
「わかった。読み終わったら言うよ」と言うと
「オッケー」と言い小鳥遊くんは爽やかに去っていった。
 僕は授業中、休み時間、放課後、寝る時間まで惜しんで、読み終えた。好きな男子のために頑張る女子というのはこういう気持ちなのかと思った。
 翌日小鳥遊くんが来たら早く渡そうとワクワクしながら学校に着いた。
 興奮して早く着きすぎてしまった。
 俺は小鳥遊くんに告白でもするのか? という自問自答を脳内で終わらせ、静かに待っていた。
 五分くらい経ちドアが開く音がした。
 恋する乙女が如く開いたドアを凝視しにかかる。
 入ってきたのはあいつだった。
 人が来てしまったから僕はもう鰻くんに告白出来なくなってしまった。
 いや、そんなことはしないけど。
 拓也が
「なぁ、昨日の圭のインスタ見た? めっちゃ面白かったよ」と言ってきた。
 僕はSNSには興味がなく普段もずっとテレビでバラエティを観てYouTubeでネタを観ている。だから
「いや見てないわ」と拓也に言う。
「えーまじかよ。いやなんかさコンビニの店員さんに告白するみたいなことをアップしてて、見事にふられてさ」
「まじで? やば!」と僕は罰金レベルのクソ返答をした。
 コンビニの店員さんにふられてなにが面白いのか。
 動画を撮る必要はあるのか。
 なぜアップするのか。
 勝手に撮られてアップされた店員さんがかわいそうだと思いながら聞いていた。
 楽しそうに話すあいつは輝く芸人の如く自信満々だった。
 お前がその雰囲気出すなと思っていた時、小鳥遊くんが教室に来た。
 小鳥遊くんと一緒に圭という友達が来ていたため拓也は圭の方に行った。
「もう読み終わったから読んでいいよ」ドキドキしながら渡した。
 女子のドキドキ感を知った今、二月のチョコを渡すイベントの大変さが分かった。
 変なことを考えてると
「おー早いね。読ませていただきます。」と何故か丁寧な小鳥遊くんに
「うん」と返事をし、僕は恥ずかしくなり教室を出た。
 やっと気持ちは伝えられた。
 やっと渡せた。
 いやラブレターじゃないんだから。
 という一人ショートコントを脳内で終わらせ、トイレに行った。
 
 三年の一学期も残り一日となった。
 定期テストも可もなく不可もなくなんの変哲もない一学期だった。
 このなんの変哲もない一学期をハット帽の中に入れたらハトにでもなるだろうかと意味のわからないことを考え通知表をもらった。
 ホームルームが終わり帰ろうとしてると
「ちょっと待って」小鳥遊くんだ。
「どうしたの?」と僕。
「あのさ、実はこれに出ようと思っててさ。」とスマホの画面を見せてきた。そこには大手お笑い事務所主催の高校生漫才大会、漫才甲子園と書かれていた。
「え?ほんとに?」と僕が言うと
「一緒に出ようよ。」と小鳥遊くん。
 僕は一瞬思考停止し直ぐに色々と考え始めた。ほんとに僕でいいのか?そもそも小鳥遊くんは本気なのか?なんか遊ばれてんじゃないのか?と。
 小鳥遊くんから告白された女子はみんなこう思うだろうと思っていたら
「お願い!俺これどうしても出たいんだ!今日決めなくてもいいからさ連絡してよ。」と小鳥遊くん。
「わかった。少し考えてみる。」と僕が言うと、よろしくねーと言って小鳥遊くんは急いで帰って行った。
 家に着いて部屋に荷物を置いてリビングのソファにもたれかけた。僕はボーッとさっきのことを考えていた。少し冷静になり、仮に出るとしたら僕はボケなのか?ツッコミなのか?小鳥遊くんはネタかけるのか?などリアルなことを考え始めていた。そんな時母親が仕事と買い物を終えて帰ってきた。
「翔平荷物持ってー」と母親が言ったので
「はいよー」と言い手伝いに行った。ここで言うが僕は相馬翔平という。
「ありがと。あと一学期も終わったんでしょ。そろそろちゃんと考えないとやばいんじゃない?」と母親。
「うん」と僕が適当に返事をすると。
「あんた本当にわかってんの?」と母親が心配混じりに少し声を上げる。
「うん」と僕がまた言う。
「まあ私たちはあんたが健康に過ごしてくれればそれでいいんだけどさ、何かはしなよ。一人旅でも趣味を極めるでも生きがいだけは見つけなさいよ。」と母親が言う。
「うん」とまた言う。正直母親がこんなことを言ってくれると思ってなかったため方の荷が降りた。絶対大学に行けと言ってくると思っていたため少しびっくりしているのもある。だけどこの母親の言葉でやる気が出てきた。その夜小鳥遊くんに「やる!」とメッセージを送った。
 どうやら僕の普通の高校生活がようやく高鳴りそうだ。
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