20 / 61
第2章
密談(20p)
しおりを挟む
近づいてくる足音は、男性らしい。
「ここなら、誰も入ってこない。まあ、かけたまえ」
屏風を隔てて伯爵さまの声がした。密談?息を殺し耳をそばだてる。
「やぁ、美しいお部屋ですな。あの画は実に素晴らしい」
客人は、あの大きな油絵を褒めているのだ。でも内心、裸の少女に驚いているに違いない。
「内密で、大原社長に聞きたいのだが……単刀直入に聞く。若い将校達に軍資金をバラまいているだろう?」
「伯爵様、とんでもございません。誰がそんな噂を流しているのです?軍部は派閥争いが絶えないから。根も葉もないことを言いたてるのでしょう」
「そうか。いや、わしが悪かった。しかし、この間も濱口宰相が東京駅で銃撃された。
”天誅”など思いあがりも甚だしい。若い連中は分別を欠いておる。
『昭和維新』と、意気まいておるが、世界情勢も見えておらん連中に何が分かる」
「いや、まったくです。しかし、ロシアや中国、アメリカまで、満州に手を伸ばしている。弱肉強食の毛唐 と対等外交をするならば、武力を見せつけるしかありません。
日本は富国強兵を目指し、植民地を持つ一等国にならねば、国民が食っていけんのですから。これは、明治時代に鹿鳴館外交が失敗して学んだことでしょう?弱気な外交では、わが西満州鉄道は外国に乗っ取られてしまいます」
「確かに君の言う通りだ。西満州鉄道は、新天地開拓の為になくてはならん。しかし、大原社長、わしは、外務大臣として、なんとか平和的に解決しようと思う。 世界の流れは今、変わろうとしているのだ。”植民地はいかん、民族独立を認めよう”先進国はそう言いだしておる。
世界情勢を理解せず、目先の利害で動くと日本は国際的に孤立して戦争になる。そんな事も分からずに満州の陸軍は、勝手に兵をうごかしたりしてけしからん」
大原?西満州鉄道?どこかで、聞いた名前だけれど?
顔は見えない。が、この声には聞き覚えがある!吉原の”松野屋”で輝にお金を渡した人。彼の名前はたしか…大原さん。伯爵さまには「軍資金など渡していない」と嘘ぶいているが、なんだか怪しい。輝はこんな人から援助を受けて大丈夫なのだろうか……
「ここなら、誰も入ってこない。まあ、かけたまえ」
屏風を隔てて伯爵さまの声がした。密談?息を殺し耳をそばだてる。
「やぁ、美しいお部屋ですな。あの画は実に素晴らしい」
客人は、あの大きな油絵を褒めているのだ。でも内心、裸の少女に驚いているに違いない。
「内密で、大原社長に聞きたいのだが……単刀直入に聞く。若い将校達に軍資金をバラまいているだろう?」
「伯爵様、とんでもございません。誰がそんな噂を流しているのです?軍部は派閥争いが絶えないから。根も葉もないことを言いたてるのでしょう」
「そうか。いや、わしが悪かった。しかし、この間も濱口宰相が東京駅で銃撃された。
”天誅”など思いあがりも甚だしい。若い連中は分別を欠いておる。
『昭和維新』と、意気まいておるが、世界情勢も見えておらん連中に何が分かる」
「いや、まったくです。しかし、ロシアや中国、アメリカまで、満州に手を伸ばしている。弱肉強食の毛唐 と対等外交をするならば、武力を見せつけるしかありません。
日本は富国強兵を目指し、植民地を持つ一等国にならねば、国民が食っていけんのですから。これは、明治時代に鹿鳴館外交が失敗して学んだことでしょう?弱気な外交では、わが西満州鉄道は外国に乗っ取られてしまいます」
「確かに君の言う通りだ。西満州鉄道は、新天地開拓の為になくてはならん。しかし、大原社長、わしは、外務大臣として、なんとか平和的に解決しようと思う。 世界の流れは今、変わろうとしているのだ。”植民地はいかん、民族独立を認めよう”先進国はそう言いだしておる。
世界情勢を理解せず、目先の利害で動くと日本は国際的に孤立して戦争になる。そんな事も分からずに満州の陸軍は、勝手に兵をうごかしたりしてけしからん」
大原?西満州鉄道?どこかで、聞いた名前だけれど?
顔は見えない。が、この声には聞き覚えがある!吉原の”松野屋”で輝にお金を渡した人。彼の名前はたしか…大原さん。伯爵さまには「軍資金など渡していない」と嘘ぶいているが、なんだか怪しい。輝はこんな人から援助を受けて大丈夫なのだろうか……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる